艦これSSまとめ-キャラ別これくしょん-

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不知火

【艦これSS】不知火「延性破壊」

2017/01/08

不知火「──────────失礼します」

不知火「本日付で配属されました、不知火です。ご指導、ご鞭撻、よろしくです」

提督「ん、来たか。待ってたよ」

不知火「申し訳ありません。早速ですがご用件は」

提督「ご用件って、そりゃまあここに配属されたんだしやることは決まってるようなもんだろ」

不知火「…………解体か改修、それとも捨て艦ですか?」

提督「待て待て待て!なぜそうなった」

提督「普通に配属されたってか俺が呼んだんだし、ここで艦娘やるだけだろうに」

不知火「なぜこの不知火を呼んだのですか?」

提督「いや、普通に艦娘やってもらうために……」

不知火「解体ではなく?」

提督「お前を解体したらここの艦娘はゼロになるな」

不知火「では改修の素材に?」

提督「他に誰もいないのにどうして改修しろと」

不知火「……ではやはり捨て艦に……。まあそれもいいでしょう」

提督「んなことする機会もなければ意味もない」

不知火「ではなぜ不知火を呼んだのですか?とても疑問なのですが」

提督「俺は不知火の中での『艦娘像』ってのがとっても疑問だよ!」

提督「話を整理しよう。まず君は今日からここの艦娘、OK?」

不知火「…………………………」

提督「で、君の仕事は『普通に』艦娘してるだけ。ただそれだけ」

不知火「…………………………」

提督「俺からは以上。何かある?」

不知火「────────それは命令ですか?」

提督「えぇ…………」

提督「まあ命令っちゃ命令……、になるのかなぁ」

不知火「そうですか。わかりました」

提督「お、聞き入れてくれた?」

不知火「ええ、まあ。ご命令ならば」

提督「良かった良かった。不知火からは何かある?」

不知火「ありませんよ。あるはずもないです」

不知火「────────兵器はただ、命令に従って動くだけですから」

提督「えぇ……………………」

不知火「司令、不知火の行動に対してご命令を」

提督「特にないな。フリーだ」

不知火「そうですか。では出撃待機しています」

提督「いや、別に出撃させる予定もないし楽にしてていいけど」

不知火「戦場とは『想定外』の巣窟です。予定など最後まで通るはずがありません」

提督「まあ一理ある……」

不知火「ですのでこの不知火、部屋で待機しています。出撃とあらばいつでもお呼びください」

提督「だから少なくとも俺は出撃させる気がないと」

不知火「こちらにその気がなくとも、敵は攻めてきます」

不知火「……それに、これが『普通の艦娘』というものではないのですか?」

提督「んー、間違っちゃいないから困るな……」

不知火「では、部屋にて待機していますので。これで失礼します」

提督「……………………」

提督「生真面目というかなんというか……」

提督「表情一つ変えないんだなぁ」

提督「でも艦娘なんて数多といるし、あんな子もいておかしくはない」

不知火「司令、あの」

提督「ん、どうした?」

不知火「大変に申しあげにくいことなのですが……」

不知火「不知火の部屋はどこですか?」

提督「──────────────」

不知火「…………司令?」

提督「あー、ごめん教えてなかったな。今行く」

提督(ドアから顔だけ出して聞いてきた可愛い)

──────────────────────────────

──────────────────────────────

不知火「不知火が秘書艦、ですか?」

提督「何気に仕事量が多くてなー、頼まれてくれる?」

不知火「あ、いえ、まあ…………」

提督「…………もしかして、秘書官やったことない?」

不知火「…………申し訳ありません」

提督「いや、謝ることじゃないけど。他の鎮守府にいたって秘書になれるのは一人なんだ」

不知火「……………………」

提督「とりあえずお願いできる?別に難しいことはないし」

不知火「ほ、本当に不知火でよろしいのですか?」

提督「そりゃ、今は頼めるのが不知火しかいないわけで」

不知火「不知火しか…………」

不知火「────────────────」

不知火「わかりました。やってみます」

提督「よっしゃ決まりだ。まあ断られたら困ってたんだけど」

不知火「命令に忠実に従うのが兵器の…………あ」

不知火「司令、これは命令ですか?」

提督「命令ってかなんというか……」

不知火「どちらですか、司令」

提督「……任意同行みたいなやつかな」

不知火「と、いいますと?」

提督「強制ではないけど選択肢はほぼひとつしかない。つまりほとんど命令」

不知火「了解しました。命令ならば全力で任務を全うします」

提督「命令じゃないと聞いてくれないんだな不知火は」

不知火「はい。命令とあらばどんなことでも遂行します」

提督「どんなことでも?」

不知火「はい、どんなこと────────」

不知火「何をお考えですか」

提督「な、なんのことかなぁ……?」

不知火「……まあいいです。詮索しても無意味ですから。司令、早く仕事してくれますか」

提督「不知火は切り替えも早いんだな」

不知火「そうですか、ありがとうございます」

提督「それくらいドライなほうが秘書には向いてるのかもしれない」

不知火「そうですか、ありがとうございます」

提督「不知火は可愛いなー」

不知火「そうですか、ありがとうございます」

提督「…………さっきからその蔑んだ目で見るのやめてもらえないでしょうか」

不知火「それは命令ですか?」

提督「提督からのお願いです」

不知火「お願いですか。では続行します」

提督「待って!今のミス!これ命令、命令だからやめてください」

不知火「命令は敬語なんて使いませんよ」

提督「やめろください」

不知火「……………………」

不知火「──────────ふっ」

提督「お、ここに来て初めて笑った」

不知火「………………!笑ってません。兵器と感情は共存しません」

提督「誤魔化さなくていいのに。可愛かったし」

不知火「いいですから。司令は早く仕事を始めてください」

提督「お厳しい」

不知火「早く」

提督「…………はい」

不知火(笑った、か)

不知火(ここに来て初めて笑った……)

不知火(なるほど、それもいいかもしれないわね)

不知火(でも『ここに来て初めて』というより、むしろ──────────)

提督「不知火、ちょっとそこの書類取ってくれる?」

不知火「…………。どうぞ」

提督「ん、ありがとう」

不知火「──────司令」

提督「ん?」

不知火「あの…………、いえ。やっぱりなんでもありません」

提督「そう?まあいいけど」

不知火「……………………」

此処は、不知火が『普通の艦娘』として存在することを、許してくれますか?

不知火「ふあ~……あっ……んん」

提督「まあ眠くもなるよな、この作業」

不知火「っ!申し訳ありません、今のは忘れていただけると……」

提督「そう言われると覚えてるのが本能らしいぞ」

不知火「じゃあ絶対に覚えててください」

提督「よし来た、絶対覚えててやる」

不知火「待って」

不知火「話が違いませんか、司令?」

提督「なんのことだね?」

不知火「『忘れて』と言うと覚えてるんですよね?その理屈なら『覚えてて』なら忘れるのでは?」

提督「あ、不知火明日あたり出撃するから覚えててな」

不知火「…………!了解です」

提督「それと冷蔵庫にあった不知火のプリン食べといたけど忘れて」

不知火「は?」

提督「そういうこと」

不知火「……………………あっ」

不知火「司令、今のは少し狡いと思うのですが。唐突すぎませんか?」

提督「人間観察するって宣言してから実行するのはいないと思うんだ」

不知火「それにしても、です」

不知火「……ところで出撃というのは本当なのですか?」

提督「嘘」

不知火「…………プリンの件は」

提督「それは本当」

不知火「は?」

提督「まあまあ、こんど倍の量買ってあげるから。てかそんなに出撃したいのか?」

不知火「当たり前です。兵器の唯一の持ち場は戦場ですから。不知火は兵器です」

提督「その割に『人間観察』って言葉にはすんなり反応してたよな」

不知火「あ、あれは……」

提督「兵器と感情は」

不知火「共存しません」

提督「さっき怒ってたよな」

不知火「……………………」

提督「それとプリン食べてない」

不知火「……今なんと」

提督「不知火のプリン、食べてない」

不知火「確認してきます」

不知火「……………………、ん」

不知火「ありました」

提督「だから食ってないって」

提督「そして今喜んだよね」

不知火「……………………」

不知火「司令」

不知火「────────不知火は、兵器なのですか?」

提督「……兵器に感情は?」

不知火「ありません。そのほうが好都合ですから」

提督「じゃあ不知火は兵器じゃないんだろう」

不知火「不知火は…………」

提督「っと、こんな時間か。早いとこ片付けないと徹夜することになるぞこれ……」

不知火「……っ、それは困ります。すみませんでした、仕事に戻りましょう」

提督「優秀な秘書がいるから楽だな」

不知火「お世辞は結構です。これが初仕事なんですからそんなはずはありません」

提督「いや、けっこう本気で言ったんだが」

不知火「……ひとつ質問よろしいですか?」

提督「ん、おう」

不知火「────────プリン、今の倍の数を買っていただけるんですよね?」

提督「…………えっ」

提督「いや待て、あれは流れというかなんというか……その前にそもそも食べてないから!」

不知火「別に、『食べたお詫びに』みたいなことを言った覚えも言われた覚えもありませんが」

提督「……くそぅ、一本取られた」

不知火「承諾したのね。約束ですよ?」

提督「わかったわかった、それくらい構わないさ」

不知火(自分が何者なのかもわからない。でも、不知火はこう考えます)

不知火(────これは『楽しめ』ってことなのでは)

不知火(ならば存分に、楽しんでも許されるはずです)

不知火(いままでの分も、此処でなら…………)

不知火「ふふっ」

提督「どうした、やけに機嫌良さそうだが」

不知火「あ……、いえ。なんでもありません。お気になさらず」

提督「そうか。今のは完全に笑ったな」

不知火「ええ、笑いました。笑いましたよ、笑えるんですから」

不知火「『笑ってもいいんですから』」

───

──────

─────────

────────────

提督「よし、今日もありがとう」

不知火「いえ、構いませんよ。これが不知火に課せられた命令なんですから」

提督「ははは……まあ命令ってほどお堅いものじゃないんだけどな」

不知火「それでは今日は失礼します」

提督「ん、明日もまたよろしく頼む」

不知火「はい。明日も、また……」

不知火「──────────もちろんです」

 

 ここに来て、初めて秘書艦というものをやって、早くもひと月が経ちました。

 同じような書類を処理して同じような会話をして

 同じような毎日というのは以前と何ら変わりません。

 でも、同じように見える日々も、決して景色は同じじゃない。

 変わったことがあります。それは僅かに、しかし明確に

不知火「何でしょうね、司令?」

不知火「あ………………」

不知火「もう部屋に着いてしまったのね」

 

 一人しか寝ないくせに二段もあるベッド。
 綺麗な床にぽつんと置かれた華奢なテーブル。
 着飾る様子もなく程よい純白を示す壁紙。
 淡いピンク色をしたカーテンのほうが目立つほど小さな窓。
 窓際に居座るのは持ち込んできたぬいぐるみ。

 居座る人形は誰にも知られず、いつも一緒に二日で消えた。もちろんそこにそれがあったことも、それの持ち主が誰なのかも、そもそもぬいぐるみ共々持ち主の存在さえも、誰も気に留めようとすらしない。いや、気に留めないようにしているのだろう。

 『それが一番幸せになれるのだから』

 きっとそう信じ込んでいるし、信じ込ませている。

 でも残念、今回は予想が大外れ

 想定外に長く居座っているぬいぐるみが一番幸せそうに見える。少なくとも自分の目にはそう映っているのだ。

 気のせいか思い込みか……。だがもっと有力な仮説がある

 ───────自分が、不知火自身が幸せだから。

不知火「『また明日も』、ですって」

不知火「明日も、また………………」

不知火「そうですか。いいですね、明日も…………ふふっ」

不知火「明日も……、明日からも」

不知火「同じような毎日が続きますように」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 
 目を開いた。

 冷たい光

 突き刺さる声

 右手を見ると、初めて見るわけじゃない気がする白い手袋。

 また艦娘として生まれたのだ。でもきっと、ここに自分の居場所はない。それは今までの経験からわかるもの。どんな経験かは覚えていない。

『おい、今日の建造は誰だった?』

『不知火?なんでよりによって不知火なんだよ』

『まあ別に最低値だしな、解体も改修も変わらんだろ』

 改修しても、陽炎のように火力は上がらない。雪風のように対空は上がらない。

 特型や白露型よりは高性能な陽炎型だが、その中で突出するような能力もない。

 だから解体されるし、捨て艦にされる。序盤海域で補給なしの伴走が関の山だ。それでも誰かの役に立てるなら、そのほうがマシとすら思うようになっている。

「不知火です。ご指導、ご鞭撻──────」

『あー、はいはい。うちにはもう居るんだ。君の行くところあの部屋』

「……………………わかりました」

『ほう?物分かりがいいじゃないか』

 
 指差された方向の部屋が何なのか、大体の想像はできるようになった。艦娘を解体するための部屋だ。

 ここはきっと大きいから、別の「不知火」がもう存在する。だから解体される。実に簡単な理屈だろう。
 当たり前であり、合理的だ。潜水艦のように特別な攻撃を繰り広げるわけでもなく、突出した能力があるわけでもない普通の駆逐艦などいくつも所持する理由がない。

 ここで解体され、また彷徨い、またどこかへと配属される。そしてそこでまた、用無しにされる。同じことの繰り返し。

 運よく艦隊に正式に入れてくれるような鎮守府は新設のところ。そこも強くなればなるほど、自分のような駆逐艦を使わなくなる。そうしてまた棄てられる。

 こんな連鎖から抜け出すこともできず……、抜け出そうともせず

 命令してきた男の背中を横目にして、またこの連鎖へ導く部屋へと自ら入るのだった。

『待て』

「…………………………」

『よかったな。今電話が入って、ちょうどお前を譲ってくれって鎮守府があったんだ。物好きな奴だ』

『てことで、かなり急だがそっちに転属命令。解体よりはいいだろう?』

 
 笑い飛ばす男は、あくまでここでの解体を免れたに過ぎないことを知らないでいる。

 それでも僅かな可能性に賭けて、自分を最後まで必要としてくれる鎮守府を探して

 その男に言われた鎮守府を目指してしまう自分が憎い。

 今度は大丈夫、自分の望む鎮守府だなんて、そんなものはただの希望論でしかないはずだ。

 それでも行かなきゃいけない

 繰り返さないといけない

 さもなくばこの身は、不知火は…………

 

──────────────────────────────

『命令は絶対だ。何があっても忠実に遂行しろ』

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

不知火「………………、」

 
 ──────敵襲ノ恐レアリ

不知火「違う」

 
 ──────来ルナ。

不知火「命令じゃない。命令じゃなかった」

 
 ──────色々な光景を見ました

不知火「命令ではなく忠告。これは忠告だったはず」

 
 ──────イロイロナ コウケイヲ

不知火「でも…………」

 

 ──────ミ マ シ タ 。

 

 ワタシハ ミテイルダケ。

 見テイマス。

 いつでも、いつまでも。

不知火「……もう、忘れないといけないわね。じゃないと司令が心配します」

不知火「もう起きてるいのかしら」

不知火「朝ごはん……まだのはず。早めに行って用意でもしますか」

不知火「きっと喜んでくれます。腕に自信があるわけではないですが」

不知火「行ってみないと分かりませんね。早速……………………っ」

不知火「……まだ業務時間外もいいところね」

────────────

─────────

──────

───

不知火「おはようございます」

提督「あれ、今日は早いんだな。眠れた?」

不知火「ええ、いつも通りに」

提督「そうか。無理に早起きでもしてるのかと思ったよ」

不知火「昨日は寝るのが早かったので、朝起きるのも早かった。それだけの話です」

提督「早寝早起きか。やろうとするとできないんだよね、あれ」

不知火「不知火の理想は遅寝早起きなんですけどね」

提督「なぜ?」

不知火「そうすれば司令とできるだけ長く──────」

不知火「……できるだけ長く、秘書の任に就けますから」

提督「はは、ありがたいな。無理はするなよ」

不知火「…………無理をしてでも、です」

提督「えっ?」

不知火「特に意味はないですよ。ふふっ」

提督「ま、いっか。今日もいつも通り始めますかねー」

不知火「はい。早く終わらせましょう」

提督「不知火の早寝早起きのためにもな」

不知火「だから!不知火は遅寝早起きがしたいんです」

提督「じゃあ俺が早寝早起きをしたい」

不知火「……では不知火もそうします」

提督「おいおい、急に主張を変えるなよ」

不知火「司令が早く寝るのなら、意味がないですから」

提督「…………?」

不知火「ふふふっ……♪」

提督「不知火が早く来たからまだ時間があるな」

不知火「そうね……。どうしましょう」

提督「早く初めて早めに終わらすってのも有りだ。不知火は?」

不知火「不知火は…………そうですね」

不知火「──────時間までのんびり過ごしたい、です」

提督「なんだかんだでいつも終わるしなぁ、じゃあそうしよう」

不知火「…………!感謝します」

───

──────

─────────

────────────

提督「それで、だ」

提督「……どうしてこうなった」

不知火「……………………」

提督「せめてなんか喋ってほしいよね」

不知火「……………………司令、あと何分こうしてれば良いのですか」

提督「いや、自分で作った状況だろ……」

不知火「だ、だって!」

不知火「まず、司令がお疲れのようなのでソファに座りました」

提督「座ったな」

不知火「つまり、秘書艦として不知火も座らなければなりません」

提督「そんなことはないと思うけど」

不知火「そして不知火も座りました。でもこのソファは狭いです」

提督「普通に座れば4人はいけるんだが」

不知火「つまり何が言いたいのかというと」

提督「…………………………」

不知火「─────司令の肩、暖かいです」

提督「まあそこが居心地いいならいいんだけどさ」

不知火「お邪魔だったら言ってください」

提督「正直なとこ少し動きにくい」

不知火「そうですか」

提督「………………」

不知火「………………」

提督「あ、退くわけじゃないのね」

不知火「……………………退いたほうがよろしいですか?」

提督「……………………不知火の自由にしていいけど」

不知火「自由に、ですか。なるほど」

不知火「──────────ではそうします」

────────────

─────────

──────

───

提督「不知火ー、しーらーぬーいー」

提督「そろそろ時間だし起きてほしいんだけどなぁ……」

不知火「…………………………」

提督「まあいっかー、どうせ今日もなんとか終わるだろ」

不知火「んー…………」ギュッ

提督「あらら、利き腕固定されちゃったし」

不知火「…………………………」

提督「まあ、いいか」

不知火「…………………………」

不知火(もう少しだけ、寝たふりが通用しそうね。寝てる設定ならどう甘えても許されるはず────)

提督「……寝てるならきっとばれないよな」ポンポン

不知火「ひゃいっ!?」

提督「うお、びっくりした……。ごめん起こしちゃったか」

不知火「司令、い、今何を」

提督「何って、寝てるんだしちょっとだけ髪を触ってみたいなーと」

不知火「そ、それなら不知火に断りを入れてからにしていただけますか」

提督「んなことしたらダメって言うだろ?」

不知火「わかりませんよ?」

提督「じゃあ髪を触らせてください」

不知火「ダメです」

提督「言わんこっちゃない、だから寝てる間がチャンスだと思ったのに」

不知火「………………恥ずかしいからダメです」

提督「…………なんか言ったか?」

不知火「いえ、特には」

提督「じゃ、不知火も起きたし始めるか」

不知火「ええ、早く片付けてしまいますか」

提督「今日もよろしく頼む」

不知火「期待に応えて見せます」

不知火(寝たふりもいいものです。しかし………)

不知火(『目を瞑っていなければダメ』というのが頂けませんね)

提督「よーし、一段落ついたし休憩にするか」

不知火「お疲れさまです、司令」

提督「おう、不知火も」

不知火「…………ふふっ」

提督「ん?いま笑うとこあったか?」

不知火「いえ、執務中より休憩中のほうが好きなので」

提督「そりゃそうだろ、休憩は偉大だ」

提督「なんか飲む?」

不知火「そういうことなら不知火が」

提督「いいのいいの、いつも頑張ってくれてるし」

不知火「で、ですが……」

提督「いいから座って待ってなさい」

不知火「……では今回はお言葉に甘えて」

提督「何がいい?俺はコーヒーにするけど」

不知火「不知火もそれで構いませんよ」

提督「お、コーヒー飲めるのか」

不知火「……飲んだことはありません」

提督「大丈夫なのかなそれ……」

不知火「きっと、恐らく」

──────

───

──────

提督「はいよ」

不知火「ありがとうございます」

提督「でもほんと大丈夫か?一応甘くしたつもりだけど」

不知火「お心遣い、感謝です」

提督「まあ俺は苦いのが好きだからそれをベースにしたしわからんけど」

不知火「司令の手作りです、飲まないわけには……っ!」ググッ

提督「おいバカ、そんな一気に飲んだら」

不知火「……………………」

提督「…………生きてるかー?」

不知火「…………司令」

提督「良かった、生きてた」

不知火「……熱めの……緑茶を…………」

提督「それまた苦いやつなんじゃ……。まあいいや」

───

──────

───

提督「へいお待ち」

不知火「…………っ、……っち!?」

不知火「…………猫舌も忘れていました」

提督「こんどは一気飲みする前で良かったな」

不知火「しっかりとふーふーしてから飲みます」

提督「……ふーふー?」

不知火「……不知火に何か落ち度でも?」

提督「い、いや、なんでもない」

不知火「あらそう。いいですけど」

不知火「…………ふー、ふー」

提督(かわいい)

────────────────
────────────────
────────────────

不知火「早く、早くしてください」

提督「そんなはしゃぐなって。きっと残ってるだろうし」

不知火「はしゃいでません」

提督「顔だけな」

不知火「…………」グイッ

提督「こらこら、引っ張るな」

不知火「プリン」

提督「そう簡単に売り切れないよ」

不知火「…………むー」

提督「ふくれっ面しない。ほら、行くぞ」

提督(不知火もだいぶ変わったなぁ。最初は何事かと思ったけど)

提督(相変わらず表情は変えないのに、顔以外で態度が表に出ちゃってるし)

提督(最近では休憩中とかに甘えてきたりするし)

提督(……やっぱり艦娘一人じゃ寂しいか)

不知火「着きましたよ、司令」

提督「ん、早いな」

不知火「早く行きましょう。売り切れます」

提督「だからそう急かすなって、そんな楽しみだったのか?」

不知火「…………いえ、べつに」

提督「なぜそこで見栄を張るのか」

──────

───

──────

不知火「ありました!こっちです」

提督「はいはい、倍の数だから2個ね」

不知火「10個ですが」

提督「えっ、いや1個の倍は2個だろ?」

不知火「あのとき5個ありました」

提督「えっ」

提督「冗談だよな?」

不知火「あの冷蔵庫、奥行きがありますよね」

提督「…………冗談だよな?」

不知火「いえ、5個ありました」

提督「」

不知火「5個の倍は10個ですね」

提督「」

不知火「自分で言いましたよね、倍の数って」

提督「」

不知火「司令」

提督「……………………はい」

──────

───

──────

不知火「さっそく帰ったら食べますか」

提督「10個も一気に?」

不知火「まさか。もちろんひとつですよ」

提督「まあ不知火が満足してくれてよかった。本当にプリンに目がないのな」

不知火「でも今日のは特別です。司令の奢りですから」

提督「もう適当な発言はしないぞ……」

不知火「ええ、そんなに何回も奢られても困るわね」

不知火「……希少価値、というのが薄れますから」

提督「……そんな喜んでくれるならまた奢ってあげてもいいかなと」

不知火「決定ね」

提督「あ、いま狙ったな!」

不知火「『適当な発言はしない』と言った直後に引っかかる方にも責任はありますよ。ふふ……♪」

不知火「帰ったのね。早くプリン食べたいです」

提督「っと、その前にやることがある。今日は建造するぞ」

不知火「…………建造、ですか?」

提督「艦娘一人じゃさすがに心細いだろうし」

不知火「そんなことはありませんが……」

提督「そう?」

不知火「ええ、大丈夫ですよ」

提督「…………まあ、とりあえず建造だ」

不知火「結局建造はするのね」

提督「決定事項だからな。敵が攻めてこないといっても、万が一のとき駆逐艦一人じゃ厳しいだろ?」

────────────

─────────

──────

───

不知火「と、いうわけで建造した結果」

暁「暁よ。一人前のレディとして扱ってよね!」

不知火「…………不知火のプリンが狙われています」

暁「10個もあるんだし一人で食べるのは大変でしょ?」

不知火「いえ、食べきれますのでご心配なく」

暁「……す、少しくらい手伝ってあげてもいいのよ?」

不知火「結構です」

提督「はは、まあそう言わずにひとつくらいあげたらどうだ?」

暁「べ、別に欲しいわけじゃないしっ」

不知火「なら尚更いらないですね」

暁「っ……、レディはそんなもので釣られないもん!」

提督「不知火は優しいから、ちゃんと言えばきっとくれるさ」

暁「ほ、欲しいわけじゃないってば!」

不知火「今日のはあげませんよ。司令がくれたものですから」

提督「んー…………」

提督「そうだ不知火、俺にプリンくれる?」

不知火「司令にですか?……構いませんけど」

提督「ありがとう」

暁「ちょっと!なんで司令官にはあげるのよ!」

不知火「司令に買ってもらいましたし」

暁「うぅ…………」

提督「暁ー、こっち来て」

暁「何よもう……」

提督「とりあえず口開けてー」

暁「ん……ほ、ほう?」

提督「──────────」

暁「──────────!」

不知火「──────────!?」

暁「ちょっと!なんで勝手に食べさせてるのよ!」

提督「二人ともなんか意地張ってるみたいだから」

暁「だ、だからって急に……!」

不知火「………………司令」

提督「ごめんて、暁も食べたかったんだよ」

暁「れ、レディはそんなものに釣られないってば!」

提督「美味かったか?」

暁「え、ま、まあ……美味しかった、けど…………」

不知火「────────司令」

不知火「不知火にもお願いします」

提督「…………えっ」

不知火「いけませんか?」

提督「いや、いいんだけど。じゃあ口開けてー」

不知火「あー………………、んっ」

不知火「……………………」

不知火「まあまあね」

提督「よかったよかった」

暁「……そこは『美味しい』って言うところだと思うわ」

提督「不知火にして美味しいって意味なんだろ、きっと」

暁「そうなの!?」

不知火「これでこの後の出撃も頑張れます」

不知火「出撃、も…………」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「状況報告、僚艦一隻大破。進撃は危険です」

『進め』

「……ですが」

『聞こえないか、進撃と言っている』

「……進撃すれば轟沈の恐れがあります」

『もともとそういう運用だ。忘れたのか?』

『いいかよく聞け、命令は絶対だ。何があっても忠実に遂行しろ』

「………………っ」

 隣でボロボロに傷ついた小さな身体。会話は聞こえていたはずなのに、彼女はなぜか、余裕のある表情で黙ってついてくる。足元では白い波が帯を引き、冷たい海の風は顔を叩くようにして吹いていた。
 ここは簡単な海域。でも大破している艦に"簡単な海域"など存在しない。一発でも被弾すれば瞬く間に──────

 だから今度は護らなければいけないのだ。傷ついた彼女を護らなければいけない。今度こそは自分が沈むようなこともないように
 たとえ命令であっても、今回ばかりは抗い抜きたい。

 

 息を止めて、

 一秒、二秒、三秒。

 瞼を持ち上げる。

 明るい光と共に三つの影

 敵艦隊、発見。

「…………沈め。沈め!」

 
 重々しい旋回音。

 敵艦捕捉

 主砲、撃ち方始め。

 鈍く響いた砲声と共に硝煙が上がる。
 
 鼻をつくようなこの匂いは嫌いじゃない

 数秒遅れて上がるのは黒煙。命中

 即座に傷ついた彼女の前へ飛び出ると、少し不思議そうな顔をされた。

「どんな状況の出撃でも、沈まない努力はするべきです」

「僚艦が大破して回避が困難なら、不知火が庇うまで」

 振り向きざまに言い放った途端、鈍い衝撃が体を駆ける。被弾

 でも大丈夫、小破未満。自慢じゃないが練度が低いわけではない。もし傷ついた彼女に当たっていれば一溜まりもなかっただろう。

 一息つく間もなくして連続で被弾、小破。少し油断していた

 魚雷管への被害はない。

 

 そのままの位置で庇いながら大きく息を吐き出し、一発。

 こちらの魚雷は一本。雷跡はほとんど残さない

 向こうからは白い筋を描きながら二本。

 まともに受け止める覚悟だった。後ろにいる彼女には絶対に当てさせない。今度は護ると、心に決めたから

『──────"旗艦が庇う"なんて、おかしな話でしょう?』

「──────!?」

 声の主は前

 ボロボロの服と艤装を纏って立ちはだかっている。

 さっきまで後ろにいた彼女はいつの間にか前に移動していた。

 庇った気でいたなんて馬鹿馬鹿しい。

 二本の筋は容赦なく向かってくる

 間に合わない。でも間に合わせる

 数秒遅れを取り戻すべく再び庇おうとしたとき、

 その顔は一瞬だけこちらへ振り返り

 細く笑みを浮かべて

 口が動きかけ

 爆音。

 数秒前まであった人影は、波に飲まれて見当たらない。

 足を止めると膝から崩れ落ちそうだ。

 結局、また護れなかった

 また、命令に従ってしまった

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

暁「……………………ぬいー、しーらーぬーいー」

不知火「っ!敵襲ですか?」

暁「もう、何言ってるのよ!今から出撃なんだししっかりしてよね、旗艦さん」

不知火「あ…………、ごめんなさい」

暁「……なにかあったの?」

不知火「少し考え事をしていただけ、平気です」

暁「そう。じゃあ行きましょう?絶対MVP獲って、一人前なんだって見せつけるんだから!」

不知火「どうかしらね。不知火が貰っていきますよ」

暁「つ、強気じゃないの」

不知火「当たり前です」

不知火「MVPはちゃんと、褒めてもらえますからね」

────────────────────

────────────────────

不知火「作戦が終了しました」

提督「お疲れーって、その子は?」

夕立「こんにちは!白露型駆逐艦、夕立よ。よろしくね!」

暁「なんかね、敵に勝ったらいつの間にか居たの」

提督「なんだそれ……。まあ仲間が増えるのはいいことだけど」

提督「あ、不知火」

不知火「……そうでした、作戦報告」

不知火「鎮守府正面海域の駆逐艦1を殲滅。MVPは」

不知火「──────MVPは暁、です」

提督「ほう、暁か」

暁「わかったでしょ、もう子供じゃないんだから」

提督「はは、ごめんな。えらいぞー暁」

暁「当たり前……………………って、あれ?」

暁「頭をなでなでしないでよ!もう子供じゃないって言ってるでしょ!」

夕立「暁ちゃんズルいっぽい!提督さん、あたしも褒めてー」

暁「な、なんで夕立が入ってくるのよ!?」

夕立「んー……褒めてもらうためっぽい?」

提督「夕立はなんか褒められるようなことしたっけな……」

夕立「えっと…………そう、提督さんの艦隊に配属されたよ!」

暁「……それって理由でいいのかしら」

提督「まあいいんじゃないかな。ありがとなー夕立」

夕立「えへへっ♪」

不知火「…………………………」

不知火「……つまらないわね」

───

──────

─────────

────────────

提督「ふぅ、なんとか二人とも満足して帰ってくれたか」

不知火「お疲れでした」

提督「ん、不知火も出撃お疲れさん」

不知火「……大したことはありません」

提督「よし、そろそろ執務に戻らないと」

不知火「不知火もお手伝いします」

提督「うん、ありがとう」

不知火「………………」

提督「えっとまずは……ここはこれでいいのかな」

提督「で、さっきの出撃か。新規艦の夕立、と…………」

不知火「──────────」

提督「補給は…………完了」

提督「MVPはっと………………」

不知火「──────────っ、」

不知火「司令」

提督「どうした?」

不知火「…………不知火も頑張りました」

提督「そうだな、よく頑張ってくれた」

不知火「はい」

不知火「………………いえ、そうではなく」

不知火「不知火も頑張ったんですよ。暁や夕立みたいに」

提督「お、おう?」

不知火「ですから」

不知火「不知火も頑張ったんです…………よ?」

提督「……………………あぁ、そうだったな」

提督「ありがとう、不知火」

不知火「ん…………、ふふっ」

不知火「────────つまらないわね……♪」

夕立「提督さん、遊びに来たっぽい!」

暁「もう、朝は挨拶からでしょう?」

提督「二人とも朝から元気がいいな。起きるの早かったのか?」

夕立「なんかね、暑くて目が覚めちゃったの」

提督「あー……、最近暑いしな。で、二人して遊びに来たと」

夕立「うん!」

暁「ばっ、ち、違うわよ!暁は手伝いに来たんだからね」

夕立「でも暁ちゃん、『提督さんのとこ遊びに行こう』って誘ったらすっごく喜んでたっぽい」

暁「~~~~~っ!!バカバカ、それは言わないって約束したでしょ!」

提督「ははは……。そういえば不知火は?」

夕立「あ、そうそう。ちょっと遅れるっぽいよ」

提督「寝坊か?不知火にしては珍しいけど」

暁「聞いた感じだとそんな様子はなかったわ」

提督「んー……まあいっか、遅れるってわかれば」

不知火「──────遅れました、申し訳ありません」

提督「お、来たか。別に大丈夫だぞ」

夕立「不知火ちゃん、寝坊しちゃったの?」

不知火「違います。むしろ暑くて早く目が覚めたわね」

暁「暁たちと同じね」

不知火「……ところでなぜ二人もここに?」

提督「夕立は遊びに来たらしくて、暁は」

暁「手伝いよ。夕立とは目的が違うんだから!」

夕立「でも暁ちゃんさっき──────」

暁「だーかーらー!」

提督「………………まあそういうこと。随分賑やかになったな」

不知火「不知火は賑やかなほうが好きですよ」

提督「そうなのか?イメージと真逆だった」

不知火「…………司令とならどちらでも構いませんけどね」

提督「え?」

不知火「…………なんでもありません」

不知火「夕立は遊びに来たとしても邪魔にならないようにしてくれるかしら」

夕立「っぽい!」

不知火「暁は手伝いに来たなら、それなりにお願いしますよ」

暁「と、当然よっ」

提督「……的確な指示だな」

不知火「……これでも一応、『司令の秘書官』ですから」

──────

───

──────

不知火「ここ、間違っています」

暁「えっ?あ、ほんとに?」

不知火「……不知火も最初はよく間違えていましたから」

暁「そ、そうなんだ……。秘書のお仕事も大変なのね」

不知火「ええ、まあ。それなりには」

暁「でもレディならこのくらいできて当然よね!頑張るわ」

不知火「…………『レディ』の基準が漠然としすぎて理解できないわね」

夕立「あー!提督さんまた手が止まってるよ?」

提督「仕方ないだろう、字を書いてるんだから。それに手が止まることも多いって言っただろ?」

夕立「そうだけど……。提督さん左手は空いてるっぽい」

提督「右手と左手で全く別の目的をこなすって案外難しいんだぞ」

夕立「夕立と遊んでくれるって約束したもん!この前みたいにちゃんと撫でてくれないとダメ!」

提督「撫でられるのって遊びなのかな……」

不知火「夕立、邪魔はしないと言ったはずよ」

夕立「あぅ…………」

不知火「そもそも膝の上に座ってるだけで十分だと思うのですが」

夕立「うぅ、我慢するっぽい…………」

提督「あれ、なんか不知火いい匂いする」

不知火「……そうかしら」

暁「たしかに。なんかシャンプーみたいな香りね」

夕立「朝からシャワーでも浴びたっぽい?」

不知火「汗をかいていたので、少し」

提督「じゃあ遅れた理由ってそれ?」

不知火「…………………………」

不知火「……司令と一緒に居るのに汗臭いのは気が引けますから」

夕立「不知火ちゃん、けっこう乙女っぽい!」

暁「これぞレディって感じね」

不知火「………………うるさい」

────────────────
────────────────
────────────────

暁「これでお仕事終了ね、ふぅ」

夕立「けっこう遅い時間になっちゃったっぽい」

提督「慣れないのに遅くまでごめんな」

不知火「不知火にとっては日常茶飯事ね」

提督「申し訳ない……」

不知火「ふふっ、平気ですよ」

提督「遅くなったけどもうみんな寝るといい。明日は早起きしなくてもいいからさ」

暁「こ、これくらいへっちゃらだしっ」

夕立「あたしも早起きしてまた遊んでもらう!」

提督「早起きしなくたって遊んでやるから安心しなさい」

提督「不知火も遅くていいからな。気が向いたら的な」

不知火「いいのですか?」

提督「ああ、ゆっくりシャワー浴びられるぞ」

不知火「っ………………、そうね」

暁「ね、ねえ司令官?その……部屋まで見送ってくれてもいいのよ?」

提督「はい?」

夕立「……暁ちゃん、怖がりっぽい?」

暁「ちっ、ちがっ、レディがお化けごときに怖がるはずないでしょう!?」

提督「大丈夫だって、丑三つ時にはまだ早いし」

夕立「うしみつどき……?」

提督「その時間は活発になるんだとか。暁が怖がってるらしいものが」

不知火「……………………」

暁「」ガタガタ

夕立「やっぱり怖がってるっぽい」

提督「夕立は大丈夫なのか?」

夕立「ぽい!」

提督「はは、お前は気にしないか」

提督「……不知火は心配ないよな」

不知火「っ…………ええ、もちろんです」

提督「仕方ない。夕立、暁と寝てあげてくれる?」

夕立「はーい!」

提督「よし、なんか余計なこと言っちゃったみたいだし部屋まで送ってくかね」

────────────

─────────

──────

───

提督「じゃああとは頼んだ」

夕立「任せるっぽい!」

暁「し、し、司令官?何もお、起こらないわよね?」

提督「大丈夫だって、ちゃんと寝てりゃ」

暁「ほんとに……?」

提督「ほんとほんと、だからちゃんと寝るんだぞ?」

暁「寝なかったら?」

提督「保証しない」

暁「おやすみなさいっ!」

夕立「あ、もう!提督さん、おやすみなさーい」バタン

提督「お、おう……。大丈夫かなこれ」

提督「まあいいや、戻ろう」

不知火「……………………」

提督「不知火、そんなくっ付かれると歩きにくい」

不知火「……………………」

提督「不知火?」

不知火「ひっ!?」

提督「……なんか大丈夫か?」

不知火「え、ええ、まあ。お気になさらず」

───

──────

─────────

────────────

提督「じゃ、不知火も戻って寝るといい」

不知火「……明日も秘書、ですよね?」

提督「ん、そうだな。頼めるか?」

不知火「もちろんです。ということは、できれば早起きのほうがいいですね」

提督「いや、明日は遅くていいけど」

不知火「でも早起きのほうがいいですよね」

提督「だから明日はべつに」

不知火「いいですよね?」

提督「っ…………、早いに越したことはないけど」

不知火「ですよね。つまり、いかに時間を短縮するか」

不知火「────────今日からここで寝ることにします」

提督「…………えっ」

]
不知火「寝相はいいはずです、安心して寝れますよ」

提督「いやそういう問題じゃなくて……」

──────

───

──────

提督「で、結局こうなってしまうと」

提督「…………もう少し離れてくれるかな、暑い」

不知火「暖かくていいと思いますが」

提督「朝から汗かいてシャワー浴びてたのは誰だ」

不知火「………………さあ?」

不知火「それより早く寝ましょう」

提督「……そうだな、気にしたら負けだこれ」

不知火「ええ、丑三つ時になると厄介ですから」

提督「……………………不知火、もしかして」

不知火「…………………………」ギュッ

不知火「気にしたら負けです」

☆不知火と夕立と☆

不知火「雨、ですか」

提督「そうだなぁ」

不知火「少しジメジメして好きじゃないわね」

提督「ん、雨は嫌いなほう?」

不知火「嫌いではないですが……」

夕立「提督さん!大変大変!」

提督「どうした、そんな慌てて入ってきて」

夕立「あのね、外けっこう雨降ってるっぽい!」

不知火「……タイムリーな話題」

提督「まさに今その話を……って、ずぶ濡れじゃねーか」

夕立「あ、えっと…………」

提督「…………だいたい想像はつく。いいから風呂で温まってきなさい」

夕立「はーい……」

提督「不知火、悪いけど夕立の着替え持ってきてくれる?さすがに俺が行くのは気が引けるし」

不知火「了解です」

────────────

─────────

──────

───

不知火「脱衣所に置いてきました」

提督「悪いね、ありがとう」

不知火「…………夕立がずぶ濡れだった理由と言うのは」

提督「大方のとこ雨の中遊んでみたかったとかそんなんだろ」

不知火「風邪を引くリスクは考えないのかしらね」

提督「ははは……。不知火はそんなことしなそうだしな」

不知火「でも一回くらいそういうこともしていいかもしれません」

提督「あ、興味はあるのね」

不知火「…………風邪さえ引かなければ」

提督「それは引くと思う」

不知火「むー」

提督「…………その、たまに不機嫌な顔をするのはなんなんだ?」

不知火「もちろんわざとですよ」

提督「いや、それは見てりゃわかるんだけど」

不知火「気に障りますか?」

提督「とんでもない。なんか癒されるし」

不知火「あらそう、良かった」

提督「………………狙ってんのか?」

不知火「………………まさか」

夕立「温まったっぽーい」

提督「お、お帰り」

夕立「昼間にもうパジャマ着るのは新鮮だね!」

提督「え、着替えってパジャマ持ってきたのかよ」

不知火「……それしか見当たらなくて」

提督「まあ今日は予定もないしいいけど」

夕立「提督さんの背中を占領っぽい!」

提督「……っ、飛び乗るな、息が苦しくなるから」

不知火「………………むー」

提督「なぜそこで不機嫌になる」

不知火「………………別に、なってませんよ」

提督「ほら、夕立も暖まったならもう戻りなさい。今日はこの後に出撃とかないし」

提督「それに俺はまだ仕事終わってない」

不知火「案の定、の間違いね」

提督「痛いとこ言わなくてよろしい」

夕立「じゃあ、終わったらいいの?」

提督「終わるのが何時になるか……。あ、でも今日は少ないな」

夕立「ん、じゃあまた夜にでも来るっぽい!提督さん、頑張って終わらせといてね」バタン

提督「おう、頑張る」

提督「…………………………終わるとは言ってない」

不知火「ちゃんと終わらせないと、また怒られますよ」

提督「夕立と不知火にか」

不知火「そんなところです」

提督「それは良くない、さっさと終わらせる努力をしよう」

提督「…………………………終わるとは言ってない」

不知火「しれい?」

提督「わかってるよ」

──────

───

──────

提督「んー、資材の受け渡し……あの任務のか」

提督「ほう…………で、ここがっと………………」

提督「あー、毎度のことながらこういうのは苦手だな」

不知火「お手伝いしますよ」

提督「……ありがとう、でも背中から乗り出されるのはちょっとやりにくい」

不知火「司令の背中を奪還」

不知火「…………………………っぽい」

不知火「~~~~~~っ!!」

提督(自分で言って赤くなってるし)

☆不知火と暁と☆

提督「──────よし、休憩にしようか」

暁「ふぅ、疲れた」

暁「それにしても最近は暑すぎるのよ、この時期にしては」

不知火「今日は夏日だとか」

提督「そんな単語が出てくる季節か」

暁「……ねえ司令官?アイスクリームとかってないかしら」

提督「アイス?食べたいのか?」

暁「あ、暑いから食べたくなっただけだしっ!」

提督「んー……まあ、ないわけじゃない」

不知火「もう置いてあるのですか?」

提督「一応ね。俺が食べたくなる時もあるかもしれないし────────」

提督「ほらっ」

暁「わぁぁぁぁああ……」

提督「暁はあからさまに嬉しそうだな」

不知火「二個しかありませんが」

提督「ああ、うん。そんな多くは買ってないから」

暁「あれ、じゃあこれで終わっちゃうの?」

提督「そういうことになる。欲しいなら買って来るけど」

不知火「……しかし、夕立を含めると四人います」

提督「暁、今朝の夕立は?」

暁「え?うーん……まだ寝てたと思うわ」

提督「じゃあまだ寝てるだろ。夕立のことだから夜更かしでもしたんだな」

提督「俺は食べなくていいから二人で食べていいぞ」

暁「え、いいの?」

提督「特に今は食べたいとかないし」

不知火「ですか…………」

提督「大丈夫だって」

不知火「…………ではお言葉に甘えて」

──────

───

──────

暁「……………………」

不知火「……………………っ?」

暁「…………!し、司令官!」

提督「お、どうした?」

暁「やっぱり司令官だけ食べないのはおかしいし、一口だけあげる」

提督(…………気を遣ってくれたのか)

提督「ありがとう。本当に大丈夫だから気にするな」

暁「で、でも…………」

提督「気持ちだけでも嬉しいからな」ナデナデ

暁「ふあっ…………う、うん……」

暁「────────って」

暁「どさくさに紛れてなでなでしないでよ!」

提督「ははは、ごめんごめん」

暁「もう!」

不知火「……………………」

不知火「司令」

不知火「一口どうぞ……、です」

提督「不知火もか、ほんと大丈夫だから安心して食べろって」

不知火「そう、ですか」

提督「おう。早く食べないと溶けるぞ」

暁「やっ!垂れてきちゃった」

提督「ほらな……」

不知火「……………………」

提督「ほら、不知火も垂れてくるから」

不知火「……本当にいりませんか?」

提督「まだ気にしてたのか、大丈夫だよ」

不知火「本当に?」

提督「ああ、本当に」

不知火「…………………………」ジーッ

不知火「………………」

不知火「…………むー」

提督「?」

不知火「…………そうじゃないです」

暁「…………?」

☆不知火と☆

不知火「──────申し訳ありません」

提督「なに、不知火が謝ることじゃないさ」

提督「こっちこそごめんな、ドックの数が少なくて……」

不知火「暁と夕立は大破ですから。仕方ありませんよ」

不知火「……でも、ドック以外で治療というのも新鮮ね」

提督「待ってる間でも消毒くらいはできるしな。細菌とか入ると面倒だ」

不知火「ドックさえ入ればすべて治るのに」

提督「万が一だ、万が一」

不知火「…………心配、してくれてるのね」

提督「そりゃそうだ」

不知火「ふふっ、感謝します」

提督「それよりどこか痛んだりしない?」

不知火「そうですね──────────」

不知火「この辺……、少しだけ」

 椅子に腰かけた少女は薄く汚れた白い手袋を外さないまま、その手で自らを弄りだした。
 伸びた先には綺麗な色をした腹部。普段隠れているはずのそこは、『中破』という状態の悪戯で開けてしまっている。

提督「腹が痛むのか?」

不知火「…………少しだけ」

提督「んー、でも見た感じ傷はなさそうだぞ?」

不知火「軽くさすってもらえれば治まるかと」

提督「そうか、まあいいけど」

 要望なのだから仕方がない。
 そう言い聞かせてどこからともなく湧いてくる罪悪感を振り払った。曝け出された滑らかな腹部と、特に表情はないものの上目遣いの視線が、まるで自分を急かしてきているような錯覚に陥りそうだ。

 落ち着き払った風にゆっくりと腰を落とし、適当な位置までしゃがんだところで手を伸ばす。
 爪は伸びていないか、指は荒れていないか、手汗などはかいていないか────────
 
 今さら多くの心配が脳を掠めていく。しかしもう、ここまで来て止まることはできない。

 
 柔らかく温い目標が、指先に触れた。

不知火「んっ………………」

不知火「司令の手、温かいですね」

提督「冷たいよりはいいだろ」

不知火「それもそうですが」

提督「……で、このままさすればいいのか?」

不知火「……お願いします」

 

 指先から手のひらで触れ、痛むという腹部を撫で始めても依然、彼女は表情を崩そうとはしない。時々顔をしかめるような仕草はするが、痛いというよりはこそばゆいと言ったほうが近いのだろう。

 遅すぎず、速すぎず、慎重に。
 痛みを和らげるという名目のはずが、いつの間にか滑るようなその感覚を楽しむ方向へと転じかけていることに気づく。それでも彼女は一切不機嫌そうな様子もなく、むしろ心地良さそうにさえ見える。痛みが少しは和らいできたのだろうか?尋ねると無言で小さく頷いた。

 そうして徐々に下へ、下へと位置をずらしていったとき

不知火「…………………………そこ」

 動き回る右手が、小さな両手でその場に静止させられた。中央付近、ちょうどへそのあたりだ。

提督「ここが痛むのか?」

不知火「いえ、痛むというわけではないのですが」

不知火「…………お願い、できますか?」

 よくわからないが、ここを撫でられるのが気に入ったらしい。

 その近辺を先ほどと同じようにさすっていく。滑るような感覚を楽しむ俺と、撫でられる感覚に浸る不知火。誰も損などしていないWin-winの関係。
 楽しんでいるうちにある異変が目に留まった。

 へその付近を通過するときだけ、不知火の表情が一瞬崩れるのである。

 その表情は普段見ることのできないようなもの。そもそも不知火が表情を表すこと自体珍しい。
 好奇心が、勝ってしまった。

不知火「し、司令…………っ?」

 手を止めた。やはり中央付近。
 手のひら全体を使っていたが、ここから必要なのは指先だけだろう。

 さっきよりもさらに慎重に、中央付近にある腹部で唯一の窪みへと人差し指を這わせた。外側から円を描くように、段々と描き方を小さくしていく。

不知火「そ、そんなことは頼んでいませ、んっ…………」

不知火「ふあっ──────」

 指先が窪みに収まったのとほとんど同時に、色っぽい声が部屋に響く。ふと顔を見上げると案の定、頬を紅潮させ完全に蕩けていた。
 しかしこれで好奇心が満たされたわけではない。

 …………これ以上続けたらどうなるのだろうか?

 そのまま指を細かく振動。表情どころか体勢まで崩して体をよじらせている。

不知火「しれっ、も、やめ……てっ」

不知火「……くすぐったい…………、」

不知火「んっ……ふぁっ…………」

 双方とも歯止めが利かなくなりかけたとき、ドアの向こうで呼び止める声が耳に入った。どうやら入渠が終わった様子である。

 瞬時に我に返ったが、椅子の上の彼女はまだ余韻に浸っているようだ。
 白い手袋をはめた手が、名残惜しそうに腹部へと置かれていた。

提督「………………ごめん」

不知火「平気、です……。ふふっ」

不知火「おかげさまで痛みはなくなりましたから」

提督「良かった、ここまで好き勝手したうえにまだ痛いとか救いようの欠片もないからな……」

不知火「…………もう少し、好き勝手してても良かったんですよ」

提督「……………………」

不知火「では少しドックへ行ってきます」

提督「ああ、ゆっくりな」

不知火「出てきたらすぐに秘書の任へ戻りますから」

不知火「──────続きとか検討しても構いませんよ?」

提督「…………えっ?」

不知火「ふふっ……♪」

不知火「悪い気はしませんでしたから」

────────────────
────────────────
────────────────

不知火「こういう雰囲気は久しぶりですね」

提督「こういう雰囲気?」

不知火「広い鎮守府に、司令と不知火しかいないような雰囲気です」

提督「あぁ」

提督「今は二人とも遠征に行ってくれてるしな。確かにそうだ」

不知火「この感じ、不知火は好きですよ」

提督「奇遇だな、俺もだ」

不知火「……………………ふっ」

提督「……………………ふふ」

不知火「それにしてもいい天気ですね」

提督「ほんと、あの二人はもう遠足気分だったりして」

不知火「それでは15分の予定が延びてしまいます」

提督「はは、そりゃ面倒だ」

不知火「でも、旗艦が夕立というのが少し気がかりです」

提督「大丈夫、夕立はなんだかんだやってくれるしな」

不知火「もし敵が襲撃したら?」

提督「ソロモンの悪夢」

不知火「…………大丈夫ね」

提督「…………………………あ」

提督「……ごめん、ちょっとお願いできる?」

不知火「何を?」

提督「紙が一枚そっちに吹っ飛んでった」

不知火「なるほどです」

不知火「…………、どうぞ」

提督「ん」

提督「──────ありがとう」

不知火「あの…………、不知火の顔に何か付いていますか?」

提督「いや」

不知火「ではなぜその……」

提督「不知火も変わったなぁと思って」

不知火「…………変わりましたか?」

提督「あ、もちろんいい方向にね」

提督「最初の頃は嘘でも『命令だ』って言わないと聞いてくれなかったのにな」

不知火「それは司令が変えてくれましたね」

提督「俺が?なんかしたっけ?」

不知火「いえ、別に」

提督「何もしてないと」

不知火「ええ、行動では特に何も」

提督「…………余計にわからん」

不知火「ふふっ……♪」

不知火「あ、今でも司令のご命令はちゃんと聞きますよ?」

提督「そうなのか。最近は特にそれっぽいのもする必要ないからなぁ」

不知火「命令とあらばどんなことでも────────」

不知火「どんなことでも、遂行します」

提督「拒否することは?」

不知火「ありません。………………たぶん」

提督「そうか、じゃあ」

提督「────駆逐艦不知火、本日をもって秘書の命を解く」

不知火「………………ほ、本気で言っているのですか?」

提督「本気だと言ったら?」

不知火「ダメです」

不知火「その命令は従えません。全力で、抗います」

提督「…………まあ、冗談だけど」

提督「やっぱり変わったな、以前までならたぶん聞き入れてたぞ」

不知火「……そうかもしれないわね。でも、今は違いますよ。やっと居場所が見つかったんです」

不知火「不知火は『不知火』ですから」

最初に配属されるのが此処だったら

そうすれば、もっと早く見つかったのに。もっと早く笑えたのに。

もっと早く、出逢えたのに。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

『不知火ちゃん、笑わなくなったね』

『あんなことあったんじゃ仕方ないよ』

『…………………………』

 笑わない。

 あの時、彼女の最期の笑みを見てから、明らかに自分は笑わなくなっている。べつに意識しているわけでもなく、笑い方を忘れたわけでもない。

 心から笑うことがなくなった。

 愛想笑いだけは得意になっただろうか?こんな特技、誰も欲しがりはしない。

 ただ本当に、なぜか笑えなくなっているのだ。

「不知火です」

『入れ』

『呼んだ理由がわかるか?』

「……………………」

『駆逐艦不知火、ただいまを以って我が艦隊の指揮下から外す』

『────これの理由はわかるな?』

「………………はい」

『いいだろう。お前は進撃という命令を無視して撤退した』

『うちの鎮守府では、命令も聞けないような兵器は不要だ』

「そうですか、結構です」

『強気じゃないか、行く宛でも探したのか?』

「………………いえ」

『ふん。受け入れるところがあるのやら』

「……不知火は後悔などしていません。艦娘を一人救いましたから」

『そのあと解体したんじゃ同じことだ』

「二度と戻ることのない轟沈よりは遥かにマシです」

『さあ、どうだか』

『言いたいことはそれだけか?終わったらもうどっか行け』

「言われなくてもそうしますのでご心配なく」

「…………さようなら」

 

 色々な鎮守府を転々としました。

 自分の目の前でたくさん沈み、多くの艦娘が瞬く間に資材へ早変わりし、色々な光景を見ました。自分が資材に変換されることも多々ありました。

 でも絶対に沈むことだけはしなかった。

 沈んだらそこで、全部終わりになってしまう。

 もしかしたら終わるわけではないかもしれないが、『艦娘』でなくなることは明確だ。

 沈むくらいなら這ってでも戻って解体された方がいい。

 そんな時間を過ごしていくうち、日に日に感情を表に出すことが減ってきたことに気が付いた。

 日を重ねるごとに、あの笑みの理由がわからなくて頭がパンクしそうになる。

 しかしこれが艦娘のあるべき姿なのかもしれない。兵器と感情は共存しないのだから。

 共存するのなら、これほど使いにくいものもないだろう。

『────────隣、いい?』

「……どちらですか」

『あ、えっと、今日配属されたんだ!』

「……そう」

『ここの鎮守府、ちょっと大変そうだね』

『前の鎮守府では、けっこう提督と一緒に過ごしてたりもしたんだけどね』

『ここはなんか忙しそうっていうか』

「……ここは変わっているのですか?」

『うーん、わからないけど……。普通じゃなさそうだよね』

「………………」

「普通って、どんなものなのかしらね」

『えっ?』

「前の鎮守府での普通って、どんな艦娘でしたか?」

『え?えっと…………』

『みんなで話したりもしたし、提督と遊んだりもしてたかなぁって』

「それが普通の艦娘…………」

『普通なのかはわからないけど、すっごく楽しかったんだー』

『ここでもそうやって過ごせたらいいね!』

「…………それはきっと叶いませんよ」

『どうして?』

「──────ここは、そういう鎮守府ですから」

 

 翌日、配属されたばかりという彼女と二人で伴走。そして初戦で大破した彼女だけ、戻ってくることはなかった。

 また隣で一人、水面に姿を滲ませていく。

 隣で誰かが沈んでいく。そのうち自分は解体される。

 同じような毎日。同じようなことの繰り返し。

 みんなで話したり、提督と──司令と─遊んだりするような鎮守府などあるのだろうか?

 あるものならば行ってみたい。一度でもいいからそういうところに配属されたい。まだなんにも楽しんでいないのだ。

 沈まなければその可能性が残されるから意地でも沈まない。そう考えてから随分と長い気がする。

 果たして叶う日は来るのだろうか?もし来なければ、また目の前で誰かが沈むのを見続けるのだろうか?

 ──────ならいっそ、沈んでしまえば楽なのかもしれない

 ふと水面に映った自分の顔を見下ろしたとき、久しぶりに軽く笑っていた。彼女の最期の笑顔のような細い笑みだ。

 彼女が沈み際に笑った理由が、なんとなくわかったような気がする。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

──────────────────────────────

──────────────────────────────

不知火(ここに来てからも、けっこう長くなったのね)

不知火(…………沈まなくて良かった)

不知火(長生きはしてみるものです)

不知火「……なんか、年食ってるような言い方ね」

提督「あれ、不知火。いつの間に布団から抜け出したんだ?」

不知火「あ、司令。おはようございます」

提督「おはよう」

不知火「今日はお出かけですか?」

提督「ああ、うん。なんかめんどくさそうな会議に出なきゃいけないらしくて」

提督「今日は暁たちと留守番頼んでもいいかな?」

不知火「構いませんよ」

不知火「…………けど、少し寂しいかもしれないわね」

提督「会議中とかじゃなけりゃ連絡くれれば反応すると思うよ」

不知火「…………いいのですか?」

提督「大歓迎。どうせ暇なんだろうし」

不知火「大歓迎、ですか」

不知火「じゃあ、遠慮なしでもいいんですよね?」

提督「いや、そんな何回も連絡くれたって困るからな?」

不知火「……冗談ですよ」

不知火「…………………………たぶん」

投下終了

いつだったか終盤に差し掛かってると言いましたが修正。本編は終盤、スレはその後も少し続きます。

あくまでクーデレものですからね、クーデレなオムニバスをやる予定です。需要があれば、シチュエーションや「不知火×別キャラ」のリクエストみたいなこともやるかもしれません。

それでは失礼します

『…………ええ、大丈夫ですよ。はい、変わりないです』

『執務も順調ですよ。たぶん終わると思います』

『ええ…………はい…………、もちろん』

『………………ふふっ、そうですね』

『……もう時間なのですか?あら、そう』

『では、また後で連絡しますから』

『はい…………平気ですよ、待ってますから。でも…………』

『なるべく早く、お願いしたい……です』

『……ありがとうございます。では』

夕立「不知火ちゃん、また電話してたっぽい?」

暁「ついさっきもしてたような……」

不知火「さっきって、もう2時間も前ですよ」

暁「…………やっぱり『さっき』じゃない」

夕立「電話の間隔にしては短いっぽい」

不知火「秘書官と司令は緻密な連携や情報交換が必要ですから」

暁夕立(雑談してるようにしか見えなかったけど…………)

不知火「さて、司令が帰ってくる前には終わらせますよ」

暁「でも司令官、何時に帰って来るのかしら」

不知火「さあ?わからないから早く片付けるんです」

不知火「……それに、早く帰ってくるように頼んだので意外と早いかもです」

暁「そう。じゃあ早く終わらせてのんびりしたいわね」

暁「夕立、今日は手伝ってもらうからね!」

夕立「えぇ!?……」

暁「司令官もいないのにここに居るなら、手伝うしかないでしょう?」

夕立「ぽいぃ…………」

────────────

─────────

──────

───

───

──────

─────────

────────────

夕立「なんとか終わったぁ~…………」

暁「ふぅ、疲れた。夕立もやればできるじゃない」

暁「今日はこれで終わりでいいの?」

不知火「ええ、やるべきことは終わりましたから」

暁「じゃああとはご飯食べて寝るだけね」

夕立「自由時間ないの!?」

不知火「この時間ですから厳しいかと」

夕立「そんな…………」

暁「夕立は自由時間を増やすんだって意気込んでたものね」

不知火「暁は夜になるのを恐れて、ペースアップしました」

暁「そ、そんなことないしっ!」

夕立「不知火ちゃんは提督さんのために頑張ってたっぽい」

不知火「…………そうかもしれないわね」

不知火「さあ、今日はもう寝ましょう。明日に響くといけません」

暁「不知火はどうするの?」

不知火「もう少し司令を待ってます」

不知火「大丈夫ですよ、無理そうなら寝ますから」

夕立「不知火ちゃん、提督さん思いっぽい!」

不知火「………………秘書として当然のことをするまでです」

暁「でも無理はしないでよね。不知火がいないと大変なんだから」

不知火「ええ、ありがとう」

───

──────

─────────

────────────

(フタサンサンマル……)

(…………遅い)

(そういえばあれから連絡していなかったわね)

(でも、今からじゃ遅いし迷惑……、か)

(…………………………)

(………………遅い)

(今日一日は司令がいなかったけれど)

(それでだけで随分と大変なものだとわかりました)

(──────業務的にも、心理的にも)

(いつからこんなになってしまったんだか)

(ほんと、バカみたい)

(…………………………………………)

(…………………………)

(早く帰ってこないかしら)

(早く、顔を見たい、な……)

「…………………………」

不知火「…………司令?」

不知火「司令!」

提督「うお、不知火。まだ起きてたのか」

不知火「当たり前です。秘書なんですから」

提督「あー……ごめんな、先に寝てていいって言ってなかった」

不知火「言われたって起きてますよ」

不知火「それより、何か言うことがあるのでは?」

提督「………………遅くなって申し訳ない」

不知火「いえ、それもそうですが……」

不知火「もっと別に、単純に……です。司令はいま帰ってきたんですよ?」

提督「………………あー、そうだな」

提督「──────ただいま、不知火」

不知火「──────ふふっ、お帰りなさい。司令」

「……………………」

(間違えた、提督さん思いじゃなくて)

(不知火ちゃん、提督さん想いっぽい)

(へぇ、そうなんだ。やっぱり)

(ふーん…………)

「…………眠くなってきちゃった、部屋に戻ろっと。また暁ちゃんに怒られちゃうよ」

「──────提督さん、おやすみなさい♪」

不知火「司令、おはようございます」

提督「おはよう不知火」

不知火「良い天気ですね」

不知火「こんな日は、どこか出かけたいです」

提督「そうだな」

不知火「連れて行ってくれるのですか?」

提督「そうとは言ってないぞ」

不知火「…………期待したのに」

不知火「では、仕事が早く片付いたら?」

提督「その時は考えてもいいかな」

不知火「…………!」

不知火「早く始めましょう。出かけるために」

提督「そうだな、うん」

不知火「早く布団から起き上がってください、司令」

提督「それができるならな」

不知火「起き上がれないのですか?」

提督「……わざとやってるだろ?」

提督「────────とりあえずその、馬乗りになってるのやめてくれないと始まらない」

不知火「不知火に原因があるというのですか?」

提督「一目瞭然」

不知火「……司令が不知火より早く起きれば、こんなことは起きませんでしたよ」

提督「えぇ…………」

提督「退かないと連れてってやらないぞー」

不知火「…………それは困ります」

提督「正確には退かないと動けないから連れてく術がないわけだが」

不知火「……………………」スッ

提督「聞き分けが良くて助かるよ」

不知火「これで連れて行ってもらえるのですか?」

提督「早く終わればね」

不知火「…………!」

───

──────

─────────

────────────

不知火「司令、ここたぶん違ってるかと」

提督「…………」

不知火「手が止まってますよ、司令」

提督「………………」

不知火「どうしたのですか?今日は調子が出ないのですか?」

提督「……………………ある種そうかもしれない」

不知火「寝不足?」

提督「いや」

不知火「ではお疲れで?」

提督「疲れてはいるけどそこまでじゃない」

不知火「そうなると不知火には見当が付かないわね。すみません」

提督「…………今日おかしいのは不知火じゃないかな」

提督「とりあえず膝から降りよう、な?」

不知火「嫌です」

不知火「ここは不知火の特等席ですから」

提督「でもこれ作業が手に付かないから……」

不知火「ですから、こうして不知火も手伝っていますよ」

提督「いや、まあそうなんだけど」

提督「出かけたいのかここに居たいのかはっきりしなさい」

不知火「司令はどうしますか?」

提督「俺?俺はどっちでも……」

不知火「一つに絞って」

提督「…………外出は面倒だからここでいつも通りに過ごしたい」

不知火「では不知火も」

提督「あれ、外出は」

不知火「司令の気が乗った時で構いませんよ」

不知火「────不知火はただ、司令の行くところへついていくだけです」

提督「べつに、外出したいなら付き合うぞ」

不知火「特別外へ出たいわけじゃないんですよ。不知火はただ…………」

不知火「ただ、横にいたいだけですから」

提督「横っていうかもう上にいるよね」

不知火「…………そういう意味ではありません」

提督「知ってた」

不知火「知っててボケるのはタチ悪いです」

提督「不知火がどんな反応してくれるのかなーと」

不知火「……退くことでも期待したのですか?」

提督「ちょっとな」

不知火「それは無駄ね」

不知火「……………………お邪魔、ですか?」

提督「少しだけ」

不知火「……申し訳ありません、悪ふざけが過ぎました」

不知火「降りるので椅子を引いてもらえますか?」

提督「…………………………」

不知火「司令?」

提督「……いいよ、そのままで」

不知火「……えっ?」

提督「考えてみれば不知火は大人しくしてくれてるし、特に支障はなかった」

提督「それになんか落ち着くしな」

不知火「ですが…………」

 それだけ言いかけて、後ろから見える耳たぶを筆頭にどんどん赤くなっていく。色白だった肌は気づけば朱に染めあがっていく。
 不意に掴まれた左手から感情を表す温度が伝わってきたが、きっとまた表情は硬いままなのだろう。

 いつもは気にも留めないような秒針の音さえ耳を劈くこの空間。やがて彼女は何か思いついたかのように顔を上げた。

不知火「不知火も、です」

提督「そうか、じゃあ良かった」

不知火「………………はい」

 短い会話を交わした後は決まって、なんとも言えない感覚に襲われる。

 ────────もっと話を続けたほうがいいのだろうか?

 だが今回はそれがない。というより、そんな感覚さえも楽しめる、そんな状況だ。きっとこれがベストなのだろう。

不知火「ここに来てからも長くなったのね」

提督「早いものだ。お前もだいぶレベル上がったよな」

不知火「……まだ少し遠いです」

提督「遠い?」

不知火「……なんでもないですよ。こちらの話ですから」

不知火「司令には随分とお世話になりました」

提督「まるでいなくなるみたいな言い方だな……」

不知火「そう聞こえなくもないですか。訂正します」

不知火「これからも、よろしくです」

 急に改まった様子の不知火が、そのままの位置で軽く頭を下げる。つられてこちらも頭を下げる。それから少し可笑しくなって、軽く二人で笑い合う。そんなこの空間が好きだった。

 それは恐らく不知火も同じなのだろう。この時だけは僅かに顔を綻ばせるのだ。
 
 心地良い沈黙。不知火はまだ向こう側を見据えている。

不知火「司令は」

不知火「…………司令官は不知火の」

不知火「………………戦いを」

不知火「……………………」

不知火「──────司令は!」

不知火「司令は不知火を……、どう思っているの?」

 見据える方向は変わらず、掴まれた手も変わらず
 語気のみ強められて絞り出された言葉。

 かなりの勇気を要した言葉だっただろう。それだけにやたら丁寧に言葉を選んでしまうのだ。
 
 ただ、答えだけはもう出ている。

提督「…………一番、」

提督「……一番、信頼してる」

不知火「…………ギリギリ合格」

不知火「司令が不知火に似てきちゃったのね」

 自分では自覚がないのだが、どうやら目の前で首だけ上を向いて微笑む彼女に似てきたのだという。
 こちらからしてみれば自分はずっとこんなもの。変わったのはむしろ不知火のほうだろう。配属された頃と比べてだいぶ大胆に変化している。それは徐々に、日に日に作り上げられてきたものだ。

 欲を言えばもっと表情を見たい気もするが、それでは時折見せる笑顔の希少価値が薄れて…………

 なるほど、これが似てきたというものなのだろうか?無意識にうちにだいぶ影響を受けてしまったかもしれない。
 過去の彼女の発言を思い出し、ふと考えるのだった。

不知火「何も不器用なところまで似なくても良かったのに」

提督「似たくて似てるわけじゃない」

不知火「ふふっ、不知火が司令の立場でもきっとそう答えます」

提督「…………………………」

不知火「でも、そんなに気にすることではありません」

 大きく息を吸った次の瞬間膝の上で体躯が半分ほど回転し、向かい合ったような形で、不知火はもう一段階顔を近くへ寄せてきてた。そして────────

不知火「どんな司令でも、司令は司令です」

不知火「──────大好きですよ」

 "微笑み"で落ち着いていた硬めの表情は、見たこともないように弾け綻び、いま目の前で笑っている。

不知火「艦隊が帰投────────」

谷風「艦隊が帰投したよ!お疲れーい」

提督「二人ともお疲れさん」

不知火「…………谷風、それは旗艦の役目だと言ったはずよ」

谷風「気にしない気にしない」

谷風「提督も、報告は早いほうがいいだろうし。ねっ?」

提督「帰投報告は遅いと混乱を招くかもしれないからな」

提督「心遣いはありがたいけど、でもそれは旗艦の仕事だぞ、谷風?」

谷風「はーいはい、わかりましたよー」

提督「久しぶりで二人とも疲れたろ?」

不知火「いえ、そんなことは」

谷風「ほんとほんと、ずっとのんびりしてたかったのにさ」

不知火「……………………谷風」

提督「はは、正直でよろしい」

提督「ということで、さっき間宮さんとこ行って差し入れを買って来たんだけど」

谷風「おお!そいつは粋な計らいだねぇ!」

提督「まだ話は終わってないぞ」

提督「…………で、買ってきたんだけどさ」

提督「なんか今日は『あんみつの日』とかいうあんみつのゴリ押しやってて」

不知火「…………つまり?」

提督「見渡す限りの商品があんみつ関係だった」

谷風「……………………」

不知火「……………………」

提督「…………苦手、かな?」

不知火「司令、それは早く開封するべきかと」

谷風「早く早く!」

提督「あ、二人とも好物なのね。よかったよかった」

────────────

─────────

──────

───

谷風「かぁっ!これは病み付きだね」

不知火「美味しい……」

提督「不知火が素直な感想を言うレベルか。そりゃすごい」

不知火「…………まあまあね」

谷風「提督は食べないのかい?」

提督「差し入れをした本人が食べるってのもなぁ」

不知火「気にしなくてもいいのに」

提督「……実は美味しくてさっき3つも食べてしまった」

谷風「えっ」

不知火「はい?」

谷風「ちょっと、それはズルいんじゃない?」

不知火「不知火たちはひとつずつしか貰ってませんよ」

提督「いや、まさかこんなに受けるとは思ってなくてなー」

谷風「自分で『美味い』って言っておいてそれは見苦しいねー」

提督「あ、あくまでも労いのための差し入れだからな?」

谷風「提督が思ってる以上に疲れてるんだけどねぇ?」

提督「うぐ…………」

谷風「べつに、MVPのご褒美でもいいんだよ?」

不知火「──────────」

提督「………………今のと同じでよろしいか」

谷風「ほい来た!」

提督「あれ、そういえば今日のMVPってどっちだった?」

谷風「それは不知火だね」

提督「……お前は人のMVPで恩恵を受けようというのか」

谷風「不知火も同じ考えなら一緒じゃないかい?」

提督「……いいのか、不知火は?」

不知火「…………………………」

不知火「ご褒美は、あーんしてください」

谷風「へっ?」

提督「……だそうです谷風さん」

谷風「それは聞いてないよ不知火!」

不知火「…………さあね」

谷風「こうなったら谷風さんにも考えがあるよ」

谷風「提督!よしよししてあげるからご褒美くれるかい?」

提督「なんだそりゃ」

提督「……その場合はあんみつになるのか?」

谷風「…………よしよししてほしいかなー、なんて」

提督「もうあんみつどっか消えたな」

不知火「………………むー」

不知火「司令、不知火にもお願いします」

谷風「ちょっと!あんたは欲張りすぎだよ!」

不知火「…………そうかしら」

◎不知火と那智と◎

提督「ごめんな、留守番頼んじゃって」

那智「…………………………」

提督「那智?」

那智「…………ん、ん」

提督「…………あ、寝ちゃってるのか」

那智「許してやってくれ、連日の任務で疲れていたんだろう」

提督「別に叱る気なんてないさ。居眠りはよくやらかすし」

那智「そうか、それなら良かった」

那智「……………………待て、貴様いま『居眠りはよくやらかす』と言ったな?」

提督「………………あっ」

那智「説明してもらおう」

那智「私たち艦娘が任に就いている際、あろうことか居眠りをしていたというのか?」

提督「ま、まさか。さすがに出撃してもらってる時にはしたことないぞ」

那智「つまりそれ以外は認めたということになるが」

提督「…………はい」

那智「ふん…………。まあいい」

那智「自分で命令しておいて本人が居眠りするほど落ちぶれていないとわかったからな」

提督「お前は居眠りしたことないのか?」

那智「…………ないと言えば嘘になる」

那智「だからあまり強気なことが言えない。しくじった」

提督「まあそうだよな、昼寝ほど素晴らしいものもない」

提督「したことないってやつは人生の10割を損してる」

那智「全てではないか」

提督「それくらい心地良いってことだよ」

不知火「……ん…………、ん……」

那智「む…………、少し声が弾んでしまったようだな」

提督「会話は控えよう、起こすと可哀想だし」

提督「にしても、不知火はよっぽどお前の肩が気に入ったようで」

那智「こんな気持ちよさそうに寝てくれると、こちらとしても嬉しいものだな。ふふっ」

不知火「…………しれぃ……」キュッ

那智「…………………………」

提督「…………………………」

提督「まあそう落ち込むなって」

那智「これは落ち込みもするだろう……」

那智「──────私の肩、そんなゴツいのか?」

提督「そっちかよ!」

那智「……ふふ、冗談だ。そんなに落ち込んではいないぞ」

提督「しっかし、ほんと気持ち良さげな寝息だ……」

那智「ああ。聞いている側が癒される……」

提督「……………………」

那智「……………………」

那智「どうした、貴様なにか言いたそうな顔をしているぞ?」

提督「お前も大差ない」

那智「……なるほど、考えていることは同じようだな」

提督「……確認、せーの」

「眠くなってきた」

那智「貴様もか」

提督「心地良さそうな不知火が悪い」

那智「…………ここはひとつ昼寝をしよう」

那智「実は私も疲れていてな」

提督「那智から言い出すとな珍しい。さっきは窘めてきたのに」

那智「いいから隣に座れ」

──────

───

──────

那智「ひとつ試したいことがあるんだ」

那智「不知火が夢にまで見る肩というのはどんな寝心地なのか」

提督「あんまりいいものじゃないと思うがなぁ」

那智「百聞は一見に如かず。失礼する────────」

提督「え、ちょ、」

那智「ああ……これはいいものだ」

提督「そうなのか」

那智「べつに、特別に居心地がいいわけではない」

那智「…………貴様の肩だから、良い」

提督「………………」

那智「……………………寝る」

提督「くすぐったいから顔埋めるな」

那智「……知ったことか。貴様も早く寝ろ」

提督「昼寝を急かされるとはいったい」

提督「………………ダメだ、睡魔に勝てない」

───

──────

─────────

────────────

不知火「……………………っ」

不知火「……!いけない、寝てしまったみたい」

不知火「もう夕焼けが…………」

不知火「司令、すみませ─────────」

不知火「………………あら」

不知火「那智さんの肩枕もいいものね。でも……」

不知火「────不知火は、やっぱりこっちのほうがいいです」

不知火「ふふふ……」

不知火「仕切り直しでもう一眠り、です」

◎不知火と五月雨と◎

提督「あれ、二人ともこんなとこで何やってんだ?」

五月雨「あ、提督!」

五月雨「見ての通り、海を眺めてるんです」

提督「いや、それはわかるけど……。なんでまた」

不知火「なんとなく、です」

不知火「波止場から見る海もいいものですよ」

五月雨「提督もご一緒にどうですか?今日はとってもいい風が吹いてるんですよ」

提督「……気分転換にそうするか」

提督「五月雨、隣いい?」

五月雨「はい!」

不知火「…………………」

提督「お?どうした不知火、どっか行くのか?」

不知火「ただ場所を移動するだけですよ」

不知火「──────っ、五月雨だけはズルいです」

五月雨「…………?」

────────────

─────────

──────

───

提督「てか、いま気づいたけど二人とも裸足なのな」

不知火「こちらのほうが気持ちいいので」

提督「つまらんことで擦り剥いたりするなよ?」

五月雨「擦り剥いてもドック入れば治ります!」

提督「まあそうなんだけど」

不知火「…………不知火は、また司令に手当てしてもらおうかしら」

提督「…………えっ」

不知火「ふふ……♪」

五月雨「ここ、なんか少し湿ってますね」

提督「あー、昨日の雨は凄かったからなぁ」

提督「手に体重かけすぎると滑るかもしれない」

五月雨「そうですね、気を付け────────わっ!?」

提督「っ────────!」

提督「……言ったそばから……。なんとか間に合った」

五月雨「す、すみません…………」

提督「とにかく海にダイブだけは回避できてよかった」

五月雨「もし落ちても、私は艦娘なので平気です!」

提督「艤装外してるだろ」

五月雨「あ…………、あはは……」

提督「……まあ、五月雨らしいか」

五月雨「うぅ…………」

不知火「…………………………」ギュッ

提督「?」

不知火「最初から手を握っていれば、落ちる危険は大幅に下がります」

不知火「……もし落ちたら司令も一緒です」

提督「その言い方なんか怖いから……」

五月雨「…………っ!」

五月雨「私も、もう危ない目に遭わないように握ってます!」

提督「誰かしくったら一気に道連れだな」

五月雨「え!?えっと…………」

提督「……ふふ、いいよそのままで。握ってないほうは滑らないようにな?」

五月雨「は、はいっ!」

不知火「むー」

不知火「…………左手は確保してるし、大目に見ますか」

◎不知火と野分と◎

野分「司令、お疲れさまです」

提督「ん、のわっちもね」

野分「…………あの、何か秘書の手伝いとかできないかしら」

不知火「そうね……。今は大丈夫よ、のわっち」

野分「っ、………………」

野分「お、お茶でも持って来ましょうか!」

提督「おお、のわっちは気が利くな」

野分「…………し、司令」

野分「のわっち、とか呼ぶの……やめてもらえないでしょうか」

不知火「のわっち以外になんて呼べばいいというのですか?」

野分「~~~~~っ!!不知火まで!」

提督「ははは、野分はなんかこう、いじりたくなるんだよな」

野分「……それは『のわっち』の理由になってないです」

提督「もっとそれらしい理由があればいいのか。よし」

提督「不知火、それっぽい理由考えてくれ」

不知火「楽しそうな任務ね。了解です」

野分「乗らなくていいですから!」

野分「もう、なんなんですか二人して」

提督「真面目な子ってなんか遊んでみたくなるじゃん?」

野分「なりません!」

不知火「それは自分が真面目だから気づいてないだけね」

野分「そういう自分も真面目じゃないの!」

不知火「……そうかしら」

提督「…………ほう」

提督「野分、ちょっと」

野分「なんですか、今度は……」

提督「──────────」

野分「──────────」

提督「…………OK?」

野分「…………は、はいっ」

不知火「…………?」

不知火「どうかしたのですか?」

提督「あーいや、なんでもない。そろそろ仕事に戻ろうかなーと」

野分「でないと終わりませんしね」

不知火「そう。まあ、そういうことならいいですけど」

不知火「では、さっさと片付けましょう。まずは整理からね」

提督「さすがぬいぬい。手慣れておられる」

不知火「今さら何を言い出すかと思えば……………………」

不知火「待ってください、ぬいぬいとはなんですか?」

提督「そりゃぬいぬいだろ。なあ野分?」

野分「そ、そう!ぬいぬいはぬいぬいですっ!」

不知火「…………まさか不知火のことなの?」

提督「いや、だからぬいぬいのことでしょ」

不知火「っ…………、」

不知火「野分、これはどういうことですか?」

野分「どういうこと、というと?」

不知火「……白を切るつもりね」

不知火「司令、これはなんのマネですか」

提督「いつも通りじゃないのか?」

不知火「………………」

不知火「……司令」

提督「どうした、ぬいぬい」

不知火「…………やっぱり野分」

野分「なに?ぬいぬい」

不知火「っ!」

提督「どうした、顔が赤いぞぬいぬい」

野分「ぬいぬい、熱でもあるのかしら?」

不知火「~~~~~っ!!!」

不知火「やめて!!」

不知火「…………なんだか、恥ずかしい……です」

提督(あっ、かわいい……)

野分(かわいい…………)

提督「ごめん、ちょっと反応を見てみたかったんだよ」

野分「そ、そうなんです。ごめんなさい……」

不知火「!?……………………」

不知火「………………バカ」

提督(ダメだ、かわいい)

野分(これはクセになりそう……)

提督「……どうだ野分、いじる側の感想は」

野分「……正直すごく楽しいですね、これ」

野分「今回はこのへんで止めておきましょう」

提督「もう色々と捗ったしな、うん」

野分「…………でも、またやってみたいですね」

提督「…………お前もなかなかにやんちゃなのか」

◎三人に囲まれて◎

提督「よーし、今日も終わった」

提督「みんな手伝ってくれたから助かったよ」

五月雨「いえ、私も楽しかったですよ。秘書のお仕事」

野分「新鮮でしたね」

提督「その調子でいつも手伝ってくれてもいいんですよ?」

不知火「…………司令」

提督「ん?あ、不知火じゃ不足ってわけではないぞ」

不知火「……なら良かった」

野分「そういえば、不知火の部屋ってないんですか?」

提督「え?いや、あるけど」

野分「でも寝る時はいつもここのような……」

提督「あー、それは不知火が夜は怖いって」

不知火「朝早起きしてすぐに秘書の任に就くためです」

不知火「…………ですよね、司令?」

提督「…………はい」

五月雨「……私もいいですか?」

提督「…………え」

五月雨「え、えっと、無理ならいいんですけど……」

五月雨「私もお手伝いしたいんです!」

提督(不知火の建前を真に受けただと……)

不知火「…………構いませんよ」

提督「えっ」

提督「やっぱりこわ」

不知火「多いほうが!」

不知火「……不知火は好きですよ?」

提督「………………」

野分「え、じゃあ今日から一人……」

不知火「もうみんなで寝ましょう」

提督「さすがに狭いと思うんだ」

不知火「詰めれば何とかなるかと」

不知火「ここで寝るということは、手伝ってくれるのね?」

五月雨「はい!」

野分「もちろんです!」

不知火「そう、ならきっと司令も許可してくれますね」

提督「……もう色々と気が気でないよね」

不知火「でも一つだけ」

不知火「司令の隣は、不知火の特等席ですよ?」

これにて全投下終了です

ときどき微糖じゃなくなった感じありますが、まあ基本微糖でしたよね。きっとそのはず
○○デレは数あれど、クーデレと不知火ちゃんの素晴らしさが少しでも広まっていただけたなら幸いです

ここまでお付き合いありがとうございました!

また見かけてもらえたら、その時はよろしくお願いします。

元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429796580/

-不知火