艦これSSまとめ-キャラ別これくしょん-

艦隊これくしょんSSのキャラ別まとめブログ


天城 由良 夕立 涼風

【涼風SS】提督「下っ端ですが何か?」【艦これ】

地の文ありのSS。

息抜きに書いてたものです。

嫁艦いる方にはキツイ展開かもです。
汗が溜まると彼女たちの愚痴を聞く。
暑い嫌だ嫌だと言いながら、タオル地が彼女らの首や胸をなぞる。
私は日差しを疎みつつ、近くの一人に日焼け止めを投げてやった。

「提督」

キョトンとした女に私は言う。

「シミがついては嫁の貰い手がなくなるだろ」

私の言葉に彼女は笑った。

「バカです、提督。選ぶのは女です」

「そうか」

と、私は言うとパナマ帽を深く被った。

降伏すれば戦争は終わる。
が、敵が政府を持たないなら一体どうすればいいのだろう?

私が参加してしまった戦争は長々と続いていた。
当初は奇異の目を集めた艦娘も、今や一定の認知を得た。
銃後の人間には我々の闘争は愚かに見えるようで、
彼女らの戦闘行為を批判することさえ出来るようになった。

『いわく、女性主体の戦争とは何事か』

平和な海の回復は見えているものの、決定打にかける状態。
それが私の戦局への理解だった。

下っ端の私はそんな戦争で、前線近くで兵を率いていた。
私の艦隊が弱小だからこそ出来ることだった。
嘆いたことは多く、愚痴ならいくらでも出る。
けれども臨時の佐官の自分が、
艦娘を投げ出して逃げられるはずもない。
気づけば、私は本土行きの任務くらいは任されるようになっていた。
部下に仕事を投げてからホテルで飲んでいた。
隣の客のつまらない話が終わり、
私は美味くもないシンガポールスリングを傾けていた。
…煩いから逃げてきたのに、それに夕立が目敏く気づいた。

「提督さん、探したのよ。サボってズルいっぽい!」

ムスッと膨れた彼女を見て、私は言った。

「ズルいもんか、私が一番偉いんだ」

「だからサボっていいわけがないっぽい。大淀に言いつけるわよ?」

夕立はそう言ったので、ヒヤリとした。
私は慌ててバーテンにノンアルコールのロングドリンクを注文する。
誤魔化しのためである。

「で、夕立要件は?」

私が聞くと彼女は元気よく答える。

「提督さんに報告っぽい。入電確認、対象は明日にでも入港予定」

「ふうん」

私が言うと、夕立は赤い目で見る。
彼女には、泣きぼくろがある。

「やっぱり面白くないっぽい?」

「そらな」

「帰れるんだよ?」

「俺は下っ端だから意味ない」

「嘘っぽい。本当は別の理由でしょ?」

「他人の物の護衛ってな」

私が言うと、夕立は言った。

「うーん、それは退屈っぽい」

私は「そうか」と言うと彼女の小さな手にグラスを渡す。

「ところで由良は?」

「天城と哨戒っぽい。提督さんの指示でしょう?忘れたの」

耳が痛い。
自分でやったんだったか?

「ところで涼風は?」

私の隣に座って夕立が質問する。足が届かなくて、パタパタと足が動く。
私はグラスをカウンターに置くと答えた。

「食あたりだ」

「やっぱり涼風らしいっぽい」

「お前もだ、買食いで当たるなよ?ここは水が悪いからな」

「一航戦の二人じゃないもん」

私は笑うと、再びグラスを傾けた。

港に戻る。
哨戒から上がった由良と、天城が私に気づいた。
由良が言う。

「提督…護衛もつけずに、夕立を行かせたんですが…彼女は」

「眠気だ。涼風の食あたりもある、悪く言うな」

私も食いながら、涼風だけ食あたりした肉の串焼きを思い出す。
美味かったが、色々ヤバかったらしい。

港に戻る。
哨戒から上がった由良と、天城が私に気づいた。
由良が言う。

「提督…護衛もつけずに、夕立を行かせたんですが…彼女は」

「眠気だ。涼風の食あたりもある、悪く言うな」

私も食いながら、涼風だけ食あたりした肉の串焼きを思い出す。
美味かったが、色々ヤバかったらしい。
由良の大きなため息の後で、

「索敵しましたが問題ありません」

天城がそう報告する。

「了解。では戻るぞ」

私はそう言うと、待たせていたリキシャーに二人を連れて乗った。
乗り心地は最低である。
おまけに排ガス臭かった。

ホテルに戻ると、涼風の部屋をノックする。

「提督かい?」

「加減はどうだ」

「いいもんか、ばっきゃろ」

鍵が開くと青い顔の彼女が顔を出す。
それでも少しは良くなったようだ。

「ほれ、スポーツドリンク。飯も食えんだろ?」

「…助かるよ」

彼女は私の差し出したビニール袋を取ろうとして…
フラついた。
仕方なく咄嗟に支えた。

「おい」

「チキショウ、食あたりめ」

私はため息をつくと彼女を持ち上げる。
嫌がるかと思ったが、意外や大人しい。

「艦が体調不良って。なんてこった」

「言うな」

「鉄の身体があったけえってのも、変だな提督」

「元人間だろ」

「辞めたよ、随分前さ。センセは誰だっけ?」

彼女の視線を避け、私はベッドに涼風を置いてやる。
まだベッドにはぬくもりがあった。
私が来るまで寝ていたのだろう。

「で、提督」

「ん?」

袋を漁りながら涼風が言う。

「その、外人の艦娘は何時来るんで?」

「予定通りだ。明日には来る」

「そうかい」

涼風はボトルを口につける。

「難儀だね、艦娘は飛行機に乗れないってのは」

「法の上では器物だからな」

私が言うと涼風はムスッとする。

機嫌を曲げられるとマズいと、私は直ぐに謝罪する。

「悪いな」

「なんでもないよ」

「お前は他の涼風と違うな」

「同じ涼風でも、顔が違うって知ってるだろ提督?」

「そだな。お前は片目が一重だもんな」

「気にしてるから言うな!」

「それだけ言えるなら十分だ。もう出る」

私は扉に向けて歩き出す。

「問題無ければ明日からだ」

「あいよ」

涼風は、そう返事を返した。

提督にも種類がある。
執務室でふんぞりかえる奴がいるかと思えば、
現場で指揮する私のような下っ端も当然いた。

下っ端の私が、こうして海外艦の回収のため駆り出されるのは、
ある意味やむを得ないことだった。

世の常だが、戦功を上げたものから強力な艦を貸与されるのは当然の流れで、
私のような末端提督には急造空母と駆逐くらいしか与えられない。
清い志と小金の為に、
ダラダラと死地に居座ることは気分のいいことではないが、
それでも下っ端だから仕方がない。

そんな私は部下をホテルのラウンジに集め、
ブリーフィングを始めようとしていた。

「そろったな?」

全員、制服姿。
私は、夕立、涼風、由良、天城を確認すると口頭で伝える。

「回収予定の海外艦は、Z3、リベッチオ。
…リットリオ、ローマ、ザラ。
でビスマルク、プリンツオイゲン、グラーフツェッペリン、
そしてZ1、U511は我々の回収対象でない。
繰り返すが、任務としては彼女らを横須賀まで護衛だ」

涼風が口を挟む。

「楽勝だね」

「気を抜くな、何が出るかわからん」

「ですね」

由良が相槌を打つ。
…夕立も理解しただろう。
欠伸していたが。
私は話を閉めることにした。

「行くぞ」

港に行くと、軍の検閲がある。
艦娘を引き連れてると嫌でも視線を浴びる。
夕立が割合落ち着いてることに安堵しながら、
私は2隻の艦と対面した。

日焼けした白人将校から説明を受け、私は握手もソコソコにテントを出た。

…暁型の融通など私には荷が重い。
あと個人的に扶桑型を貸してくれってどういう事だ?

スケベジジイは死んでしまえ。
私も含めて。

テントの下に、二人の少女が見えた。
私は、PXで買ったボトルを手に声をかける。

「こんにちは」

「はじめまして!」

最初に顔を上げたのがリベッチオ。
続いてあまり機嫌のよくなさそうなZ3が私を見る。

「そうだ。遠くまですまない。暑いだろう?」

サイダーを二人に手渡すと、礼を言われる。

「…ダンケシェン」

「アリガト!」

…悪い子ではなさそうだ。

6隻の艦娘を連れて、手配した艦に戻る。
同じ日本人だが、敬礼こそされたがいい顔はされない。
当然か。
提督どもが女衒将校と言われて長い。
私も恥ずかしながらその一人で、
…男所帯のDDに乗るのは気が重かった。

さっさと充てがわれた部屋に通されると、
わざわざ案内してくれた艦長から、
『貴方は艦長の指揮権意外は無い』との釘を刺される。
わかっています、と返事を返す。
母国までのつまらない旅だ。
本でも読むか…

甲板で喫煙していると、天城が見つけた。

「またですか」

「いいじゃないか」

「そればかりですね、提督のお答えは」

「他は?」

「夕立のゲームに涼風が付き合ってます」

「由良は?」

「本を読んでました。提督ですね、渡したの?」

「江國香織だったか」

「カザンです。宮部みゆきや有川浩で無いんですね」

「肌に合わなくてな」

「そうですか?面白いと思いますけど」

「ファイヤマンが既にいる時代だ。軽くない方がいい、古い方がいい」

「どう言う意味です?」

「皆主体的に読書を忌避してくれるから、そう言ったんだ。どんな小説ももう燃えてる」

「そうでしょうか?紙から画面に変わっただけでは」

「それなりの年数を耐えられないのは、その場しのぎの模倣だよ」

2本目のタバコに火をつける。

「…提督、機嫌悪いんですか?」

「いやぁ?」

「答えてませんよ」

「では考えろ」

「機嫌が悪いから聞いてるんです」

「…何も変わらないなと思ってね」

「現状がですか?」

「そ、正解」

「どう思われてます?」

「回転だけ早まってやってることは何も変わらない」

「そうでしょうか?」

「例を出そうか?私みたいな士官は死ぬと解って兵隊を死地に送る。勝てば昇格、負ければハラキリ」

天城は悲しい顔をする。

「悲観的ですね」

「モードと一緒さ、生まれた瞬間から死ぬ事が決まってる」

「定番もありますよ」

「それもあるかな。けど私は幸福より不幸が多いと思ってる。でもって充実してるやつはもっといない」

「充実?」

「満足しながら生きてるやつ」

「…そんな事考える人がいますか?」

「いたらいいなと思うよ」

私はタバコを携帯灰皿に落とした。

「提督さん。退屈っぽい」

来るなと念を押したのに、
夕立が私の部屋にやってきた。
さて隊員らに何を言われるか…

「本しか無いぞ」

「漫画の他はイヤっぽい」

「手塚治虫すらないぞ」

「えーっ?!じゃあ、しりあがり寿は?!」

「え?」

「え?」
「…お前のセンスは置いておいて、駄々言うな」

「むー、なら今度スロトボエッジ全巻ね」

「そっちを先に聞きたかったよ」

「ギャグには煩いっぽい」

「そんな主張は知らん」

私が言うと、夕立はベッドに飛び乗る。
そのまま犬か猫のように伸びる。
彼女は何か思いついたらしく上着の襟元に指をかけた。

「じゃあ、楽しいことしましょ?」

「アホ、コドモが言うな」

「む、子供扱いして!涼風よりオッパイあるっぽい」

「はいはいはい…」

「なんで興味なさげなの?!」

「いやな、だってな、考えてみ?おっぱいなんて飾りや、うん」

「じゃあ、天城のおっぱいなら」

「熟考致す」

「サイズじゃないの!」

「ちげーよ、用途とトップとアンダーの差だ。お前のそれは形はいいが絶対固いもん」

「ごく自然に変態発言する提督さん、マジキモいっぽい」

「うるせえ、ロ◯◯ニン用意しねえぞ」

私は言うと、彼女に言う。

「とにかく、隊員とレクリエーション室でゲームでもしてこい」

「なーんかイヤっぽい。あの人たち」

「お前ね…」

「提督がいーの」

私はため息をつくと、夕立に言う。

「なら座れ、髪でも梳いてやる」

夕立が落ち着かなかったり、
由良に渡した小説について延々と解釈を語らされる羽目になった他は問題なかった。
独伊の駆逐も、上手くやっているらしい。
そうして船旅も残り半ばとなった時だ。
隊員の一人が私を呼び出す。
近くで艦娘対深海の闘争があったようで、はぐれを討てとの命令だった。
私は部下を呼び出した。

点呼ののち、私は言う。

「あくまで防衛だ。敵が逃げるなら追わなくていい。補給出来ても修理は望めない、いいな?」

返事を確認すると、私は彼女達を出撃させた。
部屋で旗艦の天城との連絡を取っていると、部屋を誰かが叩いた。
ドアを開ける。
いたのは、Z3だ。

「どうした?」

私が言うと、彼女は答える。

「何故出撃させなかったの?非常時は、私と彼女の指揮権が貴方にあるはずだけど」

頬をかく。それを考えない訳ではないが…

「万一の時に、君らに戦闘させた責任をもてないからね」

「役人みたいなことを言うのね」

「危ない橋は避けて然るべきだよ」

私は言うとタバコを手にした。

「貴方も吸うのね」

「ん?」

「ビスマルク姉様が吸ってたから」

「ああ」

私は生返事を返しつつも、目の前の少女の事を考えた。
不安だろうな。そう思った私は言った。

「なら飴をやろう」

「なんなの?」

「酒のつまみ」

彼女は、眉をへの字にする。

「意味がわからない」

「いや、子供に渡すのがそれくれいしかなくて…」

「ふざけてるの?ヤーパンは真面目だと聞いていたけど?」

「遊び人は世界共通だ。私は豊かな怠けでありたい」

「ドヤ顔で言われてもね」

「私としては君からドヤ顔が出た事にびっくりだよ」

問題無く、任務から彼女たちは帰ってきた。
会敵すらしなかったらしく、夕立が不満気だ。
由良は、潜水艦がいないことを不審がっていた。
天城に報告だけさせると、私は彼女たちを下がらせた。
なんとなく、嫌な予感が晴れない。

その日の夜だ。
寝つきが悪くて甲板に出ると、人影が見えた。

「君は」

リベッチオだった。
目が、赤い。
ゴシゴシと目を擦った彼女は、慌てて私に言う。

「何でもないの!」

「そうか」

私はタバコを取り出す。
それを見て、リベッチオが言う。

「ねえ、タバコって美味しいの?」

「酒よりまずい。けど、酒より酔わない」

「変なの」

そう言ってから彼女は続けた。

「みんなに会いたいな」
「そうか……?」

その時だ。
警報機が作動する。
敵襲だと理解するが早いか、船体が傾く。
何かが出たと気付いた時には、傾斜が更に酷いものになる。
遅れて水柱が上がった。

何かが、いる。

次の瞬間、唐突な爆発で私の意識は吹き飛んだ。

咳で目が覚めた。
すげえ、しょっぺえ。
あの世かと思ったが、五体満足であった。
砂浜らしかった。私は周囲を見る。
で、パンツを見た。

パンツ、下着である。

白であった。正気を疑った。
自分が狂ったかと真面目に思った。

「…」

何も言えないでいると、
彼女はかがんで流木を私に向ける。
下着が見えても気にしないらしい。

「言葉わかりますか?」

強い日差しで顔は見えない、ただ色素の薄い髪は理解した。
ちなみに言葉は、よりにもよってドイツ語だった。

「なんとか」

体を起こすと彼女の艤装が見える。

「なんとか」

体を起こすと彼女の艤装が見える。

「…なんてこった」

大きさからして重巡。
資料で見た形。

「艦娘…」

私が言うと酷く驚かれた。
それはそうか、行き倒れの男が言うんだからな。

プリンツオイゲンと彼女は名乗り、私は頭が痛くなった。
彼女がこんなところにいる事は、私らの後続である彼女らも襲撃を受けたことを意味していた。
…死ねばよかったかと頭に浮かんだ。

「確認だが、君らが先に襲撃されたんだな?」

「ですねえ。私だけ無傷です」

どこか上の空で彼女は答えた。

「…怪我人いるのか?」

「姉様と、イタ公どもが中破です。」

オイゲンは、そう言うと低く這う椰子の影を流木で差した。

何人か、いた。
近づくと当然反応された。

「…民間人?」

ひび割れ、片方だけの眼鏡の女が最初に聞いた。
目つきが悪いのは見えてないからだろう。
所属を名乗ると、全員が意外そうに私を見る。

「アトミラールでしたか」

ザラがいったところで、ビスマルクが指摘した。

「嘘かもしれないわ」

「私も疑う。だがその元気があるならヨシ」

私は言いつつも、内心は暗い。
日陰にいた艦娘は全部で三人。

ビスマルク、ローマ、ザラ、全て大破である。
その上数が合わない。
リットリオ、Z1、U511、グラーフがいない。

「他は?」

「知らない、なんとか逃げてきたもの」

ローマが言うと、ビスマルクが睨むように彼女を見た。
私は頭を抱えた。

なんとかならないか。
確実にヤバイ状況の中、幸運にも持っていた防水スマホ(官給)。
ソレとプリンツの通信設備を借りて、私はまず自分の艦隊を呼び出した。
賭けだったが、彼女たちは私たちを発見してくれた。

「提督さーん!」

「オイ馬鹿!」

夕立が砂浜に上がる。
で、そのまま減速せずに私に突っ込む。
どさりと砂浜に倒れると、涼風が覗き込んだ。

「地獄に提督は嫌われたんだねェ」

「バカ言え三途の川を渡り損ねたんだ」

「奪衣婆でも口説いたんだろ?」

「閉経したババアに興味ない」

「そうかい、冥土の土産がなくて残念だ」

「言ってろ」

私は二人を見る。
どちらも軽微な小破。問題無く戦闘は続行できるだろう。
…行けるかは別として。

「さて、報告」

私が言うと、二人は姿勢を正す。

「不明勢力と交戦、艦は壊滅です」

夕立が答える。

「非常時のためマニュアルに基づき自衛を開始、散発的な会敵そあれ、脱出しました」

涼風がそれに補足を加える。

涼風がそれに補足を加える。

「由良、天城、リベッチオ、Z3は護衛で生存者に同行。我々は救援のため移動中でしたが…」

そこで、涼風は私の後ろを見た。

「提督の通信と指示に従った次第です」

「なるほど」

私は頬をかく。
どうしたものか。
南方でドッグを備える基地へ行かざるを得ないが…

内心こんな艦隊を率いたくは無い。

戦闘可能なのが3隻、残りは満足な航行すら難しいレベルだ。
かと言って再び彼女らを海へ出すのはマズい。
それに、懸念もある。

「近くの泊地まで…無理だな」

私が言うと、夕立が言った。

「無理じゃ無いっぽい。私強いもん」

「無謀だバカたれ」

「バカじゃないもん!」

「戦艦相手なら死ぬぞ。無駄死にさせるのは胸糞悪い」

「じゃあ、じゃあ!提督さんどうするの?」

私は言うしかなかった。

「1日待つ、皆救難信号は出しただろ?」

反対意見は出なかった。

策があるわけでもない。
しかし、のうのうと海に出て行って殺されるのもまずい。
浜を歩きながら私は考えていた(なお夕立と涼風はおいてきた)。
タバコが欲しいと思ってポケットを探ると、未開封のハイライトがあった。

…が、ライターがない。

しくじったと思っていると女の声がした。

「貴方、タバコ持ってたの」

ビスマルクだ。
大破だから、非常に目に悪い格好をしている。
ただ、何処となくそわついているように見える。

「ライターあるか?」

「あるわ」

ダメもとで尋ねると彼女は投げて寄越した。
オイルライターだった。

「濡れたから、着くか知らないけど」

彼女が言う通り、本当に着かない。
が、なんとか火が付き私は慌ててタバコを近づける。

「ほれ、あんたも」

ハイライトとライターを投げると、彼女は片手で受け止めた。
慣れた手つきで彼女は火をつけようと試みるが。

「ダメね」

言うが早いか、彼女は私に近づく。

「おい」

止めるより先に、シガーキスが交わされた。
彼女が咥えたタバコに火がつく。

「ダンケシェーン、アトミラール」

彼女は言うと私の隣に座った。

「お前ね」

私が言うと、彼女は言った。

「ヤーパンはお淑やかな女が多いのかしら」

「飾り窓にでもいたか?」

私が皮肉を言うと、彼女は笑う。

「あたり、生活に困ってなったわ」

「…」

頭痛がした。
異国にも女衒はいると知っていたが、いざ被害者に会うと気が滅入る。
自分も実態は大差無いのだが。

「で、兵器になってクソったれな祖国からエクソダス。いい生活だわ。もう薄っぺらな愛の言葉を囁かなくてもいいもの」

彼女は、そう身の上を話した。

「死にたいのか、艦娘なんぞになって」

「さあ?」

「さあって」

「考えないもの、そんなの面倒じゃない」

「面倒?」

「シンプルがいいのよ、私」

私が黙ると彼女は言った。

「何も起きないといいわね」
学生の頃、2年間の休暇より蠅の王の方が興味を持って読めた。
文明よりも混沌が勝り、
純真など大人が押し付けるのだと共感できたから。

だからこそ、だ。

現状に強い危惧を私は感じていた。
ある程度の準備と自衛の用意はあるものの、ヒトは私一人。
異端として焼かれる恐怖があった。

夜が来る前に、火種だけは確保した。
その後の島内の探索は夕立と、名目上のお目付けの涼風に任せた。
多動の症状を見せる夕立が落ち着けると思わなかったし、
人見知りの兆候がある涼風が海外艦相手にストレス抱えるのは分かっていた。
そうして二人を見送った。

…私は、残る彼女達を見る。

ビスマルクは、くれてやったタバコを吸っていた。
その隣でオイゲンが、ビスマルクにもたれかかって眠っている。
一番状態が悪いローマは、ザラの手で扇がれていた。
ザラの腕に従って、色の悪い大きな葉が動く。

ローマが声をかけてきた。

「貴方、怖くないの?指揮下でもない艦娘といることに」

「怖くて提督が出来るか」

私は言いつつ首から下げた羅針盤を見る。
いざとなれば、頼れるがまだ時期でない。

「見たところ、正規の軍人でなさそうだけど」

ローマが体を起こす。
ザラが諌めた。

「おとなしくしてください」

「じゃあ、貴方気にならないの?彼の事が」

私は無言で火に流木を投げ入れる。
燃料はまだ考えなくていい。

「それは」

ザラが私を見る。
私は視線を外すと言う。

「私のことは気にするな、ただのヒトだ」

夕立達が戻ってきた。
表情は暗い。

「駄目っぽい」

「水源はなかったぜ、提督」

「そうだろうな」

私は島を見る。
典型的な小島だ、期待するだけ無駄だと知っていた。

「どうするの?」

夕立が質問する。
男女7人飲料の確保は必要だった。

「海水をなんとかする。準備はしておいた」

不幸中の幸いだが、人がいない小島という事で漂着物は多い。
使えるゴミを加工して飲料水を確保しようとは試みていた。
その事が涼風には意外らしく、彼女は言う

「やけに手馴れてる」

「訓練であったんだよ、お前らの生存マニュアルみたいなのが」

そうして水を見るが、当然溜まりは悪い。

「…湿らせる程度か」

「ヤシの実は?駄目っぽい?」

夕立が言った。

「あることはある」

私が足元の実を指すと、涼風が驚く。

「どうやって取ったんで」

「上着を引っ掛け登った」

わたしが言うと彼女は呆れたような顔をした。

「提督は、提督なのに無駄な芸が多いね」

「ほっとけ、ただ」

「ただ?」

「無限に無いんだ、こいつは」

私が言うと、涼風は暗い顔をした。

飢えをヤシで凌いだ翌朝。
出立する朝になって問題が起きた。

「雨か」

降り出すなり雨脚は強くなりる。
やがてバケツをひっくり返したほど強くなり、視界さえ効かなくなった。
私は夕立が見つけた穴(おそらく自然のものだろう)、
に艦娘たちを先に逃げ込ませた。

自分はその間にドラム缶やら何やら器になりそうなものを設置する。
てっきり出て行くとばかり思っていたらしい夕立が不満げに言う。

「どうするの、提督さん?」

「待機だ」

「ええー!」

夕立の言葉にプリンツが言う。

「うるさいですよ」

「こんな雨平気だわ!」

「バカ言え、潜水艦が出たらどうする。視界も悪い」

そう言いつつも、私は自分の不運を感じていた。
まさか、こうなるとは。

「不運ですね」

プリンツが言うと、ビスマルクが答える。

「そうね、タバコも切れたし」

雨は止まない。
じっとしていられない夕立がそわつく。
涼風はじっと黙っては思い出したように私を見る。
ローマは寝ている。
ビスマルクもイラついたように(十中八九ヤニ切れだ)こめかみを叩いている。
口を開いたのは、ザラだった。

「…どうなるんでしょう」

私は彼女を見る。

「待つしか無い」

私が言うとザラは言う。

「救難信号が傍受されてませんか」

私は笑った。

「壊れかけの鉄屑を誰が狙う」

私の言葉に噛み付いたのは意外な人物だった。

「訂正してください」

語調の強いドイツ語。
プリンツオイゲンが私を睨んでいた。
更には彼女はいつの間にか取り出した砲で私を狙う。
誰かが動いていた。
夕立だ。反射的に艤装を引っ掛け魚雷を手にする。
続いて涼風が飛び出した。
それをザラが血の気の引いた顔で見ていた。

重巡と駆逐がにらみ合う。

「沈められたいの?外人」

夕立が酸素魚雷を指に持つ。
涼風は私とプリンツの間に割って入る。
巻き添えで人死など御免被る。

「…失礼、失言だった。申し訳ない」

私が謝ると、プリンツは砲を下す。

「夕立、やめろ」

「でも」

「いい」

「でも!」

「二度言わせるな」

ブスっとした顔で夕立も手を下げる。
涼風は長い溜息を吐いて私に言う。

「肝冷やすぜ、バッキャロ」

「悪いな」

「やめなさいよ、プリンツ。頭に響く」

ビスマルクがプリンツに言う。

「……けど」

「いいの、多分そういう人だから、その人」

ビスマルクは続けて言った。

「間違いでもないでしょ、実際。ねえ?」

夕立は明確に苛立っていた。
拾ってきた小枝の皮を執拗に剥ぎ続けている。
涼風はドイツ艦を警戒して、先程の行動を利用して私の隣に移動してきた。
私の袖を裾を掴んだままだ。
自傷しないだけマシだが、二人とも不味い状態だ。

ローマはまだ起きない。

外が暗くなる前に、雨は上がった。

花を摘むと洒落た言い回しもせず、ションベンしてくると外に出た。
下品だなんだの言われたが、やむを得ない。
夕立は『水を見てくる!』と言って飛び出し、
代わりに何故か涼風が私についてきた。

「おい、面白く無いぞ」

「ばっちいもん見せんな!」

「ばっちい?」

「やめろよ!フリじゃないからね!?」

私が愚息をしまってズボンをあげると、彼女は言う。

「提督」

「ん?」

「なんであんな奴等に気を使うんで?その気があれば、夕立とあたいで逃げられるってのに」

事実だった。
私の筏さえあれば、曳航されて少なくとも島からは出られる。
だが、できない理由もまたあった。

「言うなと約束できるか?」

「ん、どういう事で?」

「夕立にもだ。あの子は頭の回転は速いが、考えるのを嫌いすぎる」

「わかった…」

「狙いが、海外艦だってのはお前も分かるな?」

「まあ、そりゃ」

「なのに無傷の重巡がいると言うのはどういう事だろうな?」

「あいつを疑ってんのか?」

「正確にはお前と夕立以外全員だ」

「…被害者じゃないか」

「なら救援が1日経っても、なぜ連絡一つこないんだ?」

「提督」

「彼女らが何を考えてるのか知らんが、出てった瞬間撃たれるのはゴメンだ」

先程のやり取りを思い出したのだろう、涼風は言う。

「悪い妄想じゃないか、それ」

「否定は出来ん」

「…最低だな提督」

涼風はそう言った。

洞穴に戻る前に、夕立が興奮しながらやってきた。

「提督さん!船っぽい」

「船?」

「座礁してるけど浮かぶと思うよ」

彼女に連れられて浜に向かう。
確かに船だった。
流されたか、或いは放棄されたか。
けれど、ひっくり返った状態だとは思わなかった。

「ホトケいるかもな」

私がボヤくと、涼風が袖を掴んだ。

「やめろよ、提督!」

「悪かったって」

船の残骸は、そこそこの物資の獲得に貢献した。
中でも、ごく僅かであったが食料。
そして、ロープやナイフといった道具は貴重なものだった。
洞穴に戻る。
プリンツとザラは寝ているようだった。
目を抑えるビスマルクが最初に気づいて、それから匂いを嗅いだ。
形のいい鼻が動く。

「嫌なひと、タバコ隠してた?」

「まだある、酷く不味い」

私が濡れてないタバコを投げると彼女は破顔する。

「構わない。助かるわ」

起きていたローマが、怪訝そうに見る。

「それ、何処で?」

「船の残骸」

「…そう」

「僅かだが食料もある。食事にしよう」

彼女は気だるそうに体を起こした。
「オートミール?」

ザラがそう言ってスプーンを持ち上げる。
衛生上の危険もあるため粥を作ったのだが、散々な酷評だった。
私は夕立が不味そうに食ってるのを見た。

「まっじいっぽい」

「あのな、寄生虫やら細菌感染とかもある。ただでさえ弱ってるんだから」

事実ローマとビスマルクは無言で食べている。
ザラとプリンツも文句は言わなかった。

「ガイジンさんと、ゲロ風に気を使わなくてもいいのに」

ぼそりと夕立がとんでもない事を口にした。

「おい、夕立なんつった?」

「下痢の方がよかったぽい?」

「うるせえやい!」

軽口を叩けるほど、うちの駆逐艦はかしましい。
…しかし私はすぐに認識を改める事になった。

「なんだ夕立、藪から棒に!あたいがなにをしたってんだ?」

「看病されてズルいっぽい」

「はぁ?!それはお前がバカだからだろ」

「バカじゃないもん!」

「宿題借りてたの誰だよ」

「うるさいっぽい!」

醜態をさらしては、イカン。
私は割って入る。

「おい、二人ともやめろ」

「猟色家の提督は黙ってるっぽい」

場が凍った。
正確には、ローマとビスマルクからの視線がヤバイ。

「夕立」

「ぽい?」

「誰にきいた、その言葉」

「由良がいざって時に言えって」

「……おかしい、由良がそんなこと言うわけない」

「うっかり由良の本を踏んだ時に教えてもらったの」

「お前のせいか!」

「なんで怒るのよ!」

「当たり前だ、馬鹿者!人を女好き扱いしやがって!」

舌打ちが聞こえた。きっとローマ。
弁明しても逆効果なのが目に見えていた。
ここでまさかの人物が割り込んだ。

「でも、あたい提督さんの私室に産婦人科の本あったの知ってるぜ」

「涼風、おま」

絶句する。
あれだけあった医学書の中で、それだけ覚えてるなんて。

「ゲリゲロやるっぽい」

「お前おぼえとけよ、夕立」

「ゲロ風なんて怖くないんだから~ホラー映画で怖くて寝れなかったくせに」

ビスマルクとローマの視線が痛い。
プリンツはキョトン、ザラは引きつった笑みである。

「んだと!」

「きゃー、こわいっぽい」

「とにかくやめろ!馬鹿ども!あと私を巻き込むな!」

「否定しないの?りょーしょくか」

「言うな阿呆!」

男ボウズだったらゲンコツを振り下ろしているが、流石に出来ない。
私は夕立、涼風に言う。

「とにかく止めろ」

「むー」

「提督。だってよ、夕立が喧嘩売ったんだぞ」

「夕立は謝れ、涼風は大人になれ、いいな?」

うむを言わせなかった。
…しばらくして、夕立はムッとした顔を解いた。
なんだかんだ、きっと夕立は謝るだろうとは思うが、非常に気疲れした。

食事が終わると、夕立は「眠くなった」と涼風と一緒に洞穴に戻った。
ネチネチしていないところが彼女のいいところで、涼風も流したようだった。
私はこの炊事の煙が良い方向に働かないかと思いながら、不味いタバコを吸っていた。
プリンツとザラもいない。
先程、もう一度船を見に行くと言ったが、生理現象からかもしれない。
ローマが私に話しかけたのはその時だった。

「雨が上がったのに出ていかないのね」

話しかけられたのが意外だった。

「夜戦嫌いでね」

私が言うとローマは苦笑する。

「提督であるのに」

「そうだ」

そこで、言葉がなくなる。
私はいい機会だと、聞きたかった事を口にした。

「君らは誰と戦った?」

ビスマルクは、ローマを見てから答えた。

「おそらく深海」

ローマは逆に言った。

「深海でなかった」

私は先にローマに聞く。

「…それは我が国の艦娘か?」

「わからない。交戦もそこそこに大破させられたから」

「そうか、でビスマルクは何故深海と?」

「私たちの敵は奴らでしょう?」

それ以上聞くなと態度が示していた。
私は再び黙った。
夜が来た。
今夜も艦娘たちに気を使い、私は砂浜近くに掘った穴の中で横になっていた。
いやに、蒸す。
肌着が嫌な感じになってきた。剃刀を当てたのはもう3日も前だ。
寝付けずいると、足音が聞こえた。

プリンツだった。

彼女は私に気づかないまま、泣き始めた。
聞こえるのは、独語での母親や父親へ会いたいとの言葉。
それから、もう嫌だとも聞こえる。
出るか出ないかと思っていた。
が、耐えきれなくなった。

よせばいいのにと思いながら、私は彼女に近寄った。

彼女はパッと振り返り、私を見る。
涙と鼻水でひでぇ顔だ。

「なんのようですか?」

彼女は、言う。

「鉄屑なんて言ったのに」

「…悪かった」

「あなた嫌い」

そう言うが、彼女は立ち去る素振りは見せない。
私は彼女に聞くまいと決めていた禁を破り言った。

「無理するな、まだ子供だろ」

「子供じゃない!」

ムキになって大声を出された。
それで私はハッキリ理解した。

「今年幾つだ?」

「…言わない」

私は溜息をついて彼女に近寄った。

「わたしが怖いか?」

「……」

彼女は黙る。

「怖かったよな?知らない国に行こうとして途中でこんなことになって」

うつむいて彼女は涙を浮かべる。
わたしは屈む、彼女に目を合わせた。

「大丈夫、姉様は君の事をわかってくれる。約束しよう、私も君の味方になる」

グスグス鼻をすすりながら彼女は上目で私を見る。

「嘘ついてるかもしれないです」

「そう思われても、私は味方になるよ。言いたいことあるだろ?

プリンツは私を見ると、胸のうちを話してくれた。

「怖かった。いきなり知らない敵が襲ってきて、頭が真っ白で…姉様が庇ってくれたけど…」

「うん」

「どうしようもなくて、イタ公が大破してそれで…」

「逃げてきたんだ?」

「うん」

彼女は私を見る。

「どうすればいいか、わかんなくて…それでアトミラールさんが来て」

「そうか」

「…行かないよね、アトミラールさんは?」

プリンツは不安そうに私を見る。

「大丈夫、救援は来る」

私は根拠のない事を言った

「そうですよね」

プリンツは涙を浮かべたまま笑った。

早朝だった。
ザラがすっ飛んできたかと思うと言った。

「ローマが!」

洞穴に向かうと、ローマから血の気が失せていた。
予断を許さない状態であった。
心拍は低く、呼吸は浅く速い。

「夕立か、涼風を呼んできてくれ」

私が言うとザラは走り出し、それにビスマルクが気がついて起きた。
彼女は、ローマを見て言った。

「…どうするの、アトミラール?」

彼女は手をそばで眠るプリンツにやったまま尋ねた。

「手がないわけでない」

「楽にしてあげるとか言わないでね」

ビスマルクは、そう言うとプリンツを揺すって起こす。

「ねーさま?」

「ごめんねプリンツ、ちょっと来てくれるかしら?」

「はぁい」

ビスマルクはプリンツを肩に担ぎながら私に言った。

「貴方も大概な嘘つきね 」

涼風と夕立がやってきた。
私は2人に聞く。

「どちらか、女神を貸してくれ」

涼風が言った。

「…外人に使うのかい?」

夕立が言う。

「私、イヤ。嫌いな人に渡すなら提督さんでも無理っぽい」

涼風は、そんな夕立を見てから私を見る。
胸が痛いが、私は言った。

「涼風」

「…わーったよ、提督」

彼女は私に手を出す。

「持ってけ、ドロボー」

涼風の女神を手に、ローマの近くに戻る。
周りから人は払っている。
彼女は、ボンヤリした目で私を見た。

「なに…す……るの」

「無茶だ、我慢してくれ」

私は機材を用意すると始めた。
ローマの悲鳴が耳に残った

洞穴から出ると、ザラが言った

「ローマは⁈」

大丈夫、側にいてやれ。私だとうなされる

「感謝致します、アトミラール」

ザラは礼を言うと洞穴へと駆けていく。
あとは待つだけだ。

「やっぱり酷いことした」

タバコの匂いで振り返ると、ビスマルクがいた。
彼女は私に言う。

「装備を置換させるなんて、本当にニンゲン?アナタ」

「泡沫提督だよ」

「本当かしら?艤装に触るなんて妖精の技に近いわ」

ビスマルクは、自分の妖精を取り出しつつ続けて言う。

「貴方に少し興味出た」

「そうか。なあ…敵は深海以外にもいただろ?」

私が言うと彼女は周囲を見る。

「…駆逐艦まで遠ざけたのはそう言うこと」

「ああ、どうだ?」

「事実ね。貴方の国の潜水艦を見たわ」

「なるほどね」

「驚かないの?」

「別に。で、どう見る?」

「アトミラール、貴方の考え通りじゃないかしら。あなたの国に裏切り者がいる」

「だろうな」

「どうするの?」

「考えはある」

「そう」

涼風が私に声をかける。

「提督、通信機に返事があった」

「…そうか」

「どうした、そんな暗くて」

「ちょっとな、返事は?」

「待ちだね…何かあるんだろ?」

「嗚呼、なら頼みがある」

夕立は直ぐに見つかった。
喧嘩したというのにプリンツと砂浜で山を作っていた。
子供らしいといえばそう言えるし、
おそらく近しい年齢なのだろう。
適合艦の外観に引きずられるだけで、
彼女たちは限定的な不老なのだから。

「あ、提督さん!」

彼女は私に駆け寄る。

「見てみて!2人で作ったのよ?凄くない⁈」

よく見れば山でなく城である。
プリンツがバツの悪そうな顔をしたが、
手が汚れてる所を見て私は微笑ましくなった。

「夕立、お願い聞いてくれるか?」

「なあに?」

私は彼女に言った。

「えー、それって大丈夫っぽい?」

「やれるか?」

「無理じゃないけど…」

「なら任せた」

私は今度はプリンツに言う。

「プリンツ」

「はい、アトミラール」

「聞こえてたな?やれるかい?」

「…私」

私は、夕立を見た。
ずるいと思うが利用しない手はない。

「夕立はプリンツと2人の方がいいかい?」

「うん、プリンツとなら安心。いい奴っぽい、もうトモダチだもん」

プリンツは、夕立を見てから私に言う。

「やります」

「頼んだぞ」

午後になった。
洗濯糊の効いた制服姿の艦娘が島にやってきた。
旗艦らしいのは…金剛か。

「任せたぞ、涼風」
涼風は戦艦の彼女を見上げた。

「無事だったんですネー」

「はい、なんとか」

彼女は後ろを振り返る。
ビスマルク、ローマ、ザラの3人が控えていた。

「3人ですか」

加賀が呟く。

「ええ、戦闘でね」

ビスマルクがタバコを吹かしながら答え、それに朝潮が顔を顰める。
叢雲もいい顔をしない。

「酷くやられたんやな…大丈夫なん?もう1人は」

龍驤が質問する。

「大丈夫」

ローマは、そう返す。

「…提督が死亡したのに良く頑張りマシタ。では行きマショウ」

金剛が、そう言った時だった。
沖で爆発が起きた。

哨戒していた58は、何が起きたかわからなかった。
それでも機雷が投下された事実を理解して、慌ててさらに潜行する。

「…何が起きたでち⁈」

だが、機雷が投下されたのはその一発のみ。
潜行して待つが追撃はない。
彼女は不安に駆られた。

「どうするの?一度、上がる?でも…」

深海かもしれない。あるいは流れてきただけの可能性もある。
考えるほどに混乱は膨らんでいく。
その結果、彼女は浮上を選んだ。
…島には仲間がいる。
自分を見捨てるとは思えなかったからだった。
彼女はそうして、浮上した。
まばゆい南国の陽光、そして回収対象がいる島を彼女は見た。
ほっと彼女が一息ついた時だ。
58は声を聞いた。

「さ、パーティしましょ?」

振り返るより早く、雷撃が彼女を捕らえた。

「敵襲⁈」

加賀が弓を構えて振り返る。

「索敵は完璧でなかったノ?!」

金剛も一瞬取り乱す。
ビスマルクは”ソレ”を見ながら、あの男が始めたのだと理解した。
…さてどう動くのか見ものである。
彼女はそう思いながら、巻紙の汚れたタバコを咥えてから質問した。

「どうするの?コンゴー」

ビスマルクの問いに彼女は言う。

「戦闘態勢ネ!」

金剛の号令で彼女らは動き始める。
対応が早い。

「沖の58が…!」

朝潮の心配そうな声に、叢雲が答える。

「それより敵をどうにか…」

その時だった。
加賀が叫ぶ。

「砲撃、来ます!」

洋上で夕立は興奮しながらプリンツに話しかける。

「プリンツ、すごく上手!今度、遠くに当てるコツを教えて欲しいっぽい」

そう無邪気に夕立は言うが、大破して失神した58をぶら下げていた。
58はピクリともしない。
そんな夕立を見ることなく、プリンツは砲撃を続ける。

「うん、また今度ね」

彼女の顔が明るくないことに、夕立は気づく。

「どうしたの?」

「ねーさまに当たったらって思って」

「…大丈夫、プリンツのお願いなら私の女神かしてあげる」

「ほんと?」

「だからじゃんじゃん撃って!」

丘に上がった彼女達に為す術はなかった。
最初に朝潮が大破し、加賀も小破となる。
敵は重巡か戦艦らしいと、加賀は判断した。

「く…!」

加賀は走り出し、艦載機を放つが次発が彼女に命中する。
直撃弾に加賀はその場で昏倒する。
そんな混乱する状態の中、金剛は命令を出す。

「龍驤、叢雲!」

「わかっとるわ!」

2人は駆け出し、海へと飛び込む。
金剛は言う。

「戦闘できないアナタ達は奥へ!」

涼風は提督の思惑どおりに動いている事を実感した。

「4対2っぽい」

58を捨てると、夕立は言う。

「どうしよう、夕立…」

プリンツは怖気付いたように夕立を見る。

「提督さんを信じるっぽい、行くよ!」

「うん」

そんなプリンツの腰を叩いて、夕立は艤装を構えた。
彼女の口角が楽しそうに上がった。

叢雲は敵を追う。
まだ空母はあり、戦艦もいる。
だからだろう、敵は急速に離脱を開始した。

「卑怯者!」

苛立つものの、彼女には自負がある。
自分の足なら、無礼者達に近づけるだろう。
事実、彼女は敵に近づきつつあった。
彼女は、敵が夕立と、護衛対象であるプリンツオイゲンだと気づいた。
彼女たちは加賀の放った艦載機を落としている。

「…もらったわ!」

ここぞという時を狙い、魚雷を放つ。
夕立に当たる筈だった。何故なら、夕立は回避行動すら取っていない。
彼女は、確信した。
この手で沈めてやったのだと。

だが叢雲の確信は覆された。

「邪魔っぽい」

夕立の右手が動く。
狙いは自分にない。威嚇のつもりだろうが、もう遅い。
と、叢雲は思っていたのだが…

「嘘よ?!」

夕立はあろうことか叢雲の魚雷を撃った。
砲弾は魚雷に命中、激しく水柱が上がる。
そんな中でも、夕立の両手が動く。
ろくに視認しない状態の中、対空砲火で艦載機を落とす。
そのまま、あろうことか叢雲に向け雷撃を放つ。

「…ッ!?」

慌てて回避。
ありえない動きに、戸惑いはあった。
それでも叢雲が二度目の魚雷を構えた時だった。

「手伝うよ」

何時の間にか涼風が追いついてきた。
叢雲は涼風を見、幸運に感謝した。
夕立なら相手出来るが、重巡となると1人では厳しい。

「助かるわ!」

彼女はそう言って魚雷を放ったつもりだった。
ただ何故か夕立に当たるより早く彼女の魚雷は爆発した。
彼女は疑問に思う暇もなく、意識が飛んだ。

「おお~涼風わかってるっぽい」

大破した叢雲は、海面に倒れこむ。
涼風は顰め面で言う。

「一緒にすんな、キチ」

「ひどいっぽい。ゲロキチなのに」

「なんだと?!怖い夢見て提督を困らせたのはどいつだ」

「2人とも!」

プリンツの声で2人は離れる。
怒りに満ちた、龍驤の声が轟く。

「なんやアンタら、不意打ちとは卑怯やで!このチンチクリンども、覚悟せいや!」

「…あのまな板ムカつくっぽい」

夕立は構える。

「ケンカするか、チビ」

「関係ないっぽい」

夕立が動いた。
龍驤はそれを迎え撃つ。

本来、艦種からすれば勝負にならないはずだった。
加賀と違い、まだ龍驤は艦載機を失っていない。
そして加えて、己が扱う機体にも龍驤は自信を持っていた。
だからこそ、耐久性など無い駆逐に売られた喧嘩などすぐ終わると彼女は考えていた。
この戦闘で自身の障害となるのは、あの重巡だけ。
とさえ、龍驤は考えていた。

「…チッ!」

思わず舌打ちが出る。
駆逐など敵ではない。そうでなければおかしかった。
だが事実として、龍驤は敵駆逐を沈められずにいた。

「なんでや」

それは彼女の練度が低かったからではない。
逆であった。
真っ当なら沈めているはずなのに、敵は沈まないのだった。
その気味の悪さに、彼女は認識を変える。
…この敵は不自然だ。

金剛は混乱していた。
戦闘に加わると言ったはずの涼風が、
あろうことか友軍の叢雲を攻撃した。
更には、援護に向かった龍驤を敵に加わり攻撃している。

「どういう事デスカ⁈」

わからない、わからない。
あの人は回収だけだと言ったのに。

金剛の頭の中には未だ強い混乱があった。
だが、ここで止まればやられる事を彼女は経験で理解していた。
龍驤がやられる前に止めねば。
彼女はそう思い、だからこそ彼女は戦闘に割って入る。

「やめて下サイ、何をしてるんですか⁈」

龍驤は善戦したものの多数に無勢、小破である。
弾薬をぶち撒ける夕立、実にいやな位置に弾丸を放つ涼風。
そして援護のプリンツ、侮っていい相手ではない。
夕立の砲撃を弾きつつ金剛は割り込む。

「なんやねん、あんたら」

敵が沈まない。
いや正しく言えば、駆逐2人が異常である。
どの夕立もヤンチャだが、あの個体は輪にかけていかれてる。
当たるはずの魚雷を吹き飛ばす芸当など、本来ならありえない。

「別に普通の夕立っぽい」

そう言いつつも、夕立は龍驤の攻撃を回避する。
視界がどうなっているのか?
奴はメチャクチャな動きであるのに関わらず被弾すらしない。
挙げ句の果てには背後からの攻撃を回避しつつ艦載機を落としやがった。

「……」

無言の、もう1人の駆逐。
涼風も、同様だった。
こちらは練度が高いのだろう、実に嫌な砲雷撃を繰り出す。
異様な程、雷撃を外さない距離を保ち続けられなければ。

「本当、どうかしとる。あんたらは!」

金剛は早く来ないのか。
龍驤はそう考えつつ、追加の式神を取り出した。

「あなた達!」

金剛が叫んだ。
涼風は答えず、代わりに天に向かって砲撃を行う。
金剛は混乱しながらも、決意した。
ここで彼女らを沈めねば、マズい。
少なくとも練度は自分らに比類する。

「答えがそれなら、躊躇しマセン。全砲門…」

彼女が構え瞬間だった、夕立が笑った。
その意味を金剛は最後まで分からなかった。
その前に、彼女に戦艦の手による直撃弾が炸裂した。

「~~~ッ?!!」

彼女は激痛に耐える。
が、続く砲雷撃まで意識はもてなかった。
「金剛!」

目の前で金剛の体が海面に叩きつけられる。

「どういう事や?!あんな支援が何処から」

龍驤が、そう言った時だった。

「終わりです」

プリンツの放った砲弾が龍驤に当たった。

「ひっどい男」

ビスマルクは、ローマから借り受けた砲を下す。
それから後ろでタバコを吸う男に言う。

「あなた最低」

「別に?敵を倒しただけさ」

「誤認なら銃殺ものよ」

「そんなヘマはしない」

「しかし私に撃たせるなんてね…」

「女の方が射撃は上手だろ。当たるんだから」

「二重で最低」

「言っとけ。さて、後始末だ」

「提督さん、褒めて欲しいっぽい」

胸を張る夕立の頭を撫でてから私は言う。

「よくやった」

事情が飲み込めていない、ローマとザラが言った。

「アトミラール、なんて事を」

「…まあ、見てろ」

私は生かさず殺さずで椰子の木に縛りつけた敵の艦娘たちに近寄る。

「さあ、元気かな?諸君」

金剛が大破ながらもキツイ目で睨む。
加賀も同様だ。

「ファック」

「なんとでも言え」

私は金剛に言う。

「誰の指揮下だ?」

「答えないネ」

「加賀はどうだ?」

「同様よ。鬼畜」

「あぁー、傷つくなあガラスのハートが」

私は、言うと朝潮の頭を掴む。
怯えた目が私を見た。

「ヒッ」

「手元が狂いそうだ」

自衛用の拳銃を懐から取り出すと、龍驤が吠える。

「ニンゲンのクズや、あんた!」

「かもな、さて、そんな君らに提案だ」

私は朝潮の小さな口に銃口を押し付けたまま言った。

「命令で彼女達を回収しに来たことは知ってる。
首謀者、ないし情報を吐くなら殺さない。吐かないなら殺す。
嘘を付いたなら、散々嬲りものにする。
頼むよ?艦娘は出来れば殺したくないんだ。仮にも提督だし」

「ハッタリよ」

叢雲は、そう言う。
仕方ないので私は用意していた物を取り出す。

「じゃ、こうなるか悲しいなー?叢雲からかなー?」

58のセーラーと艤装の欠片を私は放り捨てる。
勿論、血はつけておいた。
彼女達が凍りついたのがわかった。

「いいね、グッとくる。しばらくしてから来るから。じゃ、行こうか、みんな」

そうしてしばらく行った所でザラにビンタされた。
で、艦娘の馬力で私はひっくり返る。
首が抜けるかと思った。

「アトミラール、貴方って人は!」

砲を構えようとしたところで、プリンツが止めた。

「やめて!アトミラールは殺してないわ」

「嘘よ!」

「マジ、見てみろ」

私は手首の包帯を取った。

「俺の血だよ。制服の切れ端にかけただけ」

ザラはポカンとした。

「でも、58がいないけど」

そうザラが言ったところで、涼風が言った。

「先に提督が診てくれたんだよ。大丈夫、私生きてるのを見た」

私は、ザラにぶたれて頬をさすりつつ言う。

「殺しなんて怖くて出来ないよ、俺には」

ザラ、プリンツ、夕立、涼風に洞穴へ戻るように言った。
その後で、私はビスマルクとローマを連れて来た。

「何故この2人?」

ローマが言う。
私は即答する。

「大人だからだ」

「ザラもでしょ?」

ビスマルクが指摘する(プリンツの実年齢は知ってるのだろう)が、
何か言いかけたローマより先に私は言う。

「それでも十代後半だろ?」

「それが?」

ビスマルクが言った。

「お前らより人生経験が少ない。刺激が強いからなー、大人は汚いからな」

「よく分からない言葉ですね」

ローマが言うと、ビスマルクが同意した。

「で、どうするのアトミラール?」

「ま、やることは決まってる。奴らのパーツでお前らの応急処置、弾や燃料も奪う」
「呆れた」

ローマはそう言って私を見る。

「死体漁り上等だ」

「で、私たちを連れて来たのは?」

ビスマルクの質問に私は答える。

「それを手伝って欲しい。子供には刺激の強い事をするからな」

「…ゴーヤは?」

ローマが58について尋ねてきた。

「とっくの昔に艤装を分解して別の場所に縛ってある。無論、生きてるよ。涼風から聞いたと思うけど」

ビスマルクが足を止める、ローマも同様だ。

「貴方ってナニ?ニンゲン?」

ビスマルクに私は答えた。

「ニンゲンだよ。…ただこいつは、ある事情から昔恋人を艦娘にした成れの果てでね。ある程度は妖精の手伝いが不要なのさ」

再度吐くなら殺さない。
そう私は捕らえた金剛らに伝えた。
しかし、彼女らは答えなかった。
仕方がないのでビスマルクとローマの協力を取り付け、
彼女たちから声は聞こえても見えない場所まで駆逐艦を引張ってきた。
時間は無制限にない。
さっさと駆逐艦2人を無効化することにした。

「はなしなさい!殴るわよ!」

手始めに叢雲にした。
深い意味はない。

「怖くないもんね、叢雲ちゃん」

暴れるので速攻艤装のリンクを切り取る。
それを見ているだけの朝潮に私は言った。

「次は君だからさ、よーく見ててよ」

叢雲が吠える。
うるさい。

「クズ、死ね!」

「うーん、元気がいい」

私は、さっさと端子とスマホを連動させる。

「じゃ、最初から本気で。痛覚検査、定圧5倍。ポッチ」

「あ?きゃぁああああああああああああああ!!!」

その手際にビスマルクは顔を顰めたが、実体験のあるローマは特に咎めなかった。
叢雲は、出力増の痛覚検査に悲鳴をあげる。
身をよじっても、どれだけ体を抑えても痛みは消えない。
当然だ。
あるはずのない痛みを私が与えてるのだから。

「ほい。吐く?」

終わったところで声をかけると、彼女は気丈に振る舞った。

「…誰が吐くもんですか」

「じゃ、連打」

私は15連打ほどしてみた。

ゆーっくり悲鳴を響かせる。

抗議の声が聞こえる。
いいぞ、叢雲。
餌として十分だ。

それから私は続いて身体の制御を奪った。
やがて叢雲の絶叫が終わった。
ぐったりと彼女は地面に倒れ伏す。
息も絶え絶え、涙を流す彼女は言う。

「や、やめ…て」

「吐く?」

「…それは」

彼女は口ごもる。

「じゃー仕方ない。今度は痛覚遮断の応用で、薬物ダメ絶対18禁モード。月の裏側まで行ってら」

「え?!」

叢雲が嬌声を上げる。
ガクガクと体は震え、あらゆるものを垂れ流す。
それも当然、報酬系の神経に信号を流し続けてるのだ。
大麻やヘロインと同等のものを。

叢雲は、言う。

「吐く、吐くから…おねが」

涙を流し、ヨダレを垂れ流しながら、彼女は懇願する。
そりゃ、そうなる。
事実発狂寸前まで追い込んでるのだから。

「話すの遅いからチェンジ」

が、私はそのまま、叢雲の意識を落とした。
どうせ情報なんて握っていないと予想していたから。

くるりと、朝潮を見ると彼女は震えている。

「こわい?」

「イヤ、いや…止めて」

「拒否。悪いけど君と叢雲は殺すって決めてたから、うちの子に手出したしね」

「なんで、やめて!」

「仕方ないじゃん、君が悪い。僕も悪いけど、不運は君にある」

朝潮にも同様の手段を取った。
ただし、朝潮は時間と手間をかけて最後まで悲鳴を上げさせた。
理由はもちろんある。
後ろで縛られている龍驤とか加賀とか金剛に聞かせるためである。
私は失神した駆逐艦が起きないことを確認する。
廃人にはしていないから大丈夫。
嬲ってないぞ?

そうして2人を無効化した所で、私は再び残る彼女たちの近くに戻る。
早速質問した。

「ど?気が変わった?」

代わりに金剛から顔に向けて唾を吐かれた。
私はぬぐいながら言う。

「んじゃ、次は龍驤かな?」

「死んでしまえ、ゲス!あんたなんや、あの駆逐艦といい」

「まあまあまあ、ただのハック好きと思ってくれ」

加賀が言う。

「ありえない、妖精でもないのに割り込むなんて」

「人が作ったもので、同じ人が解析できない道理が何処にあるかな?」

「バケモノ」

「失礼な。どんな計算式も誰かが書いてる。難解なプログラムだって人が組むんだ」

金剛が言った。

「軍機違反デス!」

私は笑う。

「純正の制御なんてマージンが多すぎ。あんなので戦わせるくらいなら、始末書書いてもいい」

「…だから、あの駆逐艦の異様なんやな」

「そ、上手いだろ?処理の最適化。なんで艦のスペックに、艦娘になってまで引っ張られなきゃいけないわけ?」

私は龍驤を指差す。

「ま、それはいいや。助さん格さん、そいつからやっちゃって」

「…?」

ローマとビスマルクが不思議そうに見た。

「とりあえず、龍驤から」

言い直して小っ恥ずかしい思いをしたのは私だけらしい。

滑ったことは不問にされた。
ビスマルクはローマと手早く龍驤を押さえつける。
私は艤装のインタンフェースに端末を突き刺す。

「死ね、死ね、死ね!」

龍驤が叫ぶが無視して、私は金剛と加賀に言う。

「さて、残る2人。君らが吐かないせいで、これから龍驤はひどい目にあう。
龍驤がこんな目にあるのはぜーんぶ君らのせいだ。
龍驤の不幸は叢雲らを見捨てた君たちに責任がある。
吐けば良かったのにね?駆逐艦たちは怖かっただろうな。君ら最低だ」

私の言葉に、押さえつけられながらも龍驤が叫んだ。

「鬼、悪魔!絶対に殺してやる、うちはお前をゆるさへん!」

私は端末を操作、艦娘の整備システムに割り込む。
まずは龍驤の声を切る。

「と、まあこんなもん」

龍驤は、声が出ないことで暴れる。
だが戦艦に押さえつけられ動けない。

「人でなし!」

加賀が激昂する。だがロープが軋んだだけだった。
にくいねえ。
金剛は歯を噛み締めている。

「いや君らのせいでしょ?弱いし、選択ミスって奴。
大破したのは誰です?それに伏兵がいることにも気づきなさいよ、プリンツを視認した瞬間にさ」

私は加賀に言った。

「ゲスが!」

「あれれ?まだ吐かない?じゃあ龍驤にヒドイことしまーす」

聞くが答えはない。
金剛も加賀も唇を噛み締めている。

「仕方ないなー、次は痛みからか」

龍驤が痛覚検査で大暴れする。
だが、声は出ない。
その痛々しさに、金剛と加賀の顔が歪む。

「はっはっは、ひでえ顔。写メでも撮ろうか?」

「化け物、楽しいデスカ!?」

「いや全然。胸糞悪くてムカムカする。早く吐いて、さあさあ」

それでも、二人は口を割らない。
強情だ。
面倒だ。
だから私は四肢の弛緩コードを打ち込み、龍驤の動きを奪う。
その事に気づいた龍驤の目から涙が溢れる。

「そんな態度ならいいや。あと1つで私は彼女を殺す。駆逐で疲れた」

龍驤の目が開かれた。
ハッタリだが、効果はあった。
加賀が言う。

「絶対に!死んでも、貴方を殺す!」

「おいおい、これでも自重してんだぜ?
なんならコレを自慰させながら舌を噛み切らせることも出来るんだから。
それとも加賀はだらしなく腰でも振りたいの?私相手に?」

加賀の顔が真っ白になる。
怒りを通り越したらしい。

「怒るなよ、お前なんて好みじゃない。これでも吐かない?」

「誰が、吐きマスカ」

金剛が言う。

「残念、じゃあ君らの前で彼女は死にました」

私は睡眠コードをたたき込み、龍驤を落とす。

「はい、ざんねーん。最低な仲間だね」

金剛も、加賀も目を背けた。

「あー背けた。ひでえな、お前らが叢雲、朝潮、龍驤を殺したのに」

「悪魔!」

金剛が吐き捨てた。

「違います。お前らが龍驤を殺した。
叢雲も朝潮も苦しんで死んだのも君らのせい。さぞかし無念で痛かっただろうな」

「詭弁を!外道!仲間を売れマスカ!?」

「そう?でも実際、吐かないと死ぬよ?」

金剛はぐっと黙る。

「大差ないじゃん、吐かないなら仲間も自分も殺される。
感謝するかなー?お前らがこうやって追い込まれたことを知らない鎮守府の仲間は?
むしろ悪だからね、君らは。
救うなら散々怖がってから殺された、朝潮とか、叢雲とか龍驤じゃん?
吐けば苦しまなかったんだよ?悲鳴聴こえたでしょ?助けてとか、もう嫌だとか?
聞こえてたのに、何もしなかった。君らサイテーじゃん。年下が苦しんでるのに何もしないなんて」

「違ウ!」

「違わないよ。金剛。加賀。ぜーんぶお前らのせい。
選択をミスしたお前らの選択。私がやらないとでも思った?
イヤだといったけど、別に君らを殺すことはなんともないし」

「畜生にも劣るわ」

加賀が吐き捨てる。

「人間でーす。まだ、ションベンぶっかけだのゴーカンしないだけマシと思ってよ。
じゃ、また来るよー?いい答えを期待してるね」

龍驤、叢雲、朝潮を安全な位置に移動させたところでローマが言った。

「茶番」

「お?」

「いいえ、あの悪趣味に理由があるのかしら?」

「勿論。どうやら簡単に裏切れないほど信用してるらしい」

「駆逐を無効化したのは?」

「恐怖の味付け」

ビスマルクが私に質問した。

「本当に、ただの艦隊だとは思わないの?自分が狂ってるとか」

私は答える。

「正しいなんて証明できない。
けど事実として我々は襲われた。なら、都合よく現れた彼奴らを疑わない理由があるか?
それにだ、何故半日経過して奴ら以外の真っ当な増援や救援がない?」

答えはない。
私は言った。

「2人は明日に回す。今日は寝る」

「そんな悠長でいいの?」

ローマが言った。

「ただの艦隊なら今頃追跡が来てるさ」

仮眠して翌朝。
ある程度の今後の流れを洞穴の中で彼女達に説明した。
その後で、拘束して憔悴しただろう2人の前に来た。
両者、一睡も出来なかったようだ。
私のせいだけど。

「ほれ、水」

「施しは受けないヨ」

金剛は拒み、加賀も同様だった。

「…救援はこないぞ~残念だが。それにもしかして悔やんでるの?仲間が死んだこと」

ハッタリを再度かますと、金剛は私を睨みつけ言った。

「死ネ」

「はいはい寿命が来たらね。ただ、弱るぞ?飲まず食わずだと」

「それでもイイネ」

「ふうん」

私は納得すると、踵を返した。

「じゃ、放置。私君らの目の前で食事するから」

洞窟に戻ると、鹵獲した装備で夕立が遊んでいた。
叢雲、朝潮は待機コードでボンヤリさせた。
夢見ているような状態だろう。

「すっごいすっごい提督さん、メチャいいっぽい!」

「ならよかった」

私は、涼風を見る。

「大丈夫か?」

「ん、なんとか」

「後で頼みがある」

耳打ちしてから、私はローマとビスマルクを見る。

「都合どうよ?」

「ギリギリ行けるわ」

「ええ」

「よし」

私はザラと、プリンツに言う。

「悪かったな、2人とも」

「いえ、アトミラールも考えあってですから」

ザラの後でプリンツは言う。

「でも…」

「ん?」

「いいんですか、本当」

「まあなんとかなる」

私はそう言うと、彼女らに伝える。

「こんな状態で君らを海に出す私は最低な司令官だと思う」

小さな笑いが起きる。

「しかも、過半数は私の部下でない。
しかしだ、こんな状態にしでかした奴の思い通りにさせたくてないだろ?
頑張ってくれ、私からは以上だ」

わざと金剛と加賀の横を通らせて彼女たちを海に出した。
私はその後で言う。

「吐くなら今だぜ?ションベン漏らしてるし、もう恥なんてないだろ、な?」

「…貴方を守る兵がいないのに強気ね」

「まあね」

加賀に返事を返すと、私は金剛に聞く。

「もう吐いて楽になりなよ。吐かないなら、君らは相当酷い事になる。これは本当だ」

「ノー」

「愛されてんな、君らの提督さん。本当にいいのか?」

「聞くものですか!」

「なら君らの選択だ。私は、それ以上知らない。
繰り返すが、これは君らの選択だ。その忠誠から酷い結果になったことを残念に思うよ」

そう私は言うと、端末を取り出す。

「昔話していいかい?」

「聞きたくもない」

「それでも話すけどね。
ある男がいましたー、金コネ才能ありません。
けど医者になりたかったんで士官学校で医学を学んでました」

金剛も加賀もそっぽ向く。

「で、その医学生、ある時女に惚れます。病人です。不治です。
……未来には不治でないだろう病だけど、今はなーんもできません。もちろん男もね。
けど惚れました。で、治したくなるでしょう?若いしロマンスからさ」

彼女たちは聞かないようにするがそれでも私はしゃべる。

「で、医学生、士官学校でも学んでます。艦娘も知ってます、その術式もね。
だから医学生考えました、知識ばっかで考えない頭で。感情だけで決めました。
女を艦娘にすれば万一の可能性があるとね。
で先ばしりました。女を執刀しました。
術式を使って艦娘にして限定の不老で病を誤魔化して、めでたしめでたし」

私は立ち上がり、おもむろに加賀の首を掴む。
加賀が、ここにインタンフェースがあることは知っていた。

「ですが、話は終わりません。
女は艦娘です。戦地に行ったきり帰ってきません。
はい、愚かですねー、男はまた1人になりましたとさ、ちゃんちゃん。
教訓は目先の利益だけを考えるなってことかな?」

インタンフェースに端末を突き刺す。
加賀は呻き、私の腕に噛み付く。

金剛が叫んだ。

「もうやめて!」

「聞くかバカ。
で、男は逆恨み。艦娘とか戦争を憎み、自らも提督さんになりました。
彼は自分の艦娘を守ると決めてます。
…同じことをさせない為に、せめて自分の艦隊は絶対に守ると。
たとえ、どんな娘たちでも、です」

加賀の力が強くなる。
噛み付かれた腕から血が流れ出す。

「よくも私の艦娘に手を出したな。
正直俺は私の艦以外どうでもいい。お前らなんて惨たらしく死ねばいい。
最後のチャンスもお前らは拒否した。だから私はお前らを利用する
私はね、お前らが心底慕ってる提督さんみたいなのが一番嫌いだ。
のうのうと司令室にいるだけならいざ知らず、他の艦娘を襲いやがって」

加賀の意識を停止させる。
がっくりと、加賀が止まる。
私は金剛に言う。

「吐け、情報全部。今なら楽にしてやる。最終だ」

「イヤ!」

「ならいい」

私は金剛の腰のインタンフェースに端末を挿入。
有無を言わさず、金剛を停止させた。
苛立ちだけがあった。
だが、最後にやる事がある。
私は動き出した。
翌日、長い雨が降って上がった時だ。
傘を差した人影を先頭に6隻の艦娘がやってきた。

大和、翔鶴、大鳳、木曾、阿武隈、401

私はタバコを吸いながら彼女達を見る。
どうやら私は賭けに負けたらしい。
迎えは敵のようだ。

「…1人か?」

砂浜に上がった木曾が軍刀を抜きながら私に聞く。
それで理解した、こいつらは敵で間違いない。

「ああ」

阿武隈が金剛と加賀を見つける。
あまりに酷い状態に絶句される。

「ッ⁈」

「殺しちゃいない、全員生きてる」

大和がストっと前に出る。

「…貴方が主犯ですか?」

「他に誰がやると思う?」

「拘束させて頂きます 」

「どーぞ」

私に401が近づく、持ってるのは手錠か。

「何が、目的ですか」

翔鶴が言う。
私は答えた。

「目的は、仕返しかな?」

「意味がわかりません」

「だろうな」

私は言うとタバコを捨てる。

「こちらの要求は、君らの司令と会いたい」

「狂ってる貴方に合わせるものですか」

そう言ったのは大鳳だ。
私は笑う。

「君らの上官よりマシだ。
58に吐かせたが、上手い手順だ。深海に便乗して海外艦を奪取。
技術的優位を持って大本営さえ倒して、戦争を終わらせるとお前らの上官はのたまったらしいな?
馬鹿馬鹿しい。誇大妄想もいいところだ、英雄願望を抱いた独裁者じゃん?」

彼女らが息を呑む。
大和が代表して反論した。

「…ッ、ですが事実でしょう!
大本営は戦争を終わらせるつもりもなく、逆に提督はその後を考えています。
私たちの権利だって…」

「それがどうかした?」

私は言った。

「君らの司令の夢は偉大だ。楽しい海、戦争を終わらせる。腐った大本営を倒す。
私もしてみたい。だが、それは夢だ」

「貴方はこの現状に何も感じないんですか?!」

「それは感じる。けど政治家でもないのに、世情を憂うのは凡人には荷が重い」

私は言う。

「けどまあ…そんな意識を多くの人が持てばいいとは思うよ。
さて、話を戻そう。私は君らの親玉みたいに、自分が戦争を終わらせるなんて自惚れはない。
良くて退役したいだな。それに君らの勇気、献身が銃後に届くんだろうか?
私は疑問だね、歴史は勝者にならない限り君らみたいな反逆を認めない。よくて芝居の材になるだけ」

「…401」

もう聞く気がないことの表れだろう。
大和の一声で、401の手から私の手首に手錠が打たれた。

「おい、タバコ吸えないじゃないか」

「…貴方は危険です」

大和がそう言うと、阿武隈が加賀たちの縄をとく。
加賀が阿武隈を見る。
「もう大丈夫⁈」

そう声を掛けたはずの阿武隈が悲鳴をあげる。
加賀も驚愕の表情を浮かべた。

「加賀さん⁈」

「かかった」

私は笑う。

「違う、これは、ダメッ⁉︎」

加賀がいくら叫んでも、加賀の腕は阿武隈の首を締め上げるのをやめない。
私は言う。

「取引だ、仲間を殺されたくなければだけど、私のお願いを聞いてくれない?」

大和は拒否する。

「お答え出来ません!」

金剛に手を触れようとした翔鶴を見つけ、私は言う。

「それも同じだ。自衛させるよう組んである。仲間と戦いたくないだろ?」

401が私に砲を向ける。

「私を殺しても変わんないぞ。
解ける人間は私以外にもいるが…面倒だぜ?
それにだ、君らのお仲間の4人はどこに行ったんだろな?」

危険な賭けだった。
仲間ごと私を殺す可能性があったが、彼女らは躊躇う。
阿武隈の顔が青くなる。
加賀は真っ青な顔をしていた。

大和が動いた。
加賀を阿武隈から引き剥がし、取り押さえる。

「やむを得ません、聞きましょう。残りの仲間を開放するならですが」

「よし来た」

加賀、金剛、龍驤、叢雲、朝潮、58
大和、大鳳、翔鶴、木曾、阿武隈、401

私は憎しみの視線を受けながら、沖に来ていた。
例の船に乗ってである。
私は鼻歌を歌いながらタバコを吸う。

「貴方が、わかりません」

翔鶴が言った。

「いや、妥当だろ?私はやり返した、が負けた。
私の部下は戻らない、君らの勝ちだ。さっきのアレはこの為さ」

「命乞いしないんですか?」

「いや、艦娘の手で死にたくないからこうして船に流して貰うわけ。
ちなみに手出ししたらどうなるか分かるよな?私は開放して攻撃性を奪っただけ、何が起きるかな?」

「…助けを呼ぶんじゃ?」

「端末は目の前で捨てたろ」

私が言うと、大和が言う。

「さようなら、酷い男」

「じゃあなブスども」

私は笑った。

漂流が始まると雨が降った。
死ぬのかと考えると悪くない気がした。

1日が過ぎた。

赤道を漂うのか凄まじく暑い。
喉が乾く、死にそうだ。

2日、

飲料は残り僅か。タバコも吸えない。

3日、

眩暈が酷くなる。それでも空腹が襲う。

4日、

手元さえ定かでなくなる。水が切れた。
明日は迎えられないだろう。
そう思っていた。
死のうと思った。
最後のタバコを咥え、拳銃を手に取った。
撃てるか知らないが、こめかみに当てた。

ふと、あの女に会えるだろうかと思った。
それで沈まないと意味が無いことに気づいた。
私は、ろくに力の入らない足で立ち上がる。

そのまま、海面を見た。
黒々として、底は見えない。
このままいいだろうと、私は飛び降りる。

全身を海水が濡らす。
鮫の餌でもいい。
私はそうしてずぶ濡れになりながら、船を見ていた。

「もういいか」

目を閉じる。
…レシプロの音が聞こえた気がした。
水音が大きくなる。
やがて、誰がが私を掴んだ。

「提督!」

目を開けた。
赤い夕日が、少女らの顔を照らしていた。
絵になるなあ、と他人事のように思った。

「どうした涼風、私の迎えか」

「バカ野郎、提督の大バカヤロウ」

彼女は私を抱きしめる。
心音が良く聞こえた。
…この匂いと肌へ感じるものは、夢ではないだろう。
そんな、涼風と私に影が指す。
見ると、天城だ。

「…生きてて、よかった」

天城が、私に手を差し伸べる。

「死ぬと思ったんだが」

私が言うと、流された筈の船の後ろから由良が顔を出す

「取り敢えず乗ってください。続きの本を教えず死ぬのはナシです」
現地の病院に担ぎ込まれ、下痢と嘔吐に悩まされた。
医者が言うには免疫の低下らしい。
知ってたけど。
それを見て、涼風は爆笑した。
私は点滴液の冷やしたものを飲みながら言った。

「逆になったな」

「おうよ、笑えるぜ」

「だよなあ」

私が言うと、涼風は紙の束を手渡す。

「ほい、手紙」

「なんだこれ」

「知らない。英語だもん」

「…英語じゃない」

ドイツ語とイタリア語だった。

手紙は4通で、ひらがなばかりの読みにくいものと、綺麗な筆記体。
ひらがなはプリンツ。
今度遊びに行きたいとのことと、お礼が書かれている。
あと、何故か遊園地に連れていいて欲しいともあった。

筆記体はビスマルクで、
プリンツのひらがなの理由(日本語で書きたかったらしい)事に触れつつ礼が書かれていた。
それからビスマルクの手紙にはおまけがあった。
キスマーク有りのすこーしHな写真と携帯の番号。
…マジでいい女だと思う。

イタリア語でザラは遊びに来てくれと書かれていた。
やっぱり私服写真と電話番号と住所が添付されていた。
ローマも同じ。
ただ写真にmi piaciと書き加えてあった。
あと香水の匂いがした。

…3つもあったので、ラッキーです。

「どうした、提督?って、なんだこれ?」

涼風が薄着の写真を見つけて言った。

「聞くな」

「うわ、スケベ。先生の変態!」

思わず素が出て、私は彼女に言う。

「あのな、涼風。私はもう先生じゃない」

「でも、提督は先生だったじゃん」

「…まあ、いい。うん、涼風よ。男にはどうしようもない情動があるのだ」

「聞きたくない!あーあ、これ、大淀とか由良とか天城が聞いたらなんて言うかな」

私はひやりとした。

「まて。それをやったら私がヤバイ」

「じゃ明石に言う」

涼風がそう言ったので私はホッとした。

「明石ならいい」

「え、なんで?」

「同級生だもん」

「え、嘘?」

「本当だ。私が提督になったらもう艦娘になってた」

「…マジ?」

「マジ」

「ああ、だから明石さん古いアニメとか詳しいのか」

「私とタメだしな」

「あ…納得。そうか、だから購買にゼクシイがあるのか」

「涼風、今何て言った?」

「ゼクシイ」

「あの淫乱ピンクめ…」

「そうかい?すればいいじゃん、ケッコンカッコカリ。あたいとさ」

「いやだ」

「なんで即答するのさ?!」

「捕まるから」

場が緩んだ。
いい機会だと、私は言った。

「すまないな、お前1人無理させて」

「いいよ、別にわかってたから」

涼風はそう言う。

「提督の事さ、ガイジンは夕立に任せるって知ってたよ」

私は涼風の頭に手を置く。

「ありがとう」

「よせよ、照れる」

人見知りで寂しがりの彼女は、はにかんだ。

涼風の次に夕立がやってきた。
りんごとか、果物とか山盛りをもってきた。
気がきくなと思ったが、格好が酷かった。

「先生のお世話するっぽい!ずっとしたかったんだよ!」

何故か、いかがわしいナース服である。
緑色の謎注射器を持ってさえなければ、可愛いはずだった。

「注射もしてあげるね?バケツだから絶対効くっぽい!」

「誰の指示?」

「明石!先生はこれが大好きだからって言ってたっぽい」

……私はそっとナースコールを押した。

天城がやってくると、私を少し責めた。

「涼風から聞きました。無茶されたようですね?」

「まあまあ」

私は言うと、夕立が剥いた不恰好なリンゴを齧る。
(ロリコン疑惑と命の危険回避のために、看護師さんを呼んだ後に剥いてもらった)

「どこの艦娘相手か知りませんが…無理をして」

「ん…」

「涼風にGPSを渡さなければどうなっていたか」

「まあまあ」

「聞いてます?」

天城が機嫌悪そうに言った。

「何かしらの処分は下るそうです。大淀はカンカンですよ」

「手厳しいなあ」

思わずぼやく。

「貴方のためです、提督。明石が寂しがってましたよ。もちろん大淀は言うまでもなく」

「…複雑な心境だ」

「私以外は、患者と同僚ですもんね」

「そうだったな」

大淀はどうしてこうなった。
悪いのは全て、あのピンクの気がしてきた。

「とにかく、静養してください」

「うん」
最後に由良が来た。
彼女は私に言った。

「随分上手く立ち回りましたね」

「なんのこと?」

とぼけてみたが、彼女は何も反応せず続けた。

「ラバウルの提督が金剛らに撃たれたそうです。主犯らはその場で錯乱して自害」

「ラバウル、即死だろ?」

「ええ。ひき肉状だとか…貴方ですね?」

「おう。ざまあみろ」

由良はため息をつく。

「屍体を解析されたらどう説明するつもりですか」

「何、ラバウルを悪党にするだけさ」

「貴方は…夕立と涼風から話を聞きましたが、嘘が多いです、提督」

「なんの事かな?」

「最初に、何故発信機や端末を持ちながらプリンツの設備を借りたか?
次に、どうして襲撃を知っていたか。
また、何故国産艦娘だとわかったのか?
何より漂流もする必要がなかったでしょう?」

鋭い質問に、私は嬉しくなる。
やはり敏い。

「ほーん、私が嘘をついてると?由良の推理は?」

「プリンツは巻き込ませるため。
襲撃を知っていたのは、事前に知っていたから。
おそらくラバウルと接触したんではないですか?
ホテルか何処かで…だから夕立を巻いていたた。
あの漂流はアリバイでしょう?金剛が提督を撃ったのは回復後だそうですから…
貴方が関与したと思わせないためではありませんか?」

「お前、私が設定をいじれること忘れたか。知ってるやつなら一発だ」

「でも私はそう思っています」

由良はそう言った。

いい線の推理に、私は真相を話す事にした。

「由良の推理は2つ正しい。
1つは襲撃を事前に知っていたこと。2つはプリンツを使い海外艦を巻き込ませたこと。
外れているのは3だ」

「どういう事です?」

「1は明白だろ?実際、ホテルで私は奴と会っている。2は、由良の推測通り。
だけど3は、アリバイではない。
あれは危険だったが私が殺されない為に過ぎない。
海上で小船を探すなんてキツイからな。
奴の手下に雷撃されなかった時は本当にブッダに感謝したぜ」

「そんな危険を冒さずとも…島にいれば?」

「あの艦隊が私を狙わない保証はない。
それにどこの所属かわからない危険人物を生かすなんてバカな事を普通するか?
私なら殺しとく。よって、あの島にいるより海に出るべきだと判断しただけ」

「そうですか」

由良はそう言うと、席を立つ。
ベッドのそばにより、私を見上げるように見る。

「でも、そんな先生に私はついていきますよ」

「来なくていいんだが、むしろ」

「…助けてくれたんです。嫌でも離れません」

「戦場に呼んだのに?」

「歩けるようにしてくれたこと、忘れたんですか?」

どうだったかと、私は誤魔化した。

「個人的感情から、殺人ですか」

彼女はそう言いながら、ごく普通にベッドに入ってくる。

「大本営に貸しを作ったもんだ」

「知ってますよ。抜け目ありませんね」

由良の瞳に私が映る。

「あの野郎、私も殺そうとしたからな」

「…それでも私は貴方を怒りますけどね、先生」

「やめろ。涼風といい、夕立といい、先生先生っていつの話だ」

「先生は先生です。…患者に手を出されたからって馬鹿ですか?
なんの罪もない金剛たちごとラバウルを壊して。あなた、やり過ぎです」

「そうか?選ばせたぞ、酷い事になるってな」

「本当に馬鹿です。あなたはそう。
姉を救って、キャリアを蹴ってまで軍人にまでなった」

「……後悔してるよ、酷くね」

「でもですよ?本当に、どこまでも正しくないですが、先生に私は共感してます」

「………」

「終わると、いいですね戦争」

由良はそう言って私の首に触れた。

以上、終了です。

お待たせして申し訳ありません。
リク等あれば、また。

元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459178942/

-天城, 由良, 夕立, 涼風