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叢雲

【艦これ・提督SS】叢雲「余命三年…ね」

2017/01/09

軍医「ああ…そうだ…改二への改装は確かに強力な力と急激な成長を君に与えただろう…
だが同時にその力が君の命を削っているんだ…このまま戦えば間違いなく三年持つか持たないかだ」

叢雲「この事は提督にはまだ話してないでしょうね…?」

軍医「…ああ…まだだ…」

叢雲「そう…じゃあこの話は他言無用でお願いね…あの子は優しすぎるから…」

軍医「…こちらでもなんとか君の延命方法を探ってみたい、だがあえて言わせてもらおう…後悔しない生き方をしなさい…」
叢雲「(オタッシャ重点ね……なんで3年なのかしら…どうせなら10年くらい余命をくれたっていいのに…)」

提督「軍医さんに呼ばれたみたいだけど大丈夫だったのかい叢雲」

叢雲「…ええ、ちょっと改装した後の身体への負担を知りたいから経過報告をしろって言われただけよ」

提督「そうか…それだけならいいが…」

叢雲「もう心配しすぎよ、仕事サボってないで戻りましょう」
叢雲「ふーん…珍しく書類の確認終わってるじゃない」

提督「ああ、今まではお前に頼りっぱなしだったからな…いい加減自分でなんとかできるようにならないといけないかなって」

叢雲「もう…やればできるじゃない…いいわ…ご褒美に今日は私が昼餉を用意してあげるわ」

提督「…なんかあったのか?いつもなら「貸しにしとく」とかいうのに…」

叢雲「そういう気分なのよ」
提督「ごちそうさま、美味しかったよ」

叢雲「当然よ、なんたってこの私が作ったものだもの」

提督「よし、ならば夜は俺が用意するよ…お前を満足させられるようなものを用意してやる」

叢雲「ふーん…楽しみにしておくわ…さて…それはともかくそろそろ出撃の時間じゃない?」

提督「そうだな、じゃあ旗艦、よろしく頼むぞ」

叢雲「任せておきなさい」
艦隊が帰投しました

提督「叢雲!大丈夫か!?」

叢雲「少し力を過信しすぎたわ…ごめんなさい…これは私のミスよ…」

提督「ミスは誰にでもある…無事帰って来てくれた…それだけで十分だ」

叢雲「入渠してくるわ…この程度なら夕餉には間に合う筈だから…」

提督「…」

加賀「…提督…彼女の被弾についてですが…被弾直前に一瞬苦しそうなそぶりを見せていましたので一度軍医に相談したほうがよろしいかと…」
叢雲「(まさか言われた側からあんな症状が出るなんて…最悪ね……)」

提督「…叢雲」

叢雲「何かしら?」

提督「……いやなんでもない…ただお前がここにいることを確かめたかっただけだ…」

叢雲「…………そう」

提督「……叢雲、もしお前がいなくなったら俺はすぐにでも折れてしまうかもしれない」

叢雲「ダメよ…もし私がいなくなっても皆を指揮し続けなければならない……それがあなたがここに居る意味よ」
叢雲「私達はただの人間から艦娘になった時点で、いえ…艦娘になる為には人間として死ぬのではなく艦娘として沈む覚悟が必要なの」

提督「…そうだな…俺がすべき事はお前達「艦娘」を運用して深海棲艦から人類を守る事、そしてお前達を沈ませずに必ずここへ帰ってこれるような指揮をとる事だ」

叢雲「わかっているなら、それでいいのよ…」

提督「…ならお前の口から聞かせてくれ、お前は一体どんな状況に置かれている?軍医は何も教えてはくれなかった」

叢雲「…」

提督「これは命令だ」

叢雲「余命三年よ」
提督「わかった…ならお前に任務を与える」

叢雲「何?まさか後方待機とか言うんじゃないでしょうね?」

提督「1日でも長く生きて、後悔のない人生を歩め…その為なら俺は何も惜しまない」

叢雲「…着任したての頃とは大違いね…あの頃は「次は何をすればいい」だなんて…司令官にあるまじき有り様だったわね…でも…本当に見違えたわ」

提督「全部お前のおかげだ、お前が居なかったら俺は今ここにいなかった」

叢雲「なら…その任務受けてあげるわ…1日でも長く生きて、最後まで笑って生きてやるわ…せいぜいそれまでに戦死したりしない事ね」

提督「望むところだ」

そして、深海棲艦との戦いと並列して…新たな戦いの日々がはじまった…

まず最初に他に似たような事例がないか、それを探す事にした。

だが戦闘による消耗や引退等から思ったより駆逐艦の艦娘の改二についての研究は進んでおらず、改装の際に特殊な症状が起こる事はあまり知られていなかったようで…

それらの症状があっても艦娘自身の意思によって隠される事も多いとわかった

なのでまずは大本営に掛け合い「艦娘の改修における経過報告」の義務化、および「改二駆逐艦の臨時健康診断」を行って貰った。

これにより一時、練度の高い駆逐艦が前線を離れる事となり練度の低い駆逐艦の成長にも役立ったようだった。
改二に改装された駆逐艦の高い戦闘力と比例した未帰還率の高さなどから重点的に調べた結果
「夕立」「叢雲」を筆頭に7種の艦娘は戦闘中に戦闘に支障をもたらす何かしらの症状を起こした事があるという事がわかった。

これらの症状を纏めて「改装現象」と名付けた。

提督「他の鎮守府に「目が赤くなり、マストランスを結晶同化させる事で強化する代わりにひどく生命力を消耗する」叢雲が居るそうだ、ひょっとしたらお前の治療に役立つかもしれないな」

叢雲「あれマストランスって名称だったんだ…っていうかあれを強化してもただの槍じゃない…」

提督「どうにもあれの先からビームが出るらしい」

叢雲「そんな武器じゃないからアレ」  
だが研究を進めていく間にも命を落とす艦娘も居た…

提督「ラバウル基地で意識不明状態になっていた夕立が、未明に結晶化して砕け散ったそうだ…」

叢雲「…どんな子だったのかしら…」

提督「彼女は生まれながらにして体が弱く艦娘にならなければもっと早くに死んでいたそうだ…」

叢雲「まるで苦しむために生まれたよう思えるわ…」

提督「ただ彼女を慕っていた友人が多かった、最後まで彼女の側には誰かしら居たそうだ…」

叢雲「…私がいなくなる時にはあなたは側に居てくれるかしら…」

提督「居るさ…」
研究も大事だが、提督としての仕事を蔑ろにする訳にはいかない

金剛「フォロユー!」
長門「任せろ!」
島風「装填中のフォローは任せて!」

叢雲「…最近は演習ばかりね…でもいいのかしら…私なんかで」

提督「お前は教師としては優秀だ、俺が保証する」

叢雲「なら悪い気はしないわ」
そしてちょうど半年が経とうとしたその冬、最初の症状が始まった…

叢雲「あれ?おかしいわね…よく見えないわ…疲れてるのかしら…」

提督「叢雲…!お前…!目が赤くなって…」

叢雲「えっ…」

その日、叢雲は視力の大半失った…

叢雲「これじゃ戦場には立てないわね…」

提督「……」

叢雲「何落ち込んでるのよ、私と一緒に居られる時間が長くなるのはそんなに嫌かしら?」

提督「そんなわけないだろ!冗談でもそんなこと言わないでくれ…頼むよ…」

叢雲「ごめん…」

俺は迫る別れの気配を感じて、焦りを感じ始めた…
◆再開な◆
BGMは「果て無きモノローグ」をおすすめします
提督「なんでもいい!何っか症状を遅らせる手掛かりはないのか!」

軍医「…焦らないでください!あなたが冷静さを欠いてどうするんですか!」

提督「そんなことはわかっている…わかっている!けど!それでも!」

軍医「わかりました…研究に動員する人数をこちらでも増やしましょう…ただしその間、出撃はしないでください…艦娘逹になにかあったとき対応できなくなる可能性があります」

提督「無理を言ってすみません…ありがとうございます…」スタスタ…

軍医「…叢雲ちゃんが言っていたのはこの事だったのか……」
長門「今日も演習か」

提督「すまない…だが今の俺にはとてもじゃないがまともな指揮を取れる自信がない…すまないが後から続くもの逹への指導と思ってくれ」

長門「何、構わないさ…」

天龍「叢雲の様子はどうなんだ?」

提督「ああ、発作や他の症状の兆候はみられないが目はもう完全に見えてないらしい…移動には誰かがついてやるか電探を積んだ擬装がなければならない」

天龍「わかってはいるだろうがお前は四六時中アイツについている訳にはいかない、お前は提督だ…」

提督「そんなことはわかっている…だが…それでもあいつは…あいつは…ずっと一緒にやってきたんだ…」

天龍「……」
提督「…叢雲…」

叢雲「…ねえ…もう来ないで欲しいのだけど」

提督「……」

叢雲「あなたねえ…自分の仕事をほったらかしてこんな病人に付きっきりなんて…ダメじゃない」

提督「本部には許可は貰っている、艦娘の更なる研究という任務が今の俺には…」

叢雲「もう来ないでよ!こっちはあなたの顔が見えないのが辛いのよ!」

提督「叢雲!」

叢雲「…やだ……死にたくなんてないよ…また青い空が見たいよ…」

叢雲が完全に視力を失ってから1ヶ月、俺達は想像以上に激しく消耗していた…そしてしばらくして…近海に新型の深海棲艦があらわれるように、各地の鎮守府はその対応に追われるようになり…研究は遅れを見せた…その事が、俺達を更なる焦燥へ追い込んだ
叢雲が余命宣告を受けてから一年半、折り返し地点にたった頃…もう「後悔しない生き方」「1日でも長く生きろ」という言葉も霞んでしまっていた。

叢雲「作戦失敗って…いい加減にしなさいよ!この無能!」

提督「黙れ!敵の対応が想定以上に早かっただけだ!このまま続けて進撃すれば…」

叢雲「大破してる子もいるんでしょ!それでもあんた進撃するつもり!?ふざけないでよ!」

提督「俺はお前の為に…お前の治療の研究を早く再開できるようにする為に!この任務で深海棲艦どもを…!!」

叢雲「…ならやめてよ!私のせいで仲間が死ぬくらいなら私を死なせてよ…!」
提督「馬鹿野郎!そんなことを言うな!言うなよ…言わないでくれよ…」

叢雲「…うう…」

そしてこの頃から、日頃の無理が祟ったのか俺もまた病を患う事となった…だが止まっている暇は無かった
…叢雲を治してやる、それだけが俺に残されたただひとつの想いであった…

提督「ごほっ…」

長門「提督…!血が…」

提督「長門…この事は誰にも言うなよ…俺がここにいられなくなってしまうからな…」

長門「…提督…あなたは…変わってしまった…」

提督「俺はもう俺自身がどうなろうと知ったことじゃない…ただアイツを…叢雲を助けたいだけだ…」

焦燥は、俺の判断力を殺し…また俺自身をも殺していた
俺が死ぬだけだったならどんなによかっただろうか…

俺は仲間を犠牲にしてしまった

金剛「なんで進撃許可を出した!いいなさい!なんでです!」

榛名を犠牲にしてしまった
その上、作戦は失敗…さらに救援に来た艦隊にも大きな損害をあたえてしまった

提督「俺は…俺は何をしているんだ…」

この件により俺は降格を受け、少将にまで格下げを受けた…同時に権限を一部失った事により艦娘研究の任を解かれた…

俺は自分のした事の重大さを理解した、だが…納得する事ができなかった…
そして余命宣告から2年目の冬、鎮守府には俺と叢雲、研究員だけが残った。

俺は艦娘達の他鎮守府への転属を申し入れた。

高い練度を持った彼女達は快く受け入れられた、俺はそれを見届けると叢雲の治療の為だけに、私財をも投げ捨て勲章さえも捨てた。
だがその結果得られたものは
「練度を高めてから改装する事によって適正を高め、肉体への負荷、および改装現象を無くす事ができる」
という、これから先に同じ悲しみを追う者を無くす事だけであった…

もはや俺達は最後の時を待つだけの去り行く者でしかなかった…
叢雲「馬鹿じゃないの…」
提督「…そうだな」

叢雲「私なんかの為に何もかも捨てたなんて」

提督「俺にとってはその何もかもより、お前が大切だった」

叢雲「ほんとにしょうがない子ね…」

提督「何もかもを捨てたと言ったがな…ひとつだけ残しておいたものがあってな…」

叢雲「なによ…今さら…っ…なんで…こんなもの…」

提督「指輪だ、ずっと…ずっと俺はお前に渡したかった」

叢雲「私の練度は…」

提督「わかっている…だから結婚指輪だ、カッコカリなんかじゃない」

叢雲「艦娘は結婚なんて出来ないわ…」

提督「どうせもう戦場になんて出れないし構わないだろ」

叢雲「…ありがとう…」

そして、最後の一年が始まった
叢雲「…この味噌汁味が薄いわね…次からは濃くして頂戴」

提督「体に悪いぞ」

叢雲「なにいってんのよ、体に悪くても美味しければそれでいいのよ」

提督「確かに…お前がそういうなら俺も酒をまた始めようかな」

叢雲「そういえばあんた酒癖が悪かったわね…」

提督「酔った勢いでお前を襲いかけてから禁酒令を出された…なんて事もあったな」

叢雲「…今なら構わないわ」

提督「…そうかよ…後悔するなよ?」

これまでは叢雲を生かそうとあんなに必死だったのに、死を前にすると逆に穏やかな日々が待っていた。
また、俺自身の病状か…これまでの反動か1日がとても長く思えた…

それと原因は不明だが叢雲の視力が戻った、俺達はそれを手放しでそれ喜んだ。
どんな代償が来ても…もう怖くはなかった…

叢雲「なにこれ美味しいじゃない!?」

提督「ケーキだ、長門達が叢雲の快気祝いに送ってきてくれたんだ」

叢雲「そういえば最近色んなものが入ってくるようになったわね…」

提督「ああ、なんとか安全な航路を確保できるようになってきたらしい…金剛がそういっていた」
叢雲「もうすっかり春ね…」

提督「よし…久し振りに出掛けようか…」

叢雲「そうね…二人きりで花見にでも行く?」

提督「そうだな…どうせなら京都にでも行くか」

叢雲「京都と言えば八ツ橋ね!」

提督「お前はほんと食いしん坊だな」

叢雲「食べ物が美味しいのが悪いわ」
セミ兄貴「ミーンミーンミーン(迫真)」

叢雲「改装前の格好のが過ごしやすいわね」

提督「髪型まで戻ってるしお前は犬か何かか?」

叢雲「そうそう冬毛と夏毛」

提督「犬の癖に服を着るのか?」

叢雲「でも服を着ながらするのが好きなんでしょ?」

提督「俺はお前ならどんな格好だろうと好きだよ」
叢雲「食欲の秋ね」

提督「お前は年がら年中食欲優先だろ」

叢雲「何か問題でも?」

提督「いや無いが」

叢雲「なら焼き芋やるわよ」

提督「そうだな、どうせなら落ち葉掃除もしてしまうか」

叢雲「……」

提督「どうした?」
叢雲「いえ…空があまりに綺麗だったから…」

提督「…そうか…」

そしてその日…叢雲は再び視力を失った

始まれば、いずれ終わる

綺麗事などいらない

せめて君をあたためたい

ほんの少しの時間を与えて、神様

叢雲「そこにいる?」

提督「ああ、居るさ」

叢雲「わかってたけど…やっぱり確かめたくて…」

提督「気にするな」

叢雲「私、改二になんかならなきゃよかったって何度も思ってきたわ…
けど…もしもあの時、改二にならなきゃみんな死んでたって思うと…そうでもないなって…今は思えるのよ」

提督「俺はお前を改二になんかしなきゃよかったといつも後悔していた
そしてお前が改二にならざるを得ない状況をつくってしまった事もずっと後悔していた
…けど今はもうどうでもいいと思える」

叢雲「あなたは後どれぐらい生きれるの?」

提督「お前とそんなに変わらないが…まあそんなに待たせないさ」

叢雲「そう…じゃあ記録だけ残したらすぐにこっちに来るつもりなのね」

提督「出来るだけ後に続く者の為の道を作る、それが去り行く者の義務だ…限界までは生きるさ」

叢雲「そう…じゃああなたの仕事が終わるまで…待っていてあげるわ…」

叢雲「そろそろ…ね…」

提督「…そうか…」

叢雲「土産話の一つくらいもってきなさいよ…」

提督「ああ…」

そしてしばらく俺は何も言わなくなった叢雲の手を握ったまま…そこにいた
提督「以上が、この三年間の記録です…それと最後まで…ご支援ありがとうございました」

元帥「…ご苦労だった…君のおかげで多くの駆逐艦が救われ、艦娘の研究もまた進んだ…」

提督「いえ、私は切っ掛けに過ぎません…皆さんのおかげです」

元帥「ところでこれからどうするつもりだ?まさかこのまま何もせず終わる積もりではないだろうな?」

提督「…そうですね…では…もう最後にもう一度だけ指揮をとりたいと言ったら…」

元帥「わかった…検討させてもらう」

提督「何から何までありがとうございます」

こうして俺は、最後の作戦の指揮をとることとなった。

俺達が後の世でどう評価されるかはわからない、だがそれでも…その時、自分の中の最善を信じて歩んだ道に後悔はない。

以上です、あなたはそこにいますか
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-叢雲