艦これSSまとめ-キャラ別これくしょん-

艦隊これくしょんSSのキャラ別まとめブログ


那珂 泊地水鬼

【那珂・艦これSS】泊地水鬼「モウ……那珂チャンライブノチケットハ……トレナイノ……」

揺らめく水面ははるか上……

ここは深海、光届かぬ水底のコロニー。

それはドーム状の透明な有機膜に覆われた場所。

かつて沈没した船や構造物を住処とする“彼女達”のテリトリー。

普段、しずかなその場所で……あるニンゲンの声が響いた。
那珂『みんなぁー!今日は来てくれてありがとーっ!』
那珂『艦隊のー……じゃなかった、テヘッ☆』

那珂『全地球のアイドルー!』

那珂『なっかちゃんだよーっ!』

那珂『今日は深海のみんなのた・め・にぃ~』

那珂『那珂ちゃん!張り切っていっちゃうからそこんとこ……』
那珂『よっろしくぅーっ☆』キャピッ
戦艦棲姫「…………」ゴゴゴゴ

駆逐水鬼「…………」ゴゴゴゴ

港湾棲姫「…………」ゴゴゴゴ

北方棲姫「ナカチャーン!」キャッキャッ

潜水艦棲姫「…………」ゴゴゴゴ

南方棲戦鬼「…………」ゴゴゴゴ

那珂(ひぃ――っ!)ガクガク
深海側の重鎮たちに囲まれ受ける、圧倒的な威圧感………

それは、艤装の無い彼女一人が背負うには、あまりにも重たいものだった。

だが、それでも……

那珂は笑顔を崩すことはしなかった。

なぜならそれは、人類史上初の人ならざる者へ向けて行われた……

友好の深海終戦記念日ライブの成否がかかっていたからだ。
那珂『それじゃ、さっそくはじめちゃうよ~っ!』

那珂『じゃ~あ~、ま・ず・は~!』

昔のタンカーの甲板に設けられた特設会場でのライブ。

それは、持ち込みの電池式スピーカーひとつ、

そして……彼女の愛用マイク一本だけで行われた、極めて簡素なものだった。

那珂『恋の2-4-11!レッツ……ゴー!☆』ビシッ
「「「…………」」」
……
…………
………………

那珂「はぁ~っ!」

那珂「す……すっごい疲れたぁ!」ガクッ
那珂(今日はホントにサイアクだよ~!)

那珂(小さい子以外、ほとんど盛り上がらなかったじゃん!)

那珂(だって……1年前に戦争が終わったって言ってもさ!)

那珂(元々艦娘だった那珂に……こっち側で良いイメージ持ってる人(?)なんて……)

那珂(そうそういるわけないよぉ……怖かったぁ)グスッ
那珂(元はと言えば、提督がこんな仕事持って来るから……)

那珂(……あれ、今はもう提督じゃ……ま、いっか)

那珂(いくら最近の那珂ちゃんに仕事がないからって……)

那珂(こんなのが続いたら……いつか死んじゃうよー!)

那珂(とにかく……迎えの潜航艇が来たら、さっさと帰っちゃうよ!)

那珂(うんうん、そうしよう!)コクコク
彼女は深海にいる間、とある深海棲艦の住処に身を寄せさせてもらっていた。

太平洋戦争時に沈んだアメリカの巡洋艦の船体を利用したその住処は、当然ながら彼女にとって居心地いい場所であるはずがなかった。

フワワ~…

深海艦爆「オ疲れさマデござイマした、那珂サマ」

那珂「おうーわ!」ビクッ

艦爆「オウワ?」

那珂「え、あっ……」
那珂「那珂ちゃん、そんなこと言わないもん☆」

艦爆「ソウでスか……」フワフワ
那珂「えと!あなたはっ……たしか……」

艦爆「ハイ、わたクシ……水鬼サマの従者でゴザいまス」フワフワ

艦爆「本日は深海マでライブに来てクダサり、ありがトウございまシタ」ペコ

艦爆「皆サマ、とてモ喜ばレテおりまシタよ」

那珂(ほ、本当かなぁ……)アハハ…

那珂「えっとねぇ……実は那・珂・もぉ……」

那珂「今日はスッゴク楽しかったよっ☆」

艦爆「そうデシタか」
艦爆「実は……那珂サマにお知ラセがごザイます……」

那珂「へっ?」
艦爆「洋上は現在……ニホンに向かウ低気圧にヨリ、大変荒レテおりマシテ……」

那珂ちゃん「へっ?えっ!?」

艦爆「嵐の接近ニ伴い、お迎えに来らレル日ニチを……後日に延期をサレるそうデス……」

那珂「」
艦爆「お迎エガ来らレルまで、当屋敷で引き続キご滞在頂いテ構いまセン」

艦爆「アト、もうスグお食事のゴ用意が出来まスノで……」

艦爆「よろシケれば、広間マデ足をお運ビくだサイ……」

艦爆「ソレデハ……」ペコリ

フワフワ~…
那珂「……」パクパク

那珂「しゅん……」ガクッ
……
…………
………………

泊地水鬼「…………」ガブガブ

那珂「…………」モグモグ…

泊地「…………」ゴクン

那珂「…………」パク…

那珂(いくら刺身に慣れた日本人といっても……)

那珂(生のお魚丸ごとはきついなぁ……)ガックシ
那珂「…………」チラッ

泊地「…………」ガブガブ

那珂(ほ、骨までお構いなしに食べてる……)ガクガク

泊地「…………」ゴクン

那珂(なんだか、那珂ちゃんまで食わんとする勢いだね……)

那珂(那珂ちゃん大☆ピーンチ!)

泊地「…………」ギロ

那珂「」
那珂「……ごちそうさまでしたっ」ペコ

泊地「……ゴチそう……サマ?」

那珂(あ……はじめて喋った……)
那珂「そ、そうだよー☆」

那珂「那珂ちゃんの住むところではぁ……」

那珂「命をおいしくいただきましたって」

那珂「食べ物に向かって、感謝の気持ちを送るんだよー!」

泊地「…………」

泊地「………ゴチそう」

泊地「……さマデした……」ペコ

那珂(あっ、真似してくれた……)

那珂(怖いけど……ひょっとして案外素直な人って感じ?)
泊地「…………」

那珂(また沈黙タイムになっちゃった……)

泊地「……ネェ」

那珂「んっ?」

泊地「……ソら……大きナ翼……」

泊地「今は……飛んでいルノ……?」

那珂「え、えっとぉ……」ムムム…
那珂「……あぁ!飛行機のこと?」

泊地「…………」コク
那珂「うん、いっぱい飛んでるよ!」

那珂「那珂ちゃんも~、世界中でバリバリ巡業中だからぁ(大嘘)」

那珂「よく利用するんだよ~☆」ニコッ

泊地「……ソウ……」
那珂「……もしかして、飛行機好きなの?」

泊地「好キ……カは……分からナイ……」

泊地「モウ……わたシハ……トベないノ……」

泊地「だカら……分かラナい……ケド……」

泊地「大きナ翼……こノ目で……見てミタい……」

那珂「そ、そう」

那珂「複雑な乙女心って奴だね~」アハハ…
泊地「デモ……だメ……」

那珂「えっ、どーして?」

泊地「…………」シュン

泊地「あなタ……疲れタデショう……」

泊地「今日はモウ……お休ミなさイ」

那珂「う、うーん?」

那珂「……じゃーあ……そうするーっ」
泊地「……明日モ……」

泊地「……一緒に食事……シテクれる……?」

那珂「……あぁ~っ、さ・て・は」

那珂「みんなの那珂ちゃんを、独り占めする気だな~?」

泊地「…………?」

那珂(うぅ……)

那珂「でっも~那珂ちゃんはぁ、ぜんぜんっオッケーだよ!」

那珂「じゃ!おやすみグッナーイ☆」

泊地「…………エぇ」

那珂(なんか調子狂うなぁ……)ガクゥ
テクテク…

那珂(しっかし……那珂ちゃんはいつまで深海にいなくちゃならないんだろ?)

那珂(みんな、悪い人じゃないんだけど……)

那珂(やっぱり、人間一人は……心細いよ……)グスッ
テクテク…
泊地「…………」
……
…………
………………

塚……ん!

…度……も低下………ッ!

まさ………エンジ……イカれ……か……!
カラ……戻れ……か……

駄……す!

高度……上が……せん!

……神…号……うここま……

着水……ぞ!
うわ……あ……ぁ……!
泊地「ハッ!」ガバッ

泊地「……ハァ……ハァ!」
泊地「…………マタ……」

泊地「アノ夢……!」

泊地「……ウゥッ……」
……
…………
………………

テクテク

那珂「……あっ」

泊地「……オハよウ……」ペコ

那珂「お、おっはよ~☆」

那珂「今日も気持ちのいい朝だねっ」

那珂「あ、で・もぉ~ここじゃ朝日は見えないんだよねっ!」

那珂「那珂ちゃん、かっなし」

泊地「……ネェ」

那珂「ひ」ビクッ

泊地「……ココでハ……自然でイイ……」

那珂「う……」
那珂「……バレてた?」

泊地「…………」コク

那珂「うぅ……」シュン

泊地「……落ち込ムコト……ナイ……」

泊地「……ニンゲンの仕事……」

泊地「ソウイウもノ……」

那珂「うぅ~ん、お仕事っちゃお仕事なんだけど……」

那珂「それも……なんか違うというか……」ウゥ-ン…

泊地「?」

那珂「……なんでもない」フルフル
那珂「それより泊地水鬼さん」

泊地「…………?」

那珂「少しお願いが……」ジーッ

魚「」ホカホカ

艦爆「このヨウニなりまシタが……」

那珂「うん、完璧だよ!」
泊地「……不思議……」ジー…

泊地「……魚ニ……火を通スノ……」

那珂「ふふ……そうだよっ」

那珂(深海棲艦だって砲を使うんだから……)

那珂(どこかで火が使えるんじゃないかと思ってたけど……あってよかったぁ)
那珂「…………」モグモグ

泊地「…………」ガブガブ

那珂「…………」パク

泊地「…………」ガブガブ
那珂「ごちそうさまでしたっ」

泊地「ゴチソウさマデシた……」
……
…………
………………

那珂「まぁ……陸にいても海にいても……」

那珂「やることは変わらないよねっ」

割り当てられた部屋に一人戻った彼女はそうつぶやき、
持ちこんだスピーカーと愛用のマイクを、花柄のカバンからごそごそと取り出した。

スマートフォンを操作し、自身のヒット曲を手際よく探し出す。

那珂「ん、これで……よしっ」

那珂「よーし、練習ガンバっちゃうよ!」

那珂「ミュージック……スタートっ」ポチッ
深海の住人が築き上げた、静かな水底の街。

ここに、ひときわ陽気で軽快な音楽が鳴り渡る。

那珂はその音楽に合わせて懸命に汗を流し、ダンスの練習を行った。
彼女は常に、アイドルとして活動していく上での研鑽に余念がなかった。

どうすれば、人に喜んでもらえるのか?

どうすれば、人に楽しい気持ちになってもらえるのか?

そんな純粋な気持ちから生まれた疑問が、日々の彼女の原動力だった。
――――♪
那珂「ハッ、ハッ……」サッサッ

那珂「ここではねてっ」タンッ

那珂「くるっと……ターンっ」クルッ

那珂「うん、いい感じっ!」ニコッ
泊地「…………」
そんな彼女の背中が、たまたまそばを通りがかった泊地水鬼の目に入ったのは、そのときのことだった。

彼女は那珂に向かって声をかけるようなことはしなかったが……

懸命な彼女の姿を、入口の陰よりじっ……と覗いていたのだった。
何かを言いたげな、そんな目で……。
――――♪
那珂「ハッ、ハッ……」サッサッ
那珂「ふーっ、今日は……ここまでっ」ニコッ

那珂「今日もいっぱい動いたなぁ」ハァ…ハァ…

那珂「……そうだ!」

那珂「ここなら誰も見てないしー……」

那珂「ちょっとくらい、いいよね?」ゴソゴソ
そう言って那珂が取り出したのは、彼女の国でよく食べられているお菓子だった。
泊地「……?」

那珂「いっただっきまーす!」
那珂「……うぅ~ん!」モグモグ

那珂「やっぱ練習後のカロリー摂取はたまんないね~!」ニコッ

那珂「アイドルたるもの、お腹周りは常に気を遣わなきゃだけど……」

那珂「こういう至福の時間は、誰にだってひつよ……」
ガサッ

泊地「!」ビクッ

那珂「!」

泊地(ア……足音ガ……)
泊地「……ア……ア……」フルフル

那珂「あっちゃ~見つかったか~!」テヘヘ

泊地「……ゴ……ゴメんなサイ……」

那珂「えぇっ?」

泊地「……スグ……離れル……」クルッ

那珂「ち、ちょっとちょっと!」
スタスタ…
那珂「行っちゃった……」

那珂「お口封じ名目で、一緒に食べてもらおーと思ったのになー」チェー

那珂「……いつから見てたのかな……?」

………………
…………
……
ここは沈没船の艦橋に設けられた泊地水鬼の部屋。

彼女はかつての艦長席に腰を掛け、深い蒼色に染まった虚空をただただじっと見つめていた。
泊地「…………」

ソローリ…

那珂(ふふふ……)

那珂(おかえしに、今度は私が覗いちゃおーっと)

那珂(何気に深海棲艦の私生活って……那珂、すっごく気になるんだよね……)
那珂(さて……)ジーッ

泊地「…………」
泊地「…………」ボー…

那珂「…………」ジーッ
……だが、いくら待てども、泊地水鬼が何かしらのアクションを起こすことはなかった。
那珂(……退屈だなぁ……)ハァ

那珂(……深海の人達って、娯楽が何もないのかなぁ……?)
フワワ~

艦爆「那珂サマ?」

那珂「ひぇっ」ビクッ
艦爆「こンナとコロで何を……」

那珂「あはは、ちょっとね……」テヘヘ

那珂「……そうだ」

那珂「従者さん、ちょっとこっちへ……」

艦爆「?」
……
…………
………………
那珂(ん、ここならあの人に聞こえないね……)

那珂「ねぇ、ひとつ聞きたいんだけど……」

艦爆「ハい、なんでショウ?」
那珂「深海の人達って普段……皆あんな静かなの?」

艦爆「あァ……そういうコトデシタか……」
艦爆「……そうデス」

艦爆「私達にハ元々……何かを楽しム、といウ文化はアリマせんデシた……」

那珂「そうなの……世知辛いね」シュン

艦爆「ソウ……」

艦爆「ですガ……我々のルーツを辿れバ、それハ必然なのデス……」

那珂「ルーツ?」
艦爆「とりワケ……ここノ水鬼サマは……」

那珂「??」

艦爆「……いえ、ナンデもございまセン」

艦爆「少シ、口が軽くなってシマいまシタね……」
那珂「……?」

艦爆「デは……これデ失礼を……」ペコリ

そう言って、従者はその場をふわふわと離れて行った。

深海の艦爆には顔らしい顔などないはずだったが、

その時の従者が何か悲しげな表情をしているように、那珂は思えた。
……
…………
………………

それから翌日のこと……

日本に向かっていた低気圧は依然として勢力を保ち、

那珂の陸への帰途は、未だに見込めずにいた。
那珂「ユウウツだぁ……」ガク-
那珂(それにしても……昨日従者さんが言ってた)

那珂(深海棲艦のルーツ……)

那珂(戦争は終わっても、これは未だに分かってないことなんだよね)

那珂(むむ……気になるなぁ)
那珂「まぁ、それは後回しでっ」

那珂「こんな時はやっぱり……」

スッ…

那珂「ダンスの練習に限るね!」エヘヘ

那珂「踊っていると、気分も自然と晴れ晴れするからねっ」

那珂「それじゃあ早速……あれ?」

那珂「あぁ――っ!」ガーン!

那珂「スマホの電源切れてる――っ!」
当然のことながら、深海という極限の環境下において、

電源……よもやコンセントなどというものが、存在するはずもなかったのだ。

那珂「これじゃあブルートゥースで再生できないじゃん!」

那珂「しょぼーん……」ガクッ

那珂「どうしよう……音楽が無かったら……」

那珂「ダンスの練習ができないよ……」シュン

那珂「……」チラッ

泊地「……」ジー…

那珂(今日も見てる……)
那珂「おーい!」

泊地「!」ビクッ

那珂「そんなところで見てないで、こっちに来なよーっ」

泊地「……イいノ……?」

那珂「……練習……邪魔ニナらなイノ……?」

那珂「ふふふ……それがねー……」
……
…………
………………

泊地「……ソういウ……事……」

那珂「やっぱり文明の利器にばっか頼ってちゃだめだねー」クスッ

泊地「…………」

泊地「歌……ナイと踊れないノ……?」

那珂「そうだねー……さすがの那珂ちゃんも、テンション上がんないかなぁ」

泊地「…………」
那珂「そうだ!はい、これ!」

那珂「昨日見てたでしょ?もしかしたら興味あるのかなって!」

泊地「コレ……は……?」
那珂「ポテチ!」

那珂「陸のお菓子っていう食べ物だよ」ニコッ

泊地「…………」サク

泊地「……塩味」

那珂(お気に召したかな……)ドキドキ
泊地「……好キ……」サクサク

那珂「そっか!」ホッ
泊地「……嵐……止マナいみたイ……」

那珂「……うん」コク

泊地「……寂しクナイ……?」

那珂「全然!那珂は平気だよっ」

泊地「…………」
那珂「……嘘、実はちょっぴり」クスッ

泊地「…………」
泊地「……ゴメんなサイ……」シュン

那珂「そんな、泊地水鬼さんが謝ることじゃないよ!」

那珂「それに、寂しい時はね……」

泊地「?」
那珂「スゥ……」

那珂『恋のとぅーう、ふぉーぅ……』

那珂『いれっぶん♪』

那珂「……って!」

那珂「昔っからこうやって歌ってね」

那珂「気を紛らわせてたんだっ」

泊地「……歌……」

那珂「そう、歌!」
那珂「…………」ジーッ

那珂「……そうだっ!」
那珂「あなたも一回、歌ってみなよ!」

泊地「エ……?」

那珂「深海には、歌なんてないんでしょ?」

那珂「那珂が教えてあげる!」

泊地「デ……デモ……」
泊地「……私にハ……歌なンテ……」

那珂「そんなことない!だって……」
那珂「すっごい綺麗な声してるもん!」

泊地「……綺麗ナ声……」

泊地「……私が……?」

那珂「うん!」コクッ

那珂「せっかくの良い声なのに、これじゃもったいないよ!」

那珂「それに、一緒に歌える相手がいた方がずっと楽しいよ!」ニコッ

泊地「……ア……」
泊地「……ヤッテ……ミル……」コク

那珂「うん!その意気!」

那珂「じゃ、まーずーはー……」
……
…………
………………
那珂「じゃ、あーって言ってみて!」

泊地「アー……」

那珂「そっ!で、次にその“あー”を……」

那珂「あーあーあーあーあーっ♪」

那珂「こんな風に、どんどん声の高さを上げていくんだよ」

那珂「さ、はーちゃんも!」ニコッ

泊地「ハ、ハーチャン……」ガクッ

泊地「……アーアーアー……アーアー……」プルプル

那珂「そう!上手上手!」パチパチ
那珂「喉が温まったところで、お・つ・ぎ・は!」

那珂「これっ!」ペラッ
泊地「コ、こレヲ……歌ウの……?」

那珂「そう!あ、もしかして……歌詞読めない?」

泊地「イや……勉強はシタカら……読めルケド……」

泊地「ナンか……恥ずカシい……」カァーッ

那珂「あぁ~、なるほどね……」アハハ

那珂(那珂の歌、乙女チックすぎたのかな……)ズーン
那珂「だったら、童謡とかの方がいいかな?」

泊地「?」

那珂「深海の子だから、そうだねー……」ムム-
泊地「ワ……レは……うみノ……子……」カァー…

那珂「ノンノン!」ビシッ

那珂「もっとハキハキ歌わなきゃ!」

泊地「……ウ……」

泊地「い……みジキが……クト……」

泊地「ワレは……聞ク……っ」

那珂「おっけーい!」パチパチ

泊地「難しイ……ネ……」シュン

那珂「でも、筋がいいよ!」

泊地「……ン……頑張る……」グッ
……
…………
………………

泊地「ハァッ……ハァッ……」ガクッ…

那珂「お疲れ様―!」
那珂「ごめんね、那珂も気合入れすぎちゃって……」シュン

泊地「……イ、イヤ……」

泊地「……ナニかナ……こノ感じ……」

泊地「……恥ずかシイの……嫌……はずナノニ……」

泊地「……嫌じャ……なイ」

那珂「……ふふっ!」

那珂「そっかそっかぁ!」ニコッ
「水鬼サマ……那珂サマ……」

「お食事ノ時間でゴザいます……」
那珂「従者さんの声っ」

那珂「そっか、もうそんな時間だったんだ……」

那珂「さ、行こ?」

泊地「……ウン……」コク

泊地(……歌……)
……
…………
………………

夕食の後、泊地水鬼は自室に戻った。

先ほどの那珂とのやりとり、歌をうたったこと

それらを頭に浮かべて、彼女はいつしか余韻に浸っていた。

泊地「…………」ギシ…

泊地「……歌……」

泊地「……那珂……」

泊地「…………」
――――シズメ
泊地「ッ!」

泊地「ハァーッ、ハァー……ッ」

泊地「……ウッ……ウゥ……」

泊地「……ドウシテ……?」
……
…………
………………

那珂「よぉし!じゃあ今日こそ~っ」

那珂「歌ってもらうよ!那珂ちゃん渾身の大ヒット曲を!」

泊地「……ア……アれヲ……?」

那珂「そう!」

泊地「……ウゥ……」カァー…
那珂「立って歌う時、こうやって……ちゃんと足は開いたほうがいいよっ」

那珂「その方が、声がよく出るから!」

泊地「コ……う……カナ……」

那珂「そーそー」
泊地「キヅい……テル……ワ」プルプル…

泊地「ハァトの……し……」プルプル…

那珂「ちょーっとー!」

那珂「もっと元気に歌わないとー!」プンプン

泊地「ソ……そんナコト……言われテモ……」オロオロ
……
…………
………………
泊地「恋のトゥーっ、ふぉーぉイレヴン……っ」

泊地「もうゴーぉマカーァ、サなっい……ッ!」

那珂「きゃー!はーちゃんかわいーっ!きゃーっ!」

泊地(モウ……ヤケクソ……)シュン
泊地(ハ……恥ズカシカッタ……)ガクッ

那珂「すごい!すごいよハーちゃん!」

那珂「初めてで、二日でここまで歌えるようになるなんて~!」

泊地「…………」
泊地「……那珂……教えるノ……ウマいかラ……」

那珂「そ、そうかなー……」エヘヘ

泊地「伊達ニ……“とっぷあいどる”ジャなイ……」

那珂「うぅ……」
那珂「……もう、はーちゃん相手だから言っちゃうけど……」

那珂「……那珂、アイドル活動が……上手くいってるわけじゃないんだ……」クス

泊地「エ……」

那珂「那珂は……元々ね」

那珂「艦娘だった頃は、よく前線に出ていたの」

那珂「そこで仲間……まぁ、あなた達もなんだけどね」

那珂「皆が傷ついていくのを間近で見て……それが辛くて」

那珂「私に何かできないか、考えてみたの」
那珂「その答えが……昔よくお姉ちゃんたちが褒めてくれた歌だった」

泊地「……」コク

那珂「で、ある日……皆の前で、即興の歌をうたってみたら……」

那珂「なんとびっくり!皆が喜んでくれたのっ」

泊地「……」コク
那珂「その時だねー、那珂が本当はこうやって」

那珂「皆に喜んでもらえる事の方が好きなんだって……気付いたの」フフッ
那珂「でもね、戦争が終わって……いざアイドルとしてやってみようと思うと……」
那珂「すっごくびっくりした!世間にはいっぱい可愛い子がいるんだねっ」

那珂「みんな、那珂よりもずっと可愛くて……」

那珂「歌やダンスなんかも……ずっとずっと……上手で」
那珂「戦争の片手間でアイドルごっこをやってた那珂なんかじゃ……」

那珂「到底……見向きもされない世界なんだなー……って」

那珂「やっと気づいたの……」

泊地「……ッ」
那珂「……でもねっ」

那珂「那珂はまだまだ、あきらめないよ!」

那珂「いつか、たくさんの人に見てもらえてっ」

那珂「たくさんの人に元気になってもらえる……そんなアイドルに!」

那珂「那珂……絶対になるって、決めたの!」ニコッ

那珂「だから、そうなれるまで……那珂はとことん頑張るよ~!」
泊地「…………」

泊地「……眩しイ……ネ……」

泊地「眩シいよ……那珂は……」
……
…………
………………

那珂「はーちゃんの足……スッゴク綺麗だなぁ」チラッ

泊地「?」ピラピラ

那珂「このスリットなんか、いわゆるエロカワってやつだねー」ツツ-

泊地「や、やメ……恥ずかシイ……」カァー…

那珂「あははっ、顔赤くして可愛いっ」

那珂「スタイルもいいし……」ジーッ

那珂「羨ましいなぁ……」
那珂「そうだ!」
那珂「ねぇ、はーちゃん」

泊地「……ドうしタノ……?」

那珂「歌の方もだいぶ上達してきたからさっ」

那珂「今度はよかったら、一緒にダンスやろうよ!」

泊地「……!」
泊地「ダ……ッ」

泊地「ダ……ダン……ス……」ガクガク

那珂「あれ……どうしたの?」

泊地「!」

泊地「ナ……ナンでもなイっ」

泊地「……教え……テ……」ガクガク

那珂「?」
那珂「こうやって手を取るからぁ」

那珂「那珂に合わせて、踊ってみて!」

泊地「……ウ……ウン……」ガクガク
那珂(やっぱり……なんかおかしい……)

……
…………
………………

那珂「いーち、にーい」サッ サッ

泊地「エト……こウ……?」ス… ス…

那珂「そうそう!」

泊地「……デキ……タ……」サッ サッ

那珂「はーちゃんはやっぱり見込みあるねっ」ウンウン

那珂(う~ん……今の所……)

那珂(……特に問題はなさそうなんだけど……)
泊地「イチ……に……」サッサッ

那珂「……そうそう!」
那珂「で、次は~!」

那珂「ジャ~ンプ!」ピョン

泊地「!」ビクッ
泊地「…………ッ」ガクガク

泊地「ジ……ジャん――――」

――――嫌だ……いやだぁぁっ
――――うわあああぁぁぁぁぁ!

泊地「ッ!」ブルッ…

那珂「あれ?」

那珂「はーちゃん??」

泊地「ハッ……ハッ、ヒッ……ハッハァッ……!」ガクッ

泊地「ハァッ……ハァッ……」ガクガク

泊地「ア……アァァ……ッ!」ゼィゼィ
那珂「ちょっと、はーちゃん!?」

那珂「はーちゃん!」
……
…………
………………

泊地「ハァ……ハァ……」

那珂「お、落ち着いた……?」

泊地「ハァ……ハッ……ア……」
泊地「……だメ……ヤッぱリ……!」ブルブルッ

泊地「自分の意志デ“飛ビタイ”と……私が思っテモ……!」

泊地「最期ノ時……頭カらコビりつイテ……ッ」

泊地「カ……体ガ……!」

泊地「ウ……ウゥゥ……ッ!」ガクガク
那珂「さ……」

那珂「最……期……?」
泊地「ハァ……ハァ……」

泊地「私達……深海ノ者は……ネ……」

泊地「皆……ニンゲンが生み出シタ……モノの……一つニ過ギ……ナイ……ノ」

那珂「え……」

泊地「ニンゲンが……作り出シタ物……」

泊地「そこカラ……生まレタ怨嗟……憎悪……」

泊地「……ソシテ……最期の時ノ恐怖が……そノマま刻みツケられテイルの……」

那珂「……!」

泊地「ソレガ……形にナッタだけ……」

泊地「ソレガ……私達ノ……ルーツ……」
泊地「トテモ……苦しイ……!」ガクガク…

泊地「イゼん二……自分達が何をシテイタのか……覚エてもイナイのニ……!」ブルッ

那珂「……っ」
泊地「未知ノ恐怖ハ……ニンゲンさえ排除スレば……」ガクガク

泊地「そう思ッテ……私達ハ戦っタ……ノ……!」ブルブルッ
泊地「デモッ!」ガシッ

那珂「っ!」

泊地「……デモ……」

泊地「…………」ポロ…ポロ…

泊地「ダメ……だッた……!」ガクッ…

那珂「……はーちゃん……」
泊地「……コワイ……よ……」

泊地「ドウスレバ……イイノ……?」
泊地「私達ハ……モウ……」

泊地「コノ世界ニ……生キテハイケナイノ……?」
泊地「ワ……タシ……ハ……」ポロ…ポロ…

ギュ

那珂「……ごめんね……はーちゃん」

那珂「すごく……怖い目にあわせちゃったんだね……」

泊地「…………」ガクガク
那珂「でもね、はーちゃん」

那珂「その怖いって気持ちは……包み隠しちゃだめだよ」

泊地「エ……」ポロ…ポロ…

那珂「だって……」
ドックン ドックン
那珂「こうやって、私があなたの鼓動を聞いているのも」

那珂「あなたが“怖い”って思うのも」
那珂「あなたが“今を生きている”なによりの証なんだから」ニコッ

泊地「……!」
那珂「今を生きているのは……」

那珂「紛れもなく、あなたなんだよ」
那珂「それに、怖いと思った時はそれと同じか……」

那珂「それ以上の楽しい気分になればいいんだよっ」

泊地「……楽シイ……気分……」

那珂「そう!」
那珂「だから……怖いことが嫌だからって」

那珂「生きてちゃいけないなんて……悲しいこと言わないで」

那珂「今を生きている、あなた自身を大切にして」

那珂「……お願いだよ」

泊地「那珂……」

ス…

那珂「……んじゃ!」

那珂「ダンスはここまでっ!」ニコッ

那珂「よーく動いた後だし、お菓子タイムにしようよ!」

泊地「…………」ヘナッ…
那珂「今日は何食べるー?」

那珂「またポテチー?それとも甘いのー?」サッサッ

那珂「さぁ……どっち!」バァーン
泊地「…………」

泊地「……ア……甘イの……」ニコッ
……
…………
………………

それから翌日のこと……

北上しつつあった低気圧は西に逸れ、ついに那珂の迎えが来る日がやってきたのだ。

那珂「短い間だったけど……お世話になったね、二人ともっ」

艦爆「コチらコソ……」

艦爆「那珂サマがいらっシャル間、屋敷はトテモ賑やカデした……」フフッ
泊地「那珂……」

泊地「……私も……アリガトウ……」

那珂「はーちゃん……」ジワァ
那珂「……あ、そうだ!」

那珂「今回はぁ……なんとなんとっ!」

那珂「お世話になった二人のために~っ」

那珂「今からぁ……那珂ちゃんスペシャル☆ゲリラライブを行っちゃいま~すっ!」ニコッ

泊地「エ……!」
泊地「…………クスッ」
艦爆「ナ、那珂サマっ、それハ……ドウい……」

パチパチパチパチ

泊地「……」ニコ

艦爆「!」

艦爆(水鬼サマガ……笑ッテイル!)

那珂「えへへ……応援ありがとーっ☆」キャピッ

那珂「それじゃ、さっそく一曲目……行っちゃいましょ~!」

那珂「まずは……これっ!」
……
…………
………………

突如始まった一人と二人のゲリラライブ。
スピーカーもマイクも使わないそれは、

はたから見れば、とてもこじんまりとした様相を見せている。

……だがそれは、他で行われたどんなライブよりも笑顔に溢れ、

その場にいる者の心に一生残る、かけがえのないライブだった。

那珂「――――♪」

パチパチパチ…

泊地「……」ニコニコ

………………
…………
……

那珂「ついに……ラストになっちゃったね~っ」ハァ…ハァ…

那珂「でもでも~悲しまないでね~っ!ちゃんと、二人のハートに!」

那珂「那珂ちゃんの気持ち……しっかりプレゼントしちゃうから!」
那珂「では……最後はぁ~もちろんっ、この曲!」

那珂「恋の2-4-11っ、いってみよーっ☆」キャピッ

こうして、最後の曲が始まった。
イントロ部分を自ら口ずさみ、徐々に徐々に……サビへと向かってゆく。

歌っている那珂本人はもちろんのこと、

それを聞いている二人も、不思議と体が動いていった。

そんな時のことだ。

那珂「恋のトゥーフォーっ、イレヴンっ♪」

那珂「ハートが高鳴――」ピョンッ

那珂と従者は見た――
自身の大きなジャンプに合わせ、眼前の泊地水鬼の白いドレススカートがふわりと舞った瞬間を。
彼女の足が、地面からスッと離れたのだ。

スタンッ
「「!!」」
泊地「……!」

泊地「……ア……ア……!」
那珂「……!」

那珂「はーちゃん……!」

従者「水鬼サマ……!」

もう、あの声は聞こえなかった。
彼女はこの時をもって、生まれて初めて、

自らの意志を以て“飛ぶ”ことができたのだ。

――それは、彼女の脳裏にあった恐怖
その恐怖を、自らの意志を以て乗り越えたことを意味した

泊地「……ネェ……!」

泊地「……トベタ……!」フルフル
泊地「私……トベタ……ノ……!」

従者「エェ……!」

従者「私モコノ目デ……シカト見届ケマシタヨ……!」フルフル
泊地「……ア……!」

泊地「……アァ……!」

泊地「ネェ……!那珂モ見……」

那珂「…………」ポロ…ポロ…
その時、那珂は思わず

自身がステージに立っていることを忘れてしまった。

泊地「ドうし……テ……」

泊地「那珂ガ……泣くノ……?」
那珂「……あははっ、なんで……だろ……?」グスツ

那珂「お、おっかしいなぁ……」

那珂「なかちゃんは……」

那珂「うたを……とどけなくちゃ……いけない……」

那珂「のに……!」ポロ…ポロ…

那珂「はー……ちゃ……」
泊地「……ウ……ん……」

那珂「おめでとう……!」
泊地「アリガ……トウ……!」
………………
…………
……

――それから幾ばくかの時が流れた。
静かだった深海は今……

そこに住まう子供達の歌声が響き渡るようになっていた。

イ級「ワーレハ!」

ロ級「ウーミノーコ♪」

ハ級「シーラナーミーノーッ」
PT「サーワーグ♪」

北方「イーソベーノ♪」
泊地「マーツーバーラニ~……♪」
ロ級「水鬼サマ!歌エタ!」キャッキャッ

PT「キャハハッ!」ピョンピョン

北方「歌エター!」

泊地「エエ……皆……トテモ上手……」ニコッ

あれから泊地水鬼はこの深海で、皆に歌を教えていた。
かつて自分が那珂にそうしてもらったように、

自身も後世へ歌を紡いでいくことができる。
深海の皆が笑顔になれる――――そう理解したのだ。
イ級「水鬼サマー!」

泊地「ン……ナァニ?」
イ級「水鬼サマノ“歌ノ先生”ノライブ!」

ロ級「行キタイヨー!」

泊地「フフ……ゴメンネ……」
泊地「今、アノ人ハ……“皆ノ”アイドルナノ……」

泊地「今度ノライブノチケットモ……深海カラジャ、ナカナカ……」

「「エェーッ!?」」

泊地「……サ、モウ遅イカラ……」

泊地「ミンナ……今日ハモウ帰リナサイ……」ニコッ

「「チェーッ」」
泊地(ソウ……)

泊地(モウ……ライブノチケットハ……トレナイノ……)

泊地(今度ノライブガ……那珂ニトッテノ……ラストライブ……)

泊地(ソレガ終ワレバ……彼女ハ人並ミノ幸セヲ享受デキルノ……)

泊地(デモ……ヤッパリ)

泊地(寂シイナ……)グスッ
艦爆「水鬼サマ……」

泊地「!」

ゴシゴシッ

泊地「ド、ドウシタノ……?」

艦爆「実ハ……」

その日、深海に一通の封筒が届いた……

驚くべきことにそれは、陸から深海へ送られた歴史上初めての郵便物だったという。

中には、二枚のチケットが入っていた。
泊地「……!」

泊地「二枚ジャ……子供達ニ怒ラレチャウヨ……」クス

泊地「那珂ノ……バカ……ッ」ポロ…ポロ…
――――――――――fin――――――――――――
このお話は、これで以上になります。

泊地水鬼の考察を見て、キ-77との関連を示唆した説が大変興味深かったので取り入れました。
今回は設定を自分なりに噛み砕いた形となっているので、人によって違和感はあったかもしれませんが……

ここまでよんでくださった方、楽しく書かせていただきありがとうございました。
元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458364973/

-那珂, 泊地水鬼