艦これSSまとめ-キャラ別これくしょん-

艦隊これくしょんSSのキャラ別まとめブログ


川内

【川内SS・艦これ】提督「俺の嫁艦をバカにすると言うのか?」

司令「バカにしてる訳じゃねーよwwwただ金剛っておまwwwしかも嫁艦って、まだレベル30だろwww」

提督「何がおかしい」

司令「完全に薄い本買ったりして新参ホイホイされた感じだろ?www」

提督「だからなんだ」

司令「紅茶紅茶バーニングラァーブwww頭のネジがぶっ飛んでんじゃ無いか?www」

提督「ぶっ飛ぶのはお前の頭だ」

憲兵「で、殺しちゃった訳か」

提督「反省も後悔もしていませんよ。あいつはあそこで殺しておかなければならなかったんです」
憲兵「被害者はDNA鑑定しないと誰か分からない状態だったらしいね」

提督「当然の報いです」

憲兵「とりあえず君には刑が言い渡されるまでここに居てもらうよ」

提督「あれは正当防衛でした。もし反撃しなければ僕の心はズタズタに切り裂かれる所だったんです。弁護士を呼んでください」

憲兵「悪いけど裁判も何も無いんだ。君はそう……今月中にはクビチョンパだから」

提督「なんてことだ。そんな事になったら金剛が悲しんでしまう。あなたを殺してでもここから出なくては」

憲兵「これはその金剛から預かった手紙だ」

提督「まさか中身は見ていないでしょうね」

憲兵「すまない、規則だから」

提督「ラブレターを勝手に読むとはなんと無粋な」
『提督、お元気デスカ?私がバカにされて我慢できずに殺人を犯したと聞きました』

『提督は本当に優しい人デース。話を聞いた時、申し訳ない気持ちがありつつも嬉しくおもってしまいまシタ』

提督「何を言っているんだ。妻をバカにされたら誰だっ」

『でも私は追いかけられる恋より追いかける恋がしたいのデース。って言うか、殺人犯とケッコンとか絶対無理デース!さようなら、お元気で」

提督「金剛……」
提督「憲兵さん、今すぐ僕を殺してください」

憲兵「それを執行する権利は私にはないから」

提督「……」

憲兵「とりあえず拘留するわけだけど、最近ロリコンの摘発が増えていてね。もう男子の部屋は一杯なんだ」

提督「なら今すぐここで殺してください」

憲兵「まあきみは提督だったみたいだしきっとうまくやれるさ」
憲兵「ここが君を収監する部屋だ」

提督「ずいぶん広い部屋ですね。牢屋って鉄格子の汚い所だと思ってましたよ」

憲兵「もう皆寝ているようだがココは大部屋だ。仲良くしろとは言わないが揉め事は起こさないでくれ」
提督「なんかいい匂いがするな」

提督「……」

提督「さて、縄になりそうな物でも見つけて首を吊ろうか」

時雨「それはやめて欲しいかな。部屋が臭くなるじゃないか。解体されるまでとは言え僕たちはここで一生を過ごすんだから」
提督「時雨?艦娘のキミがどうしてこんな所に?」

時雨「それはこっちのセリフだよ。どうして解体待ちをさせられてる僕達の部屋にキミがいるんだい?」

提督「俺は……」

時雨「なるほど。それで人を殺めてしまったんだ」

提督「結果その艦娘にも嫌われて俺の元を去ってしまったけどな」

時雨「それは酷い話だね。どうしてそこまでしたんだろう?僕にはわからないよ」

提督「周りはみんなそう言うけど俺は間違った事をしたつもりはない。悪即斬が俺の掲げる唯一の正義だ」

時雨「違うよ、僕が言ったのは金剛の話さ。そこまでしてくれた提督を見捨てるなんて理解できないって事」
時雨「僕もね、ここに来る前……来た理由は人達を殺したからなんだ」

提督「穏やかじゃないな」

時雨「提督と秘書官が集まるパーティーで僕の提督が他のゴミみたいな提督に囲まれてバカにされてたのが我慢できなくてね」

提督「それでまとめて撲殺を?」

時雨「まさか。パーティーには秘書官が同伴しているんだよ?いくらなんでも戦艦や空母に囲まれちゃ僕なんてひとたまりもないよ」

提督「まあ、そうなるな」

時雨「でも簡単だったよ?戦艦や空母なんて沢山食べ物を積み上げればしばらく戻ってこないからね」

時雨「あとは提督を囲ってる連中の首に釣り糸を巻きつけてまとめて絞殺さ」
提督「そんな事をしたら提督が悲しむだろ?」

時雨「面白い事を言うね。キミだって同じような事をしてここに来たんでしょ?」

提督「立場が逆なら考えも変わるさ。もし俺の為にそこまでしてくれる艦娘がいたら嬉しい以上にそんな事をさせてしまった悲しみや情けなさが湧いてくる」

時雨「それならそれで良かったんだけどね。僕の提督は違ったよ」

時雨「人間を殺した僕はただの殺人鬼にしか見えなかったんだろうね。もう大丈夫だよって笑ったら眉をひそめて僕から離れて行ったよ」

時雨「そして他の秘書官が事に気づいて駆け寄って来た時は僕を守るどころか、こいつが勝手にやった事だ!って叫んでたよ」

提督「胸糞悪い話だ。そこまで自分を想ってくれた艦娘を見捨てるなんて」
時雨「秘書艦達は凄い剣幕で僕に詰め寄ってきたさ。提督に捨てられた僕はそのまま死んでも良いと思ってた」

時雨「でも僕は運が良いんだか悪いんだか……殺される前、会場を警備していた憲兵に捕まって今に至るって訳さ」

提督「お互い守りたいものを守っただけなのに辛いな」

時雨「そうだね」

58「何言ってるんでちか。そんな事で人を殺めるなんてどう考えてもおかしいでち」
提督「ゴーヤもいたのか」

時雨「キミだってここに居るって事は何かしでかしたんだろ?」

58「ごーやはそんなくだらない事でここに来たわけじゃないでち。ほんとにほんとに許せなかったのでち……」

時雨「理由はどうあれここに来る艦娘なんて解体を待つだけの身。裏切りや殺しくらいのものさ」

提督「じゃあやっぱりキミも提督の為に?」

58「ごーやは違うのでち。ごーやが殺したのは……自分の提督だった人間なのでち!」

提督「なんと……」

58「ごーやは提督が許せなくて爆殺してしまったのでち。でも後悔はしてないでち」
58「ごーやはずっと艦隊のエースだと言われていました」

提督「突然語りだした」

58「キス島辺りにはよく新人を連れていったものでち」

58「提督はごーやに1番頼れるエースだからみんなを引率してくれと言っていたでち」

58「引率と言っても空母のみんなが撃ち漏らした敵の気をひくだけなんでちけどね」

58「それでも提督に頼られると言うのは悪くない気がしていたのでち」

3-2-1出撃後

赤城「ゴーヤさん、申し訳ありませんでした。私達が至らなかったばかりにご迷惑を……」

58「いたた……気にすることは無いでち。これくらいお風呂に入ればあっという間でちからね」

加賀「いいえ、この責任は私達航空母艦を代表して瑞鶴に取らせましょう」

瑞鶴「はぁ!?あんたがミスばっかするからゴーヤ先輩に迷惑かけてんでしょうが!!」

翔鶴「瑞鶴、静かにしなさい。ゴーヤ先輩は大怪我をしているのよ」

58「こらこら、ケンカはやめるでちよ。加賀も瑞鶴も良くやっているでち」

皐月「ごめんね、ボクの実戦経験の為に……」

58「これは誰もが通る道。さっき赤城にも言ったように皐月が気にすることは無いでち」

58「鎮守府に帰ると提督はすぐドックにいれてくれたでち。ごーやは大切にされていて幸せだと思っていました」

58「お風呂から上がるとすぐ新しい空母達と皐月をつれてキス島へ」

58「みんなも疲れが酷くなると一旦休憩になって、ごーやはその間オリョールへ行くように言われていたでち」

58「精神的や肉体的には辛くても、ごーや以外には務まらないと思い頑張っていたのでち」

58「でもあの日、提督が401達と話しているのを聞いてしまったごーやは……」
58「なんとか生きて帰って来れたでち……今回は燃料80、きっと提督も喜んでくれるでちね」

401「提督!!」

58「な、なんでちか?執務室から大声が?」
401「ゴーヤはもう限界です!だから私達にも手伝わせてください!」

500「ろーちゃんも手伝いますって!」

提督「何を言い出すんだ急に」

401「急じゃありません!ずっと言ってるじゃ無いですか!!」

500「オリョールならろーちゃんが行きますって!」

58(やれやれ、2人とも余計な気遣いを。気持ちは嬉しいでちけどね。ごーやはエースとして)

提督「お前達エースはもっと大切な場面で働いてもらうから」

提督「あんな雑用はゴーヤにでもやらせておけばいいんだよ」

58「!!」
500「提督、それ、ダメ、ですよね?ブラック、ですよね?ねえ!?」

提督「そんな悪い言葉どこで覚えたんだ?うちは違うよ」

401「だったら私達にも!」

提督「しおい、お前達は風呂が長すぎる。ゴーヤ以外はみんな改装済みだろ?イムヤはやりたがらないし」

提督「やっぱりスマホを与えたのは間違いだったな。いらない知識まで身につけてしまう。ゴーヤのように使いづらくて困る」

401「……っ!失礼します!」

58「しおいは泣いていたでち」

58「本当はすっごく怒ってたけど、その涙を見たら少し心が落ち着いて平静を取り戻せたのでち」

58「でも執務室に入ったごーやを見て提督が笑顔で言った言葉は……」

提督「おっ!待ってたぞ我が艦隊のエース!次はまたキス島に行ってくれ。お前にしか務まらない重要な任務なんだ」
58「その後のことはよく覚えて無いでち。身体中血だらけで生暖かった事くらいでちね」

58「あと、爆発音で駆けつけた艦娘のみんなに連れられてココへくる直前、しおいや他の潜水艦も泣きながら何度も何度も謝っていたでち」

58「こんな事になるまで助けられなくてごめん。提督を止める事が出来なくてごめんって」

58「それを聞いて心がスッと楽になったでち。ごーやは提督に恵まれなかったけど、仲間には恵まれていたんだって」
58「あの提督はもういない。ごーやが居なくなっても新しい被害担当艦はでないし、仮に似た様な提督が来たとしても今のみんなならきっと助け合って乗り越えられるはずでち」

58「そしてごーやは解体されてもみんなの心に生き続けるのでち。1番古い付き合いのイムヤなんて」

提督「……待てよ。確か最近オリョールでイムヤが単艦出撃させられてるのを見たって聞いたが」

58「ま、まさか、きっと見間違いでち!」

提督「そうだな。それにもし本当だとしても君がいた鎮守府の確率は低いだろう」

58「そうでち。きっとそんな子はいないのでち」

提督「まぁ髪が薄いピンク色でゴーヤみたいだったとかよく分からない事を言ってたし」

58「!!」

イムヤ『ゴーヤ!あんたが鎮守府からいなくなっても私達はずっと一緒だから!!ほら、髪だって染めてお揃いなの!……ずっと、ずっと忘れないから!!』
58「やっぱり人間なんてクズばっかりでち……!」

川内「分かる。分かるよその気持ち」
川内「私は立場が逆って言うのかな?キス島には旗艦として何度も通っていたの」

川内「言われてた事は一緒だけどね。お前がエースだーとかさ」

川内「やっぱり嬉しかったよ。こんなに期待されてるんだって」

川内「でも周りはそうじゃなかった。いつも攻撃の対象になっちゃう潜水艦の子、疲労が取れない内から出撃させられる空母の仲間達」

川内「楽しく戦意高揚してた艦なんて開幕攻撃もしない、被弾もしない私だけだったのよ」
川内「出撃がない時は仲良くやってたのよ?まぁうるさいうるさい言われてはいたけど」

川内「でもキス島に行くと明らかに雰囲気が違った。みんな口数が減って明らかに不満そうな顔をしていたの」

川内「それを見たとき私はみんなに迷惑かけてる。だから早く練度を積んで迷惑かけない様にしなきゃって……」

川内「しばらくして最初の改装の日、私が緊張しながら工廠に行こうとしたら提督が付いてきてくれて」

川内「私の改装が終わるまでずっと待っててくれたの」
改装後

川内「改装終わり?どこか変わった?ねえ提督、私強くなったのかな?」

提督「まだ改装したばかりだからな。こっちに来てごらん」

川内「なに?」

提督「改装して早々悪いんだけど近代化改修もしていいかな?疲れてないか?」

川内「近代化改修までしてくれるの?もちろん大丈夫!早く強くして!」
川内「近代化改修終わりっと」

提督「出来る強化は全て終わったな。明日からもバリバリ働いてくれよ?」

川内「まかせてよ!」

提督「それでこそ我が艦隊のエースだ」

川内「えへへ」

提督「そんなお前にプレゼントがある。受け取ってくれるか?」

川内「これは……!夜偵?いいの!?」

提督「夜戦はお前の得意分野だろ?存分に使ってやってくれ」

川内「はわあぁ……!提督ありがとう!大好き!!」チュッ
川内「この時は考えもしなかった。この人を殺す事になるなんてね」
川内「それから私はヤル気増し増しで頑張ったよ。疲れなんて全然なかったし、何日でも戦える気でいた」

川内「でもそんな私と反比例する様に随伴艦のみんなは明らかにヤル気を無くしてるみたいだったかな」

川内「その時は私も必死で、夜戦になれば夜偵も飛ばしてるし敵だって駆逐艦くらいなら倒せるのにどうして真面目に協力してくれないの!?って」

川内「そんな自分勝手な事ばかり考えてた」

川内「そしてとうとう誰も付いてきてくれなって、きっとみんなは特別扱いされてる私を気に入らないんだって……」

川内「だから私も意地になって1人でキス島へ向かったの。もちろん結果は言わなくても分かるよね」
川内「轟沈しそうになった私を抱えてくれたのは赤城さん」

川内「みんなをまとめて指揮をとって敵を殲滅したのは加賀さん」

川内「誰よりも早く私の怪我を心配してくれたのは千歳さん」

川内「千代田さんは泣きながら何度も私に謝ってくれてた」

川内「イムヤちゃんは遠くで見てたけど目を見ればすぐにわかったよ。凄く申し訳なさそうな顔をしてたから」

川内「みんなが優しいのは改めてわかった。けどそれなら尚更どうして協力してくれなかったのかが分からなかった」

川内「修復が終わって再びキス島へ行く時、メンバーはガラッと変わってた」

川内「提督が言うには赤城さん達の疲労を抜くためにしばらくこのメンバーで行くって」

川内「キス島は初めてって子ばかりで心配はあったけど、経験者の私がしっかりしなきゃって逆にヤル気が出てきたんだよね」

川内「練度は格段に落ちちゃったけどキス島の敵を殲滅するには十分すぎる戦力で私達はどんどん練度を積んで行った」

川内「そして2度目の改修の日。私の全てが変わった……うぅん、全てが終わった日」
川内「1度目の改装と違って2度目の改装は見た目もガラッと変わってすっごくドキドキしたっけ。提督がみたらなんて言ってくれるかなってさ」

川内「ドアを開けると最初の改装と同じ様に提督が待ってくれてた。同じ服装で同じ場所に……」

川内「1つだけ違ったのは目。新しく改装された私はどう?……なんて、聞く勇気も湧かない程冷め切った興味の無い目をしてた」

川内「提督は私から装備を全部取ったら「近代化改修」って言って居なくなっちゃったわけ」

川内「1度目とは明らかに違う態度。それを見て言葉の意味を理解するのは簡単だよね。ああ、私は近代化改修されるんじゃなくて、近代化改修の材料にされちゃうんだって」
川内「その日から私は一切出撃する事も無くなって、初めて見る部屋に閉じ込められたの」

川内「近代化改修に使われるまでここで過ごすんだって事はすぐに理解できたよ」

川内「私が部屋に入ると何人か出て行くのが見えて、よく見たらそれは赤城さん達で……」

川内「でも誰も目を合わせてくれなかった。会わせる顔が無いって感じかな」

川内「それでようやく分かったんだ。みんなが私の練度を上げる事に協力的じゃなかった理由」

川内「長く在籍してるから知ってたんだ。近いうちに私がどうなっちゃうか」

川内「後から聞いたんだけど赤城さん達はあの日、私がドックに入ってる間すっごく抗議してやめる様に言ってくれてたみたい」

川内「それで部屋に閉じ込められたって」
川内「部屋にいる間も食事は出てた。近代化改修までは大切な素材だからね」

川内「毎日食事を持ってきてくれた明石さんには本当に嫌な仕事させてたと思うよ」

川内「提督の命令で逆らえないとは言え、この部屋を管理させられてるんだもん」

川内「それからしばらくは結構楽しかったよ。空母や戦艦、近代化改修される艦があつまってさ」

川内「解体されるわけじゃ無い。誰かの一部となって戦い続けるんだ!みんなそう思う様にしてた」

川内「次は戦艦になったりしてーとか言いながら……でもいざ近代化改修で部屋から出て行くのを見送る時は悲しかったよ」

川内「そんなある日、私は部屋で足を捻挫して明石さんに医務室へ連れて行かれたんだ」
川内「ちょっと捻っただけなのに大袈裟だなーって思ったんだけど、もしかしたら明石さんは何か理由を付けて外を散歩させてくれたのかもね」

川内「久々に部屋から出るとやっぱり気持ちよかったよ。夜戦は大好きだけど昼間も悪く無いって思ったもん」

川内「ドックに漬ければすぐ治りそうだったけど、さすがに提督の許可なくそれはマズイからって包帯を巻いて」

川内「帰ろうとした時にそれは起こったの」
「明石ー、いるかー?」
川内「聞き覚えがある声が2つ。明石さんが慌てて出て行った時、カーテンの隙間から見えたのは提督と私だった」
川内「提督はあの日と同じ笑顔で、同じ服装で、同じ声色で、同じ優しい目で、その子にお前はエースだって言ってた」

川内「言われたその子はあの日の私と同じ笑顔で、同じ期待に応えたい目で、同じ……全部同じ……」

川内「きっとあの子も1度目の改装が終わればすぐに近代化改修され夜偵を渡され、大好きと言って抱きつくのだろう」

川内「その時に渡されるのはきっと私の夜偵。私の夜偵?じゃあ私があの時渡された夜偵は誰の?」

川内「ああ、そうか。もしかしたらあの日もこんな風にカーテンの外から私が私を見ていたのかもしれない」

川内「近代化改修された私の身体にはその子が入っているのかもしれない。私もこれからあの子の一部になるのかもしれない」

川内「そしてあの子も私と同じ様に……」
川内「この負の連鎖はどこまで続くんだろう。もうすぐ改装が終わる。私も終わる」

川内「あの子も幸せからいずれ地獄に突き落とされる。嫌だ、嫌だ……」

川内「もう私にあんな思いさせたく無い。赤城さん達にあんな思いさせたく無い。明石さんにあんな思いさせたく無い」

川内「誰にも、誰にも……今ならやれる。後ろからコレで殴れば。提督を殺せる。全部終わらせる事が私には出来る」

川内「私は手元にあった救急箱で提督の頭を思いっきり殴り撲殺した」

川内「改装を終えて出てきたあの子には悪い事したけどね。気を失って倒れちゃってたけど恨まれてるんだろうなぁ……」

天龍「んな訳ねぇだろ。きっと誰かが事情を説明してくれてるだろうから安心しろって」

川内「天龍さん?」

天龍「まぁ同じ様に提督を殺しちまった俺が言っても仕方ねぇか」
提督「お前は世界水準軽く超えてる天龍じゃないか」

天龍「フフッ、怖いか?」

川内「いつの間にいたの?」

天龍「世界水準軽く超えてるのは当然なんだけどな。俺の仕事はもっぱら遠征だけだったんだ。何故か分かるか?」

川内「実は世界水準超えてなかったとか?」

天龍「違う!俺以外に世界水準を軽く超えてる奴が山ほどいたからだ!」

天龍「装備できる方の数が多い奴、馬鹿みたいな火力の奴、しまいにゃ開幕雷撃するやつまで現れやがって!」

天龍「まぁそれは別に良いんだ。時代の流れって奴だからな。俺もいずれは改二で……と、話がそれちまったな」
天龍「そんなこんなで俺は毎日毎日ガキ共を連れて遠征に出てたんだ」

天龍「駆逐艦は決まって睦月型でよ、龍田も他の海域に出てたみたいだな」

天龍「睦月型だけ4人の艦隊、龍田が2人連れて行く艦隊、後は俺が4人連れて行く艦隊」

天龍「別にガキは嫌いじゃねぇし鎮守府のみんなの為と思ってな、せっせと働いてたさ」

天龍「でもガキ共は違う。他の駆逐艦が遊んでる時もアイス食ってる時も休み無しだ。そりゃ不満も溜まるさ」
天龍「だから俺は時々遠征途中で寄り道してガキ共にアイス食わせたりしてガス抜きしてやってたんだ」

天龍「任務が早く終わった日はおもちゃ買ってやったりもしたな。自分達も特別に良い事が無いとやってられないだろ?」

提督「そうか。でも少し安心したよ。ブラックと言っても給料は支払われてたんだな」

天龍「はあ?んなもんあるわけねーだろ。1度ガキにだけでも小遣いやってくれって頼んだら」

天龍「遠征して遊んでる暇なんてないから必要無いって突っ撥ねやがったよ」

提督「じゃあアイスやおもちゃはどうやって手に入れたんだ?」

天龍「別に……街に出りゃ早く簡単に稼ぐ方法なんていくらでもあるさ」
天龍「それでも疲れが取れるわけじゃねえ。次第にみんな疲労の色が隠せなくなってきたさ」

提督「まてまて、遠征なら疲労度は大丈夫だろ?」

天龍「そりゃお前達の勝手な考えだろ。人間ってのは荷物持って何キロも歩いた時疲れないのか?」

天龍「ましてや海は敵だらけだ。偶発的な戦闘もあり得る」

提督「そんな話は知らないぞ」

天龍「お前ら提督は遠征に制限時間を設けやがるからな。何時間で帰って来いってよ」
提督「それは距離的に少し余裕を持たせているし十分可能な設定のはずだ」

天龍「なにが十分だ。どうせ目的地まで真っ直ぐ線引いて勘定したんだろ。その日の天候や波の高さは関係なくよ」

天龍「その線上にはヤバい海域だって存在する。でも迂回してりゃその十分可能な設定時間じゃ間にあわねぇ」

天龍「ならヤバいと分かってても突っ込むしかねぇだろ」

天龍「毎週月曜日は編成を少し変えてドラム缶積んだら東京急行だ。帰ってきた時弾薬が減ってるのは何故だ?遊んだからか?」

天龍「違う!俺たちは遠征途中でも戦ってんだよ!」
天龍「とは言えガチでやりあう訳じゃない。深海棲艦ってのは不思議な奴らでよ、テリトリーに入りさえしなけりゃ攻撃してこねーんだ」

天龍「だからヤバい海域に入った時だけ威嚇射撃しつつ一気にそのテリトリーを抜ける」

天龍「だから滅多な事がない限り被弾はしない」

提督「そうだったのか……」

天龍「それでも肉体的精神的な疲労は計り知れない。帰りも同じ道を通ると思ったら気が重かったさ」

天龍「威嚇射撃するには弾薬が必要だ。帰りの弾薬はあるかとか考えながらな」

天龍「気が付いたらあんなにいつもニコニコしてた睦月の顔から笑顔が消えてにゃしぃとか言わなくなっちまってたよ」

天龍「そしてあの日、如月がいなくなった日に睦月は完全に壊れちまったんだ」
天龍「俺の不注意だったんだ。比較的安全な海域だと油断して……しっかり目を光らせてりゃ守れたはずだ」

天龍「帰り道、最後尾にいた如月は疲れていたのかフラフラと陣形を崩して離れて行っちまった」

天龍「俺がその事に気がついた時、如月はもう深海棲艦のテリトリーに入っちまってた」

天龍「助けに行こうとしたが間に合わず、暴走して突っ込んでいく睦月を制止するのが精一杯だった。情けねぇ……」

天龍「他のガキも呆然として動かなくなっちまうし。もしあそこがヤバい海域だったら全滅してたかもしれねえ」

天龍「艦娘を1人失い、責任は全部俺が取るつもりで執務室へ向かった」
天龍「行きは6人、帰りは5人で執務室に入った俺たちをチラッと見て提督は言ったよ」

「ご苦労。引き続き東京急行の遠征に行け」

天龍「なんのお咎めも無し?いや違う、こいつは1人欠けた事にすら気付いていないんだ」

天龍「俺は拳を握りしめながらその日あった事を告げた。それでもあのクズは涼しい顔して」

「新しいのを用意しておく。ドラム缶も数に限りがある今後は気を付けてくれ」

天龍「それだけだ」

天龍「俺が握った拳を振り上げたその時、俺の傍からすごいスピードで走って行く睦月が見えた」

天龍「次の瞬間、睦月はテーブルにあった果物ナイフでそれを滅多刺しにしていたよ」

天龍「あの可愛い外見からは想像もできないような恐ろしい言葉を叫びながらな」
天龍「俺が睦月を止めた時にはもう虫の息だったがそいつはギリギリまだ生きていた」

天龍「血まみれの睦月をそこから引き離し、手に持っていたナイフを取り上げて俺はそのクズにトドメをさしてやった。心臓を一突きさ」

天龍「とにかく睦月をなだめて落ち着かせてから他の4人にどう説明するか考えると皐月が近づいて来て」

「ごめんよ睦月、全部背負わすような事をして、ボクが変わってあげれば良かった……」

天龍「それに続くようにみんな睦月の元に集まって血まみれの睦月を怖がる事なく泣きながら抱き合ってたよ」

天龍「姉妹が沈んだのにあの態度、たまたま睦月が最初に飛び出しただけでみんなギリギリだったんだろう」
天龍「俺は睦月達に今日あった事は忘れるように言った」

天龍「そいつを殺したのは俺だ。睦月も刺したがトドメをさしたのは俺だ」

天龍「なにも2人捕まる事はない。罪が半分になる訳でもねーしな。お前らもしっかり睦月を支えてやれ」

天龍「お前達は俺の分までこれからも海を守ってくれよ。次はきっと良い提督に巡り会えるからな」
天龍「で、俺は今ここにいるって訳だ」

睦月「うん……でもごめんね、天龍ちゃん」

天龍「気にすんなって……ああ!?なんでお前がココにいるんだよ!?」
睦月「えへへ……やっぱり付いてきちゃった」

天龍「付いてきちゃったじゃねーだろ!まさか余計な事言ってねぇだろうな!さっさと帰れ!」

睦月「ダメだよ。ほんとは睦月が悪いんだもん。ちゃんと罰は受けなきゃ」

天龍「罰って……ここに送られるって事はどういう事か分かってんのか!」

睦月「うん。睦月型のみんなにはちゃんとお別れ言ってきたよ」

天龍「ばか……お前……」

睦月「大丈夫だよ。1人じゃないから怖くないよ?天龍ちゃんが一緒なんだもん」

川内「よっぽど大切な仲間なんだね。諦めなよ、この子はもう何言っても帰らないよ」

天龍「はぁ……」

睦月「にゃははっ、元気出すがよいぞ♪最後まで一緒だにゃしぃ♪」

天龍「ガキが無理してんじゃねーよ。まったく」

ガシャンッ!

戦艦棲姫「話は聞かせてもらった」
提督「戦艦棲姫?」

時雨「どうして深海棲艦がココに!?」

天龍「まずいぞ、ここに放り込まれる時に艤装は全部外されちまってる!」

戦艦棲姫「そう慌てるな。私はお前達と争いに来た訳ではない。出来れば力を行使せず穏便に済ませたいと思っている」

川内「その前に憲兵はどうしたのよ!」

戦艦棲姫「憲兵と言うのはそこにいた人間か?悪いが少し眠ってもらった。目覚めるかは分からんが」

58「こいつやっぱりやる気満々でち!」
戦艦棲姫「私はこの辺りから仲間の反応を感知して様子を見に来ただけだ」

川内「そんなのココにはいないわよ」

戦艦棲姫「いや、お前達の事だ」

天龍「ふざけんじゃねー!俺たち艦娘にとってお前らは敵だろ!」

戦艦棲姫「しかしお前達はその任も解かれて解体を待つだけの身。それにお前達には素質がある」

戦艦棲姫「お前達、艦娘でありながら相当人間を恨んでいるな?」

川内「だったらなんなのよ」

戦艦棲姫「では深海棲艦がどうやって生まれるかしっているか?」

川内「艦娘が轟沈して深海棲艦になるって話でしょ。本当かどうかしらないけど」

戦艦棲姫「轟沈しただけでは深海棲艦になるとは限らんさ。少なからず後悔や未練が無ければな」

戦艦棲姫「ただそんな程度ならイ級クラスだ。私の様な姫や鬼クラスになろうと思うならもっと大きな力」

戦艦棲姫「恨み、憎しみ、怒り……そう言う強い思いがある者にだけ力や言葉を話す知能も生み出す事ができる」
戦艦棲姫「お前達ならそれを十分満たしている筈だ。どうだ?このまま好き勝手使い捨てられて解体されるくらいなら、私達と一緒に人類に復習してやろうじゃないか」

戦艦棲姫「より強い力を得て、お前達を苦しめた提督に復習してやれ」

睦月「そんなのダメだよ!人間がどうこうの前に深海棲艦は悪者だもん!」

深海棲艦「何故私達は悪者なのだ?人間の敵だからか?なら私達から見れば人間こそ悪者なのだ」

深海棲艦「立場が変われば見方も変わる」

睦月「でも!如月ちゃんは……如月ちゃんは深海棲艦に沈められた……!」

深海棲艦「それはそちらがルールを守らなかったからだ。あの海域に足を踏み入れなければ」

睦月「そんなの言い訳だよ!少しコースを外れたくらいで……あんなの酷いよ……うぅっ」

深海棲艦「おかしな話だな。我々がそのラインを越えようものなら侵略だなんだと叫き、関係のない者まで攻撃し、どさくさに紛れてその付近の海域を奪おうとするのはどっちだ」

天龍「お前達が海を侵略しに来たなら撃退するのは当然だろうが!」

深海棲艦「なら私達も海を侵略しにきた艦娘を撃退したまでだ」

天龍「あいつは侵略する気なんてなかった。ちょっと疲れてフラついちまっただけだろ。まだガキだったんだぞ!」

深海棲艦「逆の立場でイ級がフラついて同じ事をしたらお前達は許すのか?攻撃する前に侵入した深海棲艦の話を聞くのか?」

天龍「イ級は話なんて出来ねーだろうが」

深海棲艦「それにガキだからどうと面白い事を言っていたな。うちの北方棲姫から遊び感覚で暴力をふるい何度も何度も物を奪い取る艦娘が」
天龍「あ、あれは……提督の指示だろ。それに俺はやってねぇよ。そんなひでぇ事」

戦艦棲姫「ならその提督はクズだな。子供からプレゼントや食べ物を奪い取れと命令するのだから」

戦艦棲姫「それだけじゃない。私達は皆が皆好戦的では無いからな」

戦艦棲姫「深海棲艦になる前に酷い仕打ちを受け、ただただ静かに暮らしたい。そう思っている連中も多い」

天龍「ならじっとしてろよ」

戦艦棲姫「ジッとしてるさ。それでもお前達は攻め込んでくる。戦う前にカエレと言っても帰らない」

戦艦棲姫「深海で暮らすために集めた資源を破壊、略奪にくる」

戦艦棲姫「海域を侵し、物資を奪い、遊び感覚で子供に暴力をふるい、目当ての物を持っていなければ罵声を浴びせる」

戦艦棲姫「大した正義じゃ無いか。反吐がでる」

天龍「……」
川内「そ、それでも!あんた達がいなけりゃそんな事も起きなかったでしょ!」

戦艦棲姫「存在そのものを否定するわけか。なら何故私達は生まれてしまった?」

川内「なによ、また艦娘が轟沈してどうこう言うつもり?それだってあんた達が沈めなきゃ良いだけの話じゃない」

戦艦棲姫「そうだ。私達は艦娘が轟沈して生まれる。つまりお前達が沈まない限り新たに生まれたりはしない」

戦艦棲姫「なら何故私は生まれた?」

川内「な、なに言ってるのよ」

戦艦棲姫「艦娘は何のために生まれた?」

川内「あんた達から海の平和を取り返すためよ!」

戦艦棲姫「それは違う。そんな物は後から取って付けた都合の良い話だ」
戦艦棲姫「お前達艦娘が生まれたのは大戦が終わって何十年も後だ」

戦艦棲姫「その頃、海には深海棲艦など存在していなかった」

川内「じゃあ何の為に……」

戦艦棲姫「海上パトロールや救急……海上保安が主な仕事だった筈だ」

戦艦棲姫「能力は全てにおいて船より優れ、小回りも利き電探での索敵、空母も艦載機で広く捜索できる」

川内「でも現に深海棲艦は目の前にいるじゃない。まさか波にでも飲まれたとでも言うの?それともサメにでも食べられた?」

戦艦棲姫「そんな間抜けな艦娘はいないだろう。それにその程度じゃ大した深海棲艦も生まれない。見つかったら消されて終わってただろうさ」
戦艦棲姫「最初に生まれた深海棲艦は強い恨みや憎しみを抱いて深海へ沈んでいった。姫になり得る程のな」

川内「だからどうして沈められたのよ!」

戦艦棲姫「沈んだんだよ。自分から海へ身を投げて」

川内「は、はあ?」

戦艦棲姫「余程辛い何かがあったんだろう。お前達が我慢できずに提督を殺した様に、その艦娘は耐えきれず自ら命を絶ったつもりだった」

戦艦棲姫「あの時、もしお前達と同じ様に提督を殺す勇気があったならすぐに解体されて深海棲艦なんてものは生まれていなかったかもしれないな」

戦艦棲姫「だがその艦娘は深海で目を覚ました。肌の色や見た目は変わっていたが生きていた」

戦艦棲姫「艦娘は海に沈んでも死ねない。その深海棲艦はしばらくしてそう気付いたらしい」
戦艦棲姫「記憶は断片的にしかなかったが人類に対する憎悪だけは増幅しハッキリしていた」

戦艦棲姫「この時ようやくお前達と同じ気持ちになった訳だ。提督を殺したいと。だが1人で飛び出しても勝ち目は無い」

戦艦棲姫「幸い考える能力も備わっていた彼女はしばらく身を潜めた」

戦艦棲姫「数日後、同じ海域で海底に艦娘が沈んでいるのを発見した。損傷は無く自分と同じ境遇だったのだろう。そう思い住処にしていた場所へ連れて行った」

戦艦棲姫「艦娘は沈んでも死なない。未練があれば深海棲艦として生まれ変わる。その時はまだあくまで仮定の話だ」

戦艦棲姫「自分は海底に沈んでどれくらいの時間眠り深海棲艦になったのかも分からなかったからな」

戦艦棲姫「だがそれはあっという間に全て肯定された。その艦娘は空母棲姫として私と過ごし始めた」
戦艦棲姫「それからもいろんな場所で同じ様な事が続き、気付けば大艦隊を組めるまで膨れ上がっていたさ」

提督「戦闘もないのに……当時の艦娘はメンタルが弱かった……?」

戦艦棲姫「当時の提督の質が悪過ぎたのだ。好きでも無い相手に毎晩毎晩無理やり……」

戦艦棲姫「今はそういう事が無い様、建造過程で皆が提督に好意を抱く様改良……いや、改悪されている様だがな」

提督「……」

戦艦棲姫「そして戦いは始まった。艦娘は深海棲艦を撃滅する為に、深海棲艦は艦娘を提督から解放し人類を滅ぼす為に」

戦艦棲姫「まあその為にも艦娘には一度轟沈してもらう必要はあったがな」
戦艦棲姫「とは言え好き好んで戦っている艦娘がいるのも事実だ。奴らは平和より殴り合う事を好むらしい」

戦艦棲姫「それに鎮守府での暮らしを悪く思わない艦娘もいた。提督に虐げられるのはいつも一部の艦娘だけだからな」

天龍「……」

戦艦棲姫「だから私達はいつもすぐに艦娘を轟沈させたりはしない。大破まで追い込み様子を見る」

戦艦棲姫「それでも進軍してくる様な無能が提督をしているならその艦娘を救済してやるだけだ」

戦艦棲姫「このやり方で私達はずっと戦ってきた。なのに酷いもんだろ?深海棲艦は増える一方だ」

戦艦棲姫「それもロクな知能を持たないイ級が多くてな。地上には余程無能な提督が多いらしい」

天龍「イ級クラスって事は大した恨みも無いって事だろ……」

戦艦棲姫「恨みが無いんじゃない。恨みを抱く暇も理解をする時間もなかったのだからな」

戦艦棲姫「生まれて間も無く随伴艦として戦場に駆り出され、そして沈んでいく。そんな駆逐艦……いや、お前の言い方で言えばガキ共か」

戦艦棲姫「弾除けに使われて訳も分からず沈んでいくガキ共にそんな人間を恨む時間があると思うのか?」

天龍「……」
戦艦棲姫「数年間争っているうちに、いつの間にか我々は住み分けをする様になっていた」

戦艦棲姫「人間を恨み生まれた私達なのにな。深海に仲間が増えていく内、そんな事がどうでも良くなっていったんだ」

戦艦棲姫「犠牲を重ねて人間に復讐して恨みを晴らすより、今いる仲間を大切にして静かに暮らそうと」

戦艦棲姫「もちろんうちにも好戦的な連中はいて反対する者もいたがな。まぁそれなりに大人しくしていたさ」

戦艦棲姫「この海域ラインを越えれば総攻撃する。だがそこに踏み込まなければ我々は攻撃しない」

戦艦棲姫「暗黙の了解みたいなものだが基本的に守られていた。まぁ遠征だかなんだか知らんがわざわざそこを突っ切るバカもいた様だが」

天龍「ぐぬぅ……」
戦艦棲姫「ただ奴らは今でもこちらに攻め込んでくる。特に夏場はゲーム感覚で海域を奪い返せとか言ってな」

戦艦棲姫「だから我々には仲間を守る力が必要だ」

戦艦棲姫「お前達なら仲間を守る大きな力になる。このまま解体させるのは勿体無い」

戦艦棲姫「共に深海へ来て仲間の為に戦ってくれ。深海の仲間を守り、艦娘の仲間を無能な提督から解放してやる戦いだ」

睦月「睦月は……無理だよ。もう如月ちゃんは解放してあげられないもん……」

戦艦棲姫「なら今度は守ってやればいい」

駆逐棲姫「睦月ちゃん……ごめんね」

睦月「如月ちゃん……?」

戦艦棲姫「私はいつも通り艦娘を救済しただけだ。しかし大破していた訳でも無いのに轟沈するとは……どんな酷い仕打ちをうければそうなるのか」
戦艦棲姫「深海には遠征なんてものは無い」

戦艦棲姫「武器を取り外して蔑ろにする事もない」

戦艦棲姫「仲間を盾にしたり資源を集める労働をさせたりもしない」

戦艦棲姫「ただ仲間と住む場所を守るだけだ」

睦月「如月ちゃん……睦月も、一緒にいても……いい?」

駆逐棲姫「もちろんよ。このまま解体されるなんてダメ。一緒に行きましょう」

天龍「ああ!ったく仕方ねえ!ガキの面倒見るのが俺の仕事なのに放っぽり出して先に解体されるわけにいかねえし!俺も行くぜ!」

川内「ふふっ、子供の面倒見るのが仕事だったんだ♪これが噂の天龍幼稚園?大変そうだから私も手伝ってあげるよ」

58「ごーやはイムヤを助けないと……だから一緒に行くでち!」
戦艦棲姫「決まりだな」

時雨「ちょっと待ってよ。僕は提督の為に人まで殺したんだ。提督のいない場所で生きるならこのまま解体される方がマシさ」

戦艦棲姫「その提督がお前を見捨てたからここに居るんだろう?」

時雨「じゃあこの人を提督として連れて行ってよ。それなら僕もついて行くから」

提督「え?」

戦艦棲姫「最初からそのつもりだ。お前には深海へ提督として来てもらおう」

提督「そんな急に。え?」
戦艦棲姫「人を殺したんだ。少なくとも数年か数十年は檻の中」

戦艦棲姫「出て来た所で社会的地位は全て失い、お前に出来ることは大切に思ってきた艦娘達が不幸になるのを眺めるだけだ」

戦艦棲姫「ならば今すぐ深海へ行き、一刻も早く艦娘を救ってやるべきじゃないのか?」

提督「しかし深海って……提督も沈めば死んで深海提督になるのか?」

戦艦棲姫「いや、水死体になる」

提督「……」

戦艦棲姫「安心しろ。お前はただ深海で指揮を取ってくれればな」

提督「だが呼吸の問題が」

戦艦棲姫「それもこれで解決だ。……んっ」

提督「ん?……んんっ!?ブハッ!な、なに!?」
睦月「天龍ちゃん?前が見えないにゃしぃ」

天龍「ばっ!ガキにはまだ早いっての!」

戦艦棲姫「お前の肺の中に私の息を吹き込んだ。これで深海の圧力にも耐えられるし呼吸も大丈夫だ。多分」

提督「多分……」

戦艦棲姫「初めての試みだからな。まぁ多分大丈夫だ。ただし定期的に深海棲艦か息を吹き込まなくてはならないがな」

時雨「ねぇ、早く僕を深海棲艦にしてよ。次からは僕が提督に息を吹き込むからさ」

戦艦棲姫「では行こうか。新しい家、深海へ……」

阿武隈「みなさーん、私の指示にしたがってくださーい」

大井「こうして北上さんと一緒に出撃出来るなんて幸せです♪」

北上「まぁこう言うお政くらいしか出番ないもんねー」

島風「ねぇねぇ、これって誰が1番早く目的地にいる敵さんを倒せるか競争なんですよね?早く行こうよぉ、はやくぅ!」

暁「もう、あんなにはしゃいじゃってホントにお子様なんだから!」

長門「まったく。遊びでは無いのだぞ」

白露「い、いい……いっちばんヤバい状況かも!!敵襲、敵襲ー!!」
長門「慌てるな。ここはもう敵の住む海域、落ち着いて状況を説明しろ」

白露「て、敵艦隊の旗艦は防空棲姫です!」

長門「ここはまだ最初の海域……それも1番最初の目的地点だぞ」

陸奥「主力かしら?どうするの?一度引き返して提督に知らせる?」

長門「フフッ、いいじゃ無いか。私は燃えてきたぞ。最近は良いところを全て大和型に持って行かれていたからな」
長門「全艦隊に告ぐ!陣形は第四警戒航行序列!戦闘隊形をとれ!!」

白露「でもそれだと潜水棲姫に決定打を与えることができません!」

長門「なんだと?潜水棲姫までいるのか?」

白露「はい。間違いありません……防空棲姫を旗艦にして他の随伴艦も駆逐と軽巡ですが全て姫級です!」

長門「馬鹿な……いくらなんでも戦力を集中し過ぎだ。敵の考えはいったい……」

飛龍「とにかく制空権を確保しましょう!友永隊のみなさん、防空棲姫に気を付けつつ危険ですが攻撃をお願いします!」

蒼龍「その間に私が制空権を確保するわ!」
長門「果たして我々にはあれだけの敵を倒す事が出来るのか……」

陸奥「あら、あなたが弱気だなんて珍しいじゃない。大丈夫よ、私達は連合艦隊……力を合わせればきっとね」

陸奥「それにここは通過地点。無理して敵を倒し切らなくてもいいんだから」

阿武隈「ちょっとちょっと、嘘でしょ!?敵艦に増援!?第二艦隊がやってきます!しかもまた姫級ばっかり!?」

長門「あれはまさか……敵も連合艦隊だと言うのか……?」

陸奥「そんな、深海棲艦をそこまで統率して指揮する提督のような者がいると言うの?」
暁「あっ!支援艦隊がくるわ!」

長門「むっ、どうやら我々の提督も相手の出方を察していたか。最初から支援艦隊をだすとは」

暁「違う違う!支援艦隊は敵なのよ!みんな避けてー!」

長門「!?」

陸奥「みんな慌てないで!落ち着いて対処すれば大丈」

利根「陸奥!おぬし第三砲塔が爆発しておるぞ!」

陸奥「ばっ、爆発なんてしないんだから!」

長門「冬の作戦で余裕ぶっていた訳ではないが、まさかここまで総力戦になるとは……」
少し前
戦艦棲姫「近々艦娘共が春イベントと称しこの海域へ攻め込んでくるという情報を手に入れた」

戦艦棲姫「いいか。これは夏に来るであろう大規模な作戦の前哨戦でもある。心して戦うように」

集積地棲姫「嫌だな……またあいつら物資を奪いに来るのか……」

北方棲姫「大切な物全部奪っていく。艦娘、キライ……」

戦艦棲姫「そうならない為に連れてきたのではないか。我々の提督をな」

提督「この戦い必ず勝つぞ。我々が暁の水平線に勝利を刻むのだ」
戦艦棲姫「ふざけた連中だ。作戦前に毎回この様な予定航路を海にばら撒くとは」

提督「ここからここを通り、最終目的地はこの海域の奪還か……」

空母棲姫「なら最終目的地のここに主戦力を配置すれば良いのね」

離島棲鬼「他にも要所要所に指示を出せる姫か鬼級が必要ね」

提督「いや、最終目的地にそこまでの戦力は要らない。要所要所にもな」

空母棲姫「じゃあどうすんのよ」

提督「我々が迎え撃つのはこの地点、通称E-1だ」
港湾棲姫「しかし……敵は多方面から攻めてくる……」

提督「確かに。だがこのE-1は全部隊が通る場所。ここを越えてからいくつかの部隊に分かれるはずだ」

戦艦棲姫「それでどれくらいの戦力をそこへ集める気だ?」

提督「飛行場姫を旗艦に空母棲姫、港湾棲姫、北方棲姫、離島棲鬼、レ級改」

提督「更に防空棲姫を旗艦に軽巡棲姫、駆逐棲姫、潜水棲姫で艦隊を組み、連合艦隊とする」

離島棲鬼「……」

提督「どうした?何か不満があるなら遠慮なく言ってくれ」

離島棲鬼「どうして私だけ姫じゃないのよ!納得いかないわ!」

提督「そうか、分かった。では今夜私の寝室に来なさい」

その夜、離島棲鬼は姫初めで離島棲姫になった。
提督「装備は今渡したものを使ってくれ」

防空棲姫「なかなか良い対空電探じゃない。これならバンバン撃ち落としてやれそうね」

潜水棲姫「こっちは艦首魚雷でち!がんばりまーす♪」

駆逐棲姫「がんばるにゃしぃ!大いに期待するがよいぞ♪」

駆逐棲姫「海面に上がったら風があるから髪が痛まない様に気をつけなきゃ」

軽巡棲姫「やったー!夜偵だぁー!夜戦なら私に任せてよね!」

空母棲姫「おい、私達に渡されたこの装備はなんだ」

提督「烈風改と旧村田隊だが」

北方棲姫「烈風!烈風!」

港湾棲姫「よかったわね」

空母棲姫「だが数がおかしくはないか?ほとんどが烈風改じゃないか」

提督「いや、それで良い。戦いにおいて制空権は命だ。制空権を取られては勝つ事が困難になる」

提督「皆には対空射撃で航空機を落とし、更に烈風改で航空戦を完全に我が物とする」

提督「拮抗じゃだめだ。制空権確保が最低条件。もしこれを達成したのならこの戦い、九分九厘勝利したも同然だ」

提督「更に防空棲姫を最前線に置く事により、仲間がやられてメンタル面で不安を抱える事も無い」
提督「しかし敵には応急修理と言う手段がある」

提督「我々が大破で止めるのを良いことに、そのまま進軍して轟沈したとしても修理してしまうと言う厄介な物だ」

戦艦棲姫「ではいくら初戦を主戦力で叩いても抜けられてしまうのでは?」

提督「だが修理要員も設置するにはある程度攻撃面での犠牲が出るからな。修理出来るのはほぼ一度きりだ」

提督「初戦で我々がやるべき事は3つ。制空権の確保、そして必ず一隻は大破に追い込む事、最後は駆逐をある程度損傷させる事だ」

程度「これにより敵司令部施設の動きを封じる」

防空棲姫「楽勝ね。任せなさい」

飛行場姫「面倒くさいからぁ、ぜーんぶ大破にしちゃいましょー♪」
提督「初戦での戦いで殆どの艦隊は恐らく引き返すだろうが、稀に修理要員を積み大破進撃をしてくる艦隊もいるだろう」

提督「次の戦いではその大破艦を集中的に狙ってもらう」

軽巡棲姫「弱ってる連中にトドメをさすなんて俺のやり方じゃねぇが、まあ平和の為ならしかたねーか」

駆逐棲姫「うん、僕も提督の為ならなんだってするよ。なんでもね」

提督「ここは2人を旗艦にヲ級改とタ級を付けて任せる。必ず大破艦に応急修理をさせるんだ」

提督「もし女神が現れ完全に修復されたら再びその艦を大破まで追い込んでくれ」

軽巡棲姫「でもよぉ、もしその応急修理要員を積んでなかったらどうすんだ?沈んじまうだろ?」

提督「それならそれで良い。そんな無能の下で生きるくらいなら……私達の目的は海の平和と不幸な艦娘の救済なのだからな」

駆逐棲姫「救済……そうだね。ここに来て僕達が救われた様にきっと誰が来ても幸せになれるよ」
提督「まぁ勘違い……積み忘れと言う理由で大破進撃をさせた可能性も否定は出来ないが」

提督「その程度の低い意識なら同じ事。そしてこの先は確信犯、艦娘が轟沈すると分かっていて進軍するクズの所行」

提督「我々はそれを断じて許すわけにはいかない。次の戦いには飛行場姫を3人配置する」

飛行場姫「わかったわ。無慈悲……慈悲をもって轟沈させてあげれば良いのね。まかせなさい、私そう言うの得意だわ♪」

提督「いや、ここでは烈風改だけを飛ばして貰う」

飛行場姫「それじゃあ沈められないわよ?」

提督「ああ……私も甘いな。口では意識が低い、クズだなんだと言っても、もしかしたら指示の伝達ミス……」

提督「退避と命令した筈が進軍していたなんて可能性もあるかもしれない。そう思いたい気持ちがあるんだ」
提督「ここで気付いて引き返すなら追わない。だがそれでも進軍すると言うのなら……」

戦艦棲姫「我々の出番だな」

提督「その時は深海へと救済してやろう」

空母棲姫「なーんかブレてるわねぇ。沈めろって言ったり見逃せとか言ったり」

提督「こんな提督には付いてきてはくれないか?」

空母棲姫「一生ついて行くわよ。どこへでも。結婚したい」

提督「作戦は間も無く行われるだろう。くれぐれも忘れないでくれ。これは防衛戦だ、深追いはしなくて良い」

提督「支援艦隊も出す。もし怪我をした艦がいたらその時に入れ替わってくれ」

提督「戦いの後、誰1人欠けず、誰1人増えていない、そんな結果を願う」
解散後

戦艦棲姫「随分お疲れの様だな」

提督「ああ、地上での記憶は殆ど消えてしまっているが全てじゃない」

提督「未だに艦娘は鎮守府で幸せに暮らして欲しいなんてどこかで思ってる自分がいるんだ」

戦艦棲姫「戻りたいのか?」

提督「そんな事ないさ。ここは良いところだ。面倒な付き合いは無いし多分上よりよっぽど平和だよ」

戦艦棲姫「ならいい。向こうの部屋で少し待っていろ」
提督の部屋

ヲ級「ヲー」ぽこぽこ

提督「いつも悪いな。おかげでここでは酸素とか気にせず過ごせるよ」

ヲ級「ヲッ」

提督「とは言え最初は数時間おきに空気を吹き込まれないと生きていけなかったが最近は数日間は持つ」

提督「俺も大分深海に馴染んで来たのかな」

ヲ級「ヲー」ぽこぽこ

ヲ級ちゃんは地上から空気を運んできてくれる

戦艦棲姫「待たせたな」

提督「おっ?なんか良い匂い」
戦艦棲姫「紅茶だ、飲め。気分が安らぐぞ」

提督「紅茶……」

戦艦棲姫「紅茶はお前の好みでは無かったか?私は好きでよく飲むのだが」

提督「なんか…………昔、紅茶が好きだった人を好きだった気がするんだ……」

戦艦棲姫「それは私を口説いているように聞こえるのだが」

提督「あ、いや……」

戦艦棲姫「冗談だ。では私も用意をしてくるとしよう」
提督「……もし」

戦艦棲姫「ん?何か言ったか?」

提督「万が一敵が最深部まで辿り着いて、更に戦況が悪」

戦艦棲姫「万に一つもココに敵は辿り付かんさ。それに来たとしても私がこの海域は守る」

戦艦棲姫「だからお前はここに座って仲間を信じていろ。その代わり……」

提督「その代わり?」

戦艦棲姫「皆全力で戦っているのだ。目を離しちゃNOなんだからな!」ビッ

提督「……(戦艦棲姫って実は愉快なやつなんだろうか)」
こうして春イベントE-1の初戦で猛威を振るい、挑戦した提督はことごとく追い返され深海棲艦は歴史的大勝利をおさめた。

更に勢いに乗る深海棲艦は夏イベントでも同様の作戦で艦娘に完勝。

提督の多くは新たな海域への進出を諦め、提督業を廃業。艦これは3年と少々続いたサービスを終了した。
終わり
ここまでありがとうございました。
元スレ:http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457365203/

-川内