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【曙・漣SS】朧「朧月夜に吠える」【艦これ】

2016/12/26

――輸送艦、甲板

朧「あれが祭りの光……船の上からでも見えるんだね、きれい」

潮「これが……これがお祭り!」

曙「祭りに行こうなんてクソ提督にしては粋な計らいよね」

漣「祭りキター! 第七駆逐隊、出陣準備じゃー!」

朧「お祭りかぁ……」

漣「ボーロ、こういう時ぐらい羽目を外してもいいんだよ」

朧「うん、分かってる」

漣「分かってないじゃん」

朧「これが素だから」

漣「ま、そういうことにしといてあげるけどね」

朧「それよりミーティングが始まるから行くよ、みんな」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

提督「いいか、お前ら。今日は存分に遊んで楽しんで、見てこい! 多少のことなら大目に見てやる」

艦娘一同「はい!」

提督「ただし有事に備えて連絡手段は確保しておくのと単独行動は避けること。いいな?」

艦娘一同「はい!」

潮「でも有事ってどんなことかな?」

曙「クソ提督みたいなやつに暗がりに連れ込まれるとか?」

提督「聞こえてるぞ、曙。お前たちはそこらの人間よりもずっと強いからケンカして大暴れするなよ」

曙「ふん、分かってるわよ」

提督「それならいいんだがな。とにかく楽しんでこい」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――祭の会場
漣「本日二度目の祭りキター! ってなんなんですか、この人だかりは!」

曙「なんだっていいわ! とにかく前に進むわよ!」

潮「ひゃあ!? 曙ちゃーん!」

漣「うろたえない! 七駆はうろたえない!」

朧「みんな、そんなに慌てないで……って、お面屋さん?」

――『しあわせのお面屋』
お面屋「いらっしゃいませ、お嬢さん。お気に召す物があるとよいのですが」イヒヒ

朧「色々ある……動物とかよく分からないロボットに赤い帽子の髭おじさん?」

朧(気になる……でも値段がどこにも書いてないのが怪しい。ちょっと危ないお店なのかも)

お面屋「蟹のお面は切らしたばかりでして。肩の相棒さんにぴったりだと思ったんですがねぇ」

朧「そうですか……あ、このお面……というか仮面は? 鬼みたいでちょっと怖いけど」

お面屋「それはお嬢さんには相応しくありませんねぇ。いやはや、まったく似合わなくてお笑いですな!」

朧「え? あ、あの?」

お面屋「お嬢さんにはこれが一番!」

朧「白い狐? これって一体?」

「……」

朧「え……お面屋さんが消えてる? でもお面はあるし、なんなの?」

朧「どうしよう……でも、この狐は笑ってていいかも。ちょっと被ってみよう」

白狐朧「……視界が狭いから、やっぱり外さないと」

カニ「いない」

朧「お面屋さんでしょ、分かってるよ」

カニ「三人がいない」

朧「え? ど、どうしようカニさん。はぐれちゃったし、提督も単独行動はダメって言ってたのに」

カニ「連絡は?」

朧「インカムは船に置いてきちゃった……浮かれちゃってて」

カニ「しょぼーん」

朧「漣みたいなこと言わないの」

カニ「探さないと」

朧「……でも待って。単独行動はダメって言われたけど、一人と一匹なら単独行動じゃないよね……たぶん」

カニ「大丈夫じゃない」

朧「あの提督だから大丈夫……たぶん。こうなったら祭りも楽しみながら三人を探そう」

カニ「カニは知らない」

朧「……たまにはいいじゃない。まずはおなか空いてるし何か食べないと」

カニ「たこ焼き、人形焼き、綿あめ、ケバブ」

朧「そんなには食べられないでしょ。焼きそばともろこし、どっちがいいかな」

カニ(ケチめ、両方買えばいいものを)

朧「焼きそばにしよう……こっちのほうがおなか一杯になりそう」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

朧「おなか一杯にならなかった……」

カニ「他も買う」

朧「ダメだよ。欲張っちゃダメだから我慢我慢」

「朧か? 一人で何してるんだ?」

朧「提督!? これはその」

提督「今日も蟹は元気そうだな」

朧「え、このカニですか? はい、元気です!」

提督「よし、蟹が元気なら俺に付き合え」

朧「はい! ……え?」

提督「ようし、決まりだ。大方、他の七駆が朧を残して迷子になったんだろ? 合流だけはせんとな」

朧「それなら私だけでも」

提督「それとも俺と一緒じゃ嫌か?」

朧「そういう意味では……分かりました、お願いします」

朧(提督はいつもと違って浴衣姿だった。今まで気づかなかったけど、日焼けした腕がたくましくって海の男って感じがする)

提督「腹減ったな。朧はどうだ?」

朧「はい……いえ、朧は特には」

提督「そうか。ああ、主人。たこ焼きを頼む。鰹節多めでな」

朧(ほんとはおなか空いてるのに……)

カニ(……不器用な)

提督「なあ、たこ焼き食べてくれないか? 間違って二つ注文しちまった」

朧「……それなら仕方ないですけど」

提督「ああ、仕方ないな」

「……」ハフハフ

「……」ハムハム

朧「……おいしい」

提督「そりゃよかった」

朧「あの、ごちそうさまです」

提督「ところでチョコバナナは好きか?」

朧「食べたことないので」

提督「そうか、なら食べてみるか」

朧「そんな悪いです!」

提督「すまん、もう買った後だった。食べてくれ」

朧「……ありがとうございます」

「……」モグモグ

朧「……甘い」

提督「なあ、朧よ。お前さん、何をそんなに我慢してるんだ?」

朧「我慢ですか?」

提督「俺にも妹がいるが、なんていうかあいつはもっと欲求に素直だったぞ。私はこうしたいから、こうなってやるんだぞって」

朧「……」

提督「もちろん我慢ができないって意味じゃないが、どうにもお前さんは無理にあれこれ抑えてるように見える。まあ余計なお世話かもしれんがな」

朧「実はお腹……空いてました」

提督「だろうな。気持ちのいい食べっぷりだったよ」

朧「我慢は……してますけど、無理してるつもりはないです」

提督「よく分からん言い分だな」

朧「朧には別に我慢は特別じゃないんです」

提督「つまり当然のことだと?」

朧「はい。でも提督の気遣ってくれるとこ……嫌い、じゃないです」

提督「そりゃ光栄だな」

朧「本当は前に少しだけわがまま言ったことあるんです」

提督「ほう、どんなわがままを?」

朧「今日はもう訓練なんかしたくないとか、魚じゃなくってお肉が食べないとか」

提督「ふむふむ」

朧「そうしたらみんな、すごく気遣ってくれちゃって……神通教官も訓練を軽めに切り上げちゃうし、私だけご飯のおかずが豪華になってて」

提督「望みが叶ったってわけか」

朧「でも、あたしはそんな特別待遇みたいなのは……それで思っちゃったんです。朧は我慢しないとって」

提督「……真面目なんだな、朧は」

朧「……よく言われます。だから朧は我慢するんです」

提督「ほれ、もろこしだ。どんどん食え」

朧「……ありがとうございます」

提督「ま、たまには特別になってもいいんじゃないかねえ」

朧「そうだといいですね」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

朧「そういえば提督はどうしてお祭りに行こうって考えたんですか?」

提督「去年もここの祭に来てたってのと、この祭りには艦娘も参加してるからかな」

朧「そうだったんですか?」

提督「今年はどこかの加賀と那珂が唄いに来るって聞いたし、去年はトラックの提督が大々的にやっていたな」

朧「トラックって五航戦の人たちがいたトラックですか?」

提督「他にトラック諸島はないし、あそこにある鎮守府も一つだけだからな。そこの提督が言ってたんだが、艦娘に自分たちの成果を見せてやりたかったそうだ」

朧「自分たちというと……私たち艦娘のことですか?」

提督「ああ。何かを守っていて、その結果として祭りが行われてるんだと。俺も今年はそれにあやかってみたくなったのさ」

朧「そこだけ聞くと少し不吉な感じがしません?」

提督「そうか? そんなつもりはなかったんだが……」

朧「でも今日は来られてよかったですよ。漣たちと一緒ならもっとよかったですけど」

提督「すまんな」

朧「冗談ですよ。提督には提督の良さがあるって知っていますから」

提督「いいやつだなぁ、朧は。今度は特別なヨーヨーを買ってやろう」

朧「それは結構です。そういえば去年はどんなことやってたんですか、私たちの先輩は」

提督「戦艦と空母の連中が飲食店をいくつかやってたな。普段食べる分、たまには作る側になれとか言われてたみたいで」

朧「そういえば、あの人たちって料理をする印象があまりないですね」

提督「軽空母組はそうでもないんだがなぁ。去年はたこ焼き揚げとか出してたな。たこ焼きをさらに揚げるのはどうなんだって提督仲間で議論になった」

朧「でも美味しそうですよ?」

提督「実際そうだったから、それはそれで美味しいからまあいいじゃんって話になったな」

朧「お祭りに主催者側で関わるのも面白そうですね」

提督(笑ってるし、今のは我慢してない本音っぽいな。来年のために覚えておくか……そしてこの流れなら)

提督「射的でもやってみるか。朧もほれ」

朧「……いいですよ、分かりました」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

朧「何も取れませんでしたね……」

提督「ああ。まあそれがお祭りってもんだ。参加することに意義があるんだ」

朧「なるほど……今度は瑞鶴さんに挑戦してみてもらいたいですね」

提督(逆七面鳥撃ちか……冗談でも瑞鶴に言ったら怒られそうだな)

潮「あ、朧ちゃんがいたよー」

漣「ふぃ~、やーっと合流できた」

曙「心配かけないでよ! ってクソ提督までいるじゃん」

提督「相変わらずお前は口が悪いなぁ、曙」

曙「シスコンこじらせて行き遅れたなんて十分にクソ提督でしょ」

提督「はっはっは、返す言葉もねえ……」

潮「でも提督もそれだけ妹さんを大事にしてたからで……」

曙「ばか言わないでよ。今日だって朧を連れ回してさ、一人でいるのが分かってるんだから私たちにまず連絡するのが筋ってもんでしょ!」

漣「そこは漣も同感かな。ご主人様も漣たちに連絡の徹底をさせたいならご自身がしっかりしてもらわないと困ります」

提督「むぅ……そもそもお前たちも朧を置いていってから俺になんの連絡も寄越さなかったのに、そうまで言える筋合いはないだろ」

朧(どうしよう……空気がちょっと不穏な感じ。一触即発っていうのかな……止めないと)

朧「あの……朧が勝手にはぐれたんだから一番悪いのは朧で……」

曙「この際だから言わせてもらうけど、クソ提督! あんたはね――」

提督「ほう、なんだ? 言いたいことがあるなら聞いてやろうじゃないか」

潮「あの、あの……」

朧(どうしよう……誰も聞いてくれてない……もっと、もっと主張しないと!)

朧「う、う、うう」

朧(声がうまく出ない……そ、そうだ。お面を被ってそれから深呼吸!)

白狐朧「わああああああっ!!!!!」

提督「」
曙「」
潮「」
漣「」
白狐朧「曙ぉ!」

曙「な、何よ!」

白狐朧「あなたはもっと素直になりなさい! 提督に悪態つく度に凹んじゃって、後から慰める身にもなって!」

提督「そうだったのか?」

曙「そ、そそそんなわけないでしょ、このクソ提督!」

潮「お、落ち着こうよ曙ちゃん!」

白狐朧「潮ぉ!」

潮「は、はいぃ!」

白狐朧「あなたはもっと自信を持ちなさい! 七駆で唯一の改二艤装持ちなのよ! 前屈みに歩かないで!」

潮「ふえぇ……」

白狐朧「漣ぃ!」

漣「ほいさっさ!」

白狐朧「カニさんに変な言葉教えないで!」

漣「てへぺろ」

白狐朧「提督ぅ!」

提督「俺もか!」

白狐朧「特にはないです」

提督「……逆に凹むぞ、それ」

白狐朧「はぁはぁ……そして朧は……朧は七駆のみんなが好きです。提督も鎮守府の他のみんなも好きなんです」

白狐朧「みんなのためになら朧は我慢できます。でも、みんなが仲良くしないなら朧だって我慢はしません」

潮「……朧ちゃんはいつも私たちを一番に考えてくれてるんだよね。だけど……違うと思うの」

漣「気持ちは嬉しいけど、潮の言う通りだよ。漣だって仲良くしたいけど、朧がそうやって我慢してないといけないなら漣にはそんな仲良しなんていらない」

曙「……あたしもそう。あたしはもっと朧の本当の言葉が聞きたい」

提督(……俺はもう黙っといたほうがいいだろうな、これ)

白狐朧「あたしだって本当は……」

漣「いいんだよ。今日はお祭りの夜なんだから、祭りの恥は掻き捨てって言うじゃん」

曙「それを言うなら旅の恥でしょ」

潮「あはは……ねえ、朧ちゃん。もう一度、あなたの言葉を聞かせて」

朧(見上げた空では月が霞んで見えて、それは私の名前と同じ呼び方をされている)

朧(朧は春の言葉。でも秋に見えることもある。今のあたしには確かに見えていて)

朧「あたしは……あたしは!」

朧(あたしは月に吠えた)

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

漣「あれは語り草になるね」

朧「やめて、本当に恥ずかしいんだから」

漣「またまたー、満更でもないくせに。ボーロの告白だけでご飯三杯はいけるね」

曙「たまにならああいうのもいいんじゃない? それとクソ提督」

提督「……なんだ?」

曙「さっきは悪かったわね……それと今日はお祭りに連れてきてくれて……その、ありがとう」

漣「デレキター! 曙のツンデレいただきました!」

朧「お赤飯炊かないと!」

潮「抜け駆けはずるいよ、曙ちゃん!」

曙「なんなのよ、あんたたちは!」

提督「ありがとうございます! ありがとうございます!」

曙「クソ提督までなんなのよ! ったく……ほら、あれ見て。古本売ってる」
提督「なんだ、曙は読書家なのか?」

曙「そう言うあんたは本読むの、クソ提督?」

提督「多少なら」

曙「多少? なんだか嘘っぽい言い方して、少しは字の本を読みなさいよ」

提督「肝に銘じとくよ。朧は本とか読むのか?」

朧「いえ、実はあまり読んでません。でも本は読んでみたいです」

提督「よし、気になったのを選べ」

朧「……じゃあ、ちょっと見てみます。提督はどんな本をお読みですか?」

提督「池波正太郎とか山田風太郎かな」

曙(時代劇ね……)

朧「では、これとこれを……これもお願いします」

潮「なんだかよく分からないチョイスだね……」

朧「普段は読まないからね。何が好きか分からないから、これから探してみるよ」

漣「それってすごく朧っぽくっていいと思う、うん、いいね」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――輸送艦、甲板

朧(今日は色々あった……色々あったけど祭りは楽しかった。それに七駆のみんなとも……)

朧(それで興奮しちゃったのか目がすっかり冴えてて寝つけないから海風に当たりに来たんだけど……先客?)

朧「えっと……江風、だっけ?」

江風「んっ、そういうあんたは朧だったっけ。どしたーって考えてることは同じか?」

朧「眠れなくてね。江風もそうなの?」

江風「そーだよ。姉さんたちと遊んでるのが楽しかったし、江風は夜型だかンね」

朧「ああ……そうだったね」

江風「けど、今日の祭りに一つだけ心残りがあってな。お面屋がどーしても見つかンなくってさー」

朧(入り口の近くにあったけど……そういえば、あれってなんだったんだろ)

江風「あーいうとこって同じような店って二つとないンだよな。狐のお面が欲しかったンだけど空振りでさ」

朧「狐……ちょっと待ってて」

江風「ん? 夜は長いし、しばらくここにいるつもりだよ」

――――――
――――
――

朧「これ、よかったらどうぞ。白い狐だから、欲しいのとはちょっと違うかもしれないけど」

江風「おー、いいねいいねー。って言いたいとこだけど、これって朧のだろ?」

朧「私も貰い物みたいなものだし、もう使わないと思うから」

江風「んー、けどいくら江風でも人の物はなぁ」

朧「ううん、本当にいいの。こういうのって欲しい人が持ってるのが一番だから」

江風「……あんがとな。これ、たぶんいいお面だよ。大切にするぜ」

朧「そう言ってもらえるとお面も喜ぶと思うよ」

朧「私にはきっと、もうお面は必要ないから――」

そうして見上げた夜空では、朧月夜が笑っているような気がした。

おしまい。
朧、誕生日おめでとう。一日遅れだけど曙も誕生日おめでとうってことで七駆物を自分なりに書いてみました
本当は朧の秋浴衣に合わせて書くつもりだったんですが、進水日になったから結果オーライなのかな
江風は夏イベでお迎えできていたので、そのお礼というか願掛けみたいな体で書かせていただきました
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